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解決した事は嬉しいのに釈然としませんね



「じゃあ、お前の見立てでは本来の誘拐の標的は2人目の被害者のランズマン子爵家の長男アンガス?」


「そう」


「それが南のトグルに居ると」


「うん」



頷きながら、私は部屋に運び入れて貰った資料とトグルの地図を広げる。

トグル町は南にある小さな町で、昔とある事件で嫌な名前の覚えられ方をした事がある場所。

それらは義賊と呼ばれていた。

国の悪い貴族達から金品を強奪してはスラムや暮らしに不安がある人達へとばらまいていたらしい。

兄の話しで聞いた事があったので調べると、昔トグルの町で暮らしていた義賊の長…それは現在トグルで協会の協会長をしているらしい。

彼等とランズマン子爵との確執があると聞いたのは少し前にフィズが話していた内容だった。

ランズマン子爵、学園には貴族が少ない事もあり彼の噂も普通に過ごして居るだけで耳に入ってきたものだ。

彼等の両親は子供を学園に不正入学させただとか、貴族との繋がりを求めて学園で講演会を開いているだとかそう言うまだ可愛げのある話しから、昔ランズマン子爵と義賊は兄弟の間柄だったとか。

そう言う根も葉も無い噂を拾って覚えていたのは我ながら記憶容量の大きさに辟易するけれど、兎にも角にも彼等の繋がりは薄くでもあると言えた。

そこからは妖精さん達にYes・No診断だ。

目的はランズマン子爵に対する主導権の回復、現在義賊であった彼等の家はジリ貧で協会の貯蓄に手を出したみたいだ。

金銭のトラブルか?との問いに妖精さん達はYesと答えた。

残りのふたりはフェイクでもあるが、子爵と伯爵家の子供として取り引きの材料にする気だったらしい。

既に場所と人数の把握は済んでいるので、捕らえられている詳細な地図等を書き込んだものをキースへと朝送っている。

事のあらましを聞いたキースはまた黙り込むと、ムッと眉根を寄せて私を睨んだ。



「暴走は仕方無いとして…まあ、動くよ」


「信じてくれるの?」


「俺が信じると思ってお前がアレを送って来たのなら、その信頼には応えよう。

アースマルクに生まれた男としてこの国の安寧に従事する事は何よりも優先すべき事柄だ、ましてやひと昔前の義賊と子爵家の癒着なんて相当なスキャンダルだしな。

飛び付く虫が湧かないうちに対処する方が良いに決まっている」


「…簡単に言うと?」


「……お前を全面的に信用して動くから、安心しろ」


「うん、ありがとう」



少し視線をずらして言ってくれたキースの言葉に素直にお礼を言う。

やっぱり信じて良かった。


義賊と言えばとても良いイメージと、もちろん盗賊なのだから悪いイメージがあった。

元々知ってるのは名前だけだったので義賊についても色々と調べたのだ。

彼等は本当に凄い人だと思う、警備や警戒されたエリアを乗り越え価値のあるお宝に手を伸ばす事、悪なる貴族を探し出し調査するスキル。

しかし同時に残念でもあった。

実力のある人達を盗賊としてしまった世の中にも、そうなるしか無かったと思ってしまった境遇にも。

もっと活かす場所は無かったのだろうか?

誰かに導かれてきた、そんな生き方しかして来なかった私が生意気を言える訳もなく、ただ少しモヤモヤが残る心に蓋をする。



「義賊の兄弟…ランズマン子爵家だが昔はトグルの町出身だそうだな」


「そうみたいだね」


「貴族は選ばれし者だと言う奴が居る…どちらかと言えば俺もそちら側の人間だと思ってる。

だがだからこそ踏み越えてはいけないところ…領域があるはずなんだ。

こいつらはそれを踏み越えてしまったんだな」



悲しそうに響くキースの言葉に私は頷いた。

兄弟であった彼等に何があったのかは分からない。

それこそ昔彼等に何があって、片方は義賊として生きて来たのかその理由など分かるはずもなかった。



「私はただ聞いただけなの。

だから私は…何もしていないのと同じなんだよ」


「何勘違いしてるんだお前は」


「え?」



言われた言葉の意味が分からなくて顔を上げると、キースは言い切った。



「ほぼ詰みの状態からの起死回生の策をよく思い付いた。

もちろん危険を伴う事でもあったが、家族に相談して実践する勇気も、事件を解決させようと言う心意気も、行方不明者を心配するその気持ちもお前だから出来た事だろうが」


「……」


「でもだからって多様するなよ。

味をしめてまた暴走しだしたら面倒見ないからな」


「今は見てくれるんだ」


「お前が相談持ちかけて来たんだろうが」


「でも相談に乗ってはくれるんだ」


「……うるせー」



押し黙ったキースは、飲み干したはずの紅茶カップを持ち上げる。

しかしもちろん中身は入っていないので思わず笑ってしまった。



「新しいの淹れようか?」


「…お前のは飲めたもんじゃねー、俺が淹れる」



深いため息を吐き出したキースに「私も」と早速甘えた。

やっぱりこの人はとても面倒見の良い人だなと再確認する。

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