【番外編】アリアナの目覚め(アリアナ視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
前話の続きですが、アリアナ視点です。
明るい月明かりの中、私はフワフワと浮いている。
ここはどこだろう?はっきりしない頭の中で、ぼんやりと考えている。
そうしていると、黒髪を後ろで一つに纏め上げ、膝丈のワンピースにジャケットを羽織った女性が歩いて来た。見覚えのあるその姿に、今見ている世界が前世で、歩いているのは私だと思う。
ああ、また私は前世を漂っているのかと考えていたら、前世の私はいつの間にか交差点で立ち止まっている。そこに立っていたらダメ!とやっぱり叫んでしまう。前世の私に聞こえるはずもなく…車のクラクションの音がした。
そこで目が覚めた。
ルーカス殿下から前世の最後を聞いてから、時々みる夢。私が話を聞いて作り出した夢なのか、本当に前世で起きた事なのか…
ふと、周囲を見ると、見覚えの無い天蓋付きの大きなベッドに寝ている。
ああ、あの後、私も意識を失ってしまったのだっけ。
ここは何処?と思って上半身を起こそうとすると右肩がチクチクと痛む。それでも何とか頑張った。
周囲を見渡すと、ベッドに突っ伏して寝ているクロード殿下が目に入る。
私は目を擦ろうと、右手を上げようとしたら、また傷がチクチクして上手く動かせない。
仕方がないので、左手で目を擦り、もう一度良く見てみる。
やっぱりクロード殿下だった。
ここは王宮?客間にでも連れて来てくれたのかしら?
殿下を突っ伏して寝させておいて、自分だけのうのうとベッドで寝る訳にはいかない。ベッドを降りようと体を動かすが、思うように動かなかった。
今回は体力を相当消耗してしまったんだ。
ベッドから出る事を早々に諦めたけれど、このまま殿下を放っておく訳にはいかない。殿下はとても疲れている様だし、ゆっくり寝かせてあげたい。
こんな事を言ったら、誰のせいだと叱られそうだけど…
声をかけて、起こそうかとも思ったけれど、せっかく寝ているのに、起こすのは忍びない。
それに起きたら起きたで煩そう。
今回の事件でお説教が始まるな。
寝た子は起こすと大変だと昔の人が言っていたんだっけ。
幸いベッドは広いし、二人で横になっても十分スペースはある。
後は私が上手に魔法が掛けれるか。
重い物を持ち上げる時に使う魔法でなんとかなるかしら?そもそも殿下に魔法をかけてもいいのかしら?
まぁ、殿下ならば、起きたとしても罪に問われる事はないはず。お説教は免れないだろうけれど。
そう思ったら、躊躇なく魔法を掛ける。
殿下の体がふわりと浮かび、ゆっくりベッドの上へと移動する。
そして起こさない様、そっとベッドに下ろした。
彼は目を覚ます事が無く眠っている。
その様子にホッとする。
2枚あった掛布の内、1枚をそっと殿下にかけて、私もベッドに沈み込んだ。
簡単な魔法ではあったが、体力を使い切っていた私はかなりの魔力を消耗してしまう。疲れて果てて、もう一度、意識を手放した。
次に気が付いた時は、黄昏時のオレンジ色の陽の光が部屋に挿していた。
「アリアナ、痛むのか?」
聴き慣れた声が聞こえたので、重い瞼をそっと開くと、クロード殿下の心配そうな顔が飛び込んで来た。
「クロード殿下?」
「わたくし…ここは何処ですか?」
そう、王宮だとは思うのだけど。
「ここは私の部屋だよ。」
「えっ!」
王子様のベッドを占拠するなんて、とんでもない。
私はは慌てて上半身を起こそうとするが、傷が痛み、また枕に頭を預けてしまう。
クロード殿下は私の額に手を当てる。
「アリアナ、そのまま休んでいてくれ。まだ痛むか?熱は下がった様だが。」
私は自分が心配されているにも関わらず、彼の顔色が戻っている事に安心する。
「痛みは少しありますが…今は何時です?わたくしはどれくらい眠っていたのでしょうか?」
「今はアリアナが怪我をした翌日の夕方だよ。」
「えっ!」
そんなに時間が経っていたなんて。
「少し体を起こしてもよろしいですか?」
クロード殿下が私をそっと起こし、背に枕とクッションをいくつか入れて、ゆっくりと寛げる様にしてくれた。
「どこか痛いところはないか?水を飲むか?」
殿下が矢継早に話しかけてくる。
なんだか幼い頃を思い出してしまう。
殿下も兄の様に色々と構ってくれて、幼い私は嬉しかったんだっけ。
「殿下は過保護ですわ。傷は肩だけです。自分で座るぐらいできますわ。」
「無理をするな。ほら、水でも飲め。」
殿下が水の入ったコップを差し出す。
「ありがとうございます。」
私は喉が乾いていたので、一気に飲み干した。
「美味しかった。喉が乾いていましたの。」
そう言えば、殿下は、ホッとした表情になった。
そこへノックの音と同時に兄が入ってくる。
「アリアナ、目が覚めたか?」
二人はベッドサイドに椅子を寄せて座り、殿下が事件の事を切り出した。
「アリアナ、事件の事は覚えているか?」
「ええ。殿下とお兄様にはご心配をお掛けいたしました。ミレーヌやエリス様は?」
そう、ミレーヌはどうしているのだろう。
「エリスはアリアナの家て預かって貰っている。事情の聞き取りが終われば、アカデミーに帰すよ。ミレーヌはまだ意識が戻ったばかりだ。魔法師団の一室に入れている。これから事情聴取だ。」
本来なら王族に刃物を向けた時点で、死罪にされても文句は言えない。
普段、おとなしい彼女がそんな事を考える訳はないはず。まずは死罪を避けなければ。
「殿下、ご温情を。ミレーヌは混乱していたのです。」
「彼女の処分はこれからだ。まだ取り調べ中だ。」
「わたくしも同席させて頂けないですか?」
「それは無理だ。まだ肩の傷があるだろう。大人しくしていなさい。」
「わたくしの傷ならもう大丈夫ですわ。」
「まだダメだ。痛むのだろう?」
「もう痛みは治りました。」
そう強がりを言ってみる。
クロード殿下は私を見据えた。
「そうだな。アリアナが大人しくしているのであれば、死罪は回避させよう。」
それって私が何か問題を起こすと決めつけている?
確かに色々と問題に遭遇した事は認めるけれど。
とにかく、彼女を死罪にさせる訳にはいかない。
「わたくしはいつも大人しくしていますわ。彼女が刃物を向けたのは、わたくしにです。殿下ではありません。」
二人が「「どこが…」」と呟いた事は無視する。
「取り調べ次第だが、考えておくよ。」
そう殿下が言ってくれて、ホッとする。
この数日で死罪になる事はないだろう。
兄が横から話しかけてくる。
「アリアナも落ち着いたら、話を聞かせてくれ。」
「はい。わたくしはいつでもいいですわ。お兄様、わたくしをお兄様の部屋へ連れて行ってくださいませ。いつまでも殿下のお部屋にお邪魔する訳にはいきませんから。」
そう言って、私はベッドから降りようとするが、夜着だと気付き、慌てて毛布を引き寄せる。
いくら幼い頃から一緒に育ったとはいえ、夜着姿を晒す訳にはいかない。
「ダメだよ。帰さないよ。暫くここで生活してもらう事になる。」
そう嬉しそうに殿下は言う。
「ここって、魔法師団ですか?」
私は首を傾げる。
「そう。魔法師団の私の部屋だ。」
「何故殿下のお部屋なのです?長々と殿下のベッドを使わせて頂く訳にはいきませんわ。」
「広いのだから、一緒に寝ても構わない。」
クロード殿下は平然と言う。一瞬昨夜、私が殿下をベッドに寝かせたことがバレたのかと焦ってしまう。
自分でも頬が火照るのがわかる。
「殿下と一緒になど、無理です!」
「問題ないよ。昔も一緒に寝たじゃないか?」
えっ?昔の話?昨日の話ではないの?
「君が小さな頃、かくれんぼに疲れて、私のベッドで眠っていたんだよ。あまりにも可愛いので、私も一緒にベッドに入ったんだ。覚えていないかい?」
「そんな昔の事、覚えておりません。」
私は真っ赤になりながらもツンと顎を上げる。
「酷いな。一緒に寝た仲なのに。」
やっぱり昨夜の事かと、一瞬ドキッとする。
クロード殿下は私の両手を自分の両手で包み込む。
一体どうしてこんな事になっているのか。
私の予想では、目が覚めたらお説教の時間だったはずなのに。
慌てて殿下の両手から手を外す。
ドキドキする心臓を宥めながら、なるべく平静に見える様に声をだす。
「紛らわしい事は仰られないでくださいませ。お兄様、早くお部屋に連れて行って下さいな。」
そう兄に助けを求める。
魔法師団にいなければならないのであれば、兄の部屋でもいいはず。気兼ねなく過ごせる方がいいに決まっている。
「酷いな。私よりエリックを選ぶのか?」
「選ぶも何も兄ですから。それにわたくしが殿下のお部屋にいる事自体が外に漏れますと、要らぬ憶測を呼びますわ。」
クロード殿下とクリストファー殿下の争いだけは避けなければ。クリストファー殿下は私の事は愛していないが、自分のものを取られたと難癖をつけてくる可能性がある。
「それはそれで、私は構わない。」
クロード殿下は平然としている。
「わたくしは構います。」
「アリアナが部屋から出なければいいのだ。アリアナは意識不明の重体で生死を彷徨っている事になっている。暫く大人しくこの部屋にいてくれ。」
「は?」
私は目を見開く。今何と言った?
クロード殿下は驚いている私に、王子スマイルで笑いかけながら、言葉を続ける。
「意識不明の者が出歩く訳にはいかないだろう?」
「どうして私が意識がない事などになっているのでしょう?」
「アリアナが無事だと知れば、また何か仕掛けてくるだろう?」
「わたくしなら、大丈夫ですわ。」
「それは、もう信用出来ないね。これは決定事項だ。ファーガソン公爵も了承している。」
「では、せめてお兄様の部屋にしてくださいませ。」
兄が援護してくれる。
「アリアナは俺の部屋に移すよ。俺の部屋はベッドの他に仮眠用のソファーもあるし、俺が毎日使っている訳ではないからな。流石にまだクリストファーと婚約解消していないのに、お前の部屋に泊まらせる訳にはいかない。お前の部屋の隣だからいいだろう?」
兄の言葉は正論だった。
「仕方がないな。」
殿下が折れてくれる。
ホッとした私は気になっていた事を聞く。
「それで、いつまでですか?」
「卒業までだ。」
えっ!そんなに長くここに居るつもりはない。
「それは困ります。わたくしはアカデミーに戻らなければなりません。」
「アカデミーには暫く休むと伝えている。卒業までここにいろ。」
クロード殿下は口角を上げる。さっきの爽やか王子スマイルから一転、反論を許さないと無言の圧力がかかった笑顔だ。
まさかの軟禁宣言に、私は目を見開いてしまったのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回はやっぱり明後日か明々後日に。
未熟者で、はっきりとお約束出来ずに申し訳ありません。




