やっと決闘する
ブックマーク登録、評価、ありがとうございます。
初投稿でしたので、評価いただき、感動いたしました。
決闘場面です。
剣は殿下の顔を擦り、髪の毛の一部を切り取りながら、カランと床に転がった。
クリストファー殿下は真っ青だ。
練習用の剣ではなく、切れ味の良い本物だから、さぞかし良く切れるだろう。
もちろん、当てる気は無かったが、ちょっと怖い思いすればいいと思ったのは、内緒だ。
「あら、手元が狂いましたわ。」
いえいえ、わざとです。当たり前。
「アリアは容赦ないよなぁ!」
と、レオン様は笑う。
クリストファー殿下は固まっている。
多分、今までで一番身の危険を感じたのだろう。
誰が決闘するか、まだ揉めているらしい。
周囲が煩いのは無視して、空間防御魔法をクリストファー殿下と私の二人だけの空間に作り替え、殿下に剣を向けた。
拘束魔法は解いたのに、まだ剣も取らず、動かない。
仕方ないので、側に寄って、頬を叩く。
「死にたくなければ、剣を取って自分の身は自分で守りなさい!わたくしは本気ですわよ!」
なんだか残念な生徒を持った教師の気分である。
何故に決闘相手を叱咤しなければならない?
やっと殿下が我に返り、剣を振り回しながら、私に向かって来る。
私は軽く躱し、殿下の左右の袖を素早く剣を左右に振り、切り裂いた。私の真紅のドレスがふわりと舞う。
殿下は顔を真っ赤にして、また向かってきたので、今度は上着を切る。殿下の上着はハラリと落ちた。
上半身裸になったが、なんと貧相な体か。
体だけなら、クロード殿下の方が素敵だな。しかし、クリストファー殿下は、もう少し筋肉つけようよ。と思ったのは内緒だ。
殿下は目を見開き、必死の形相で私に向かってくる。
私は意地の悪い笑みを浮かべ、今度はトラウザーズを切り裂く。あくまでも衣類だけ。皮膚に当たらないように慎重に。
私は、剣舞を踊っているように、剣を振るう。
真紅のドレスは大輪の薔薇の様に見えるのだろうか?
ワルツだと一曲分ぐらいだろうか。
結果、殿下は下穿きだけになった。
うん、パンツの王子様が出来上がった。
顔が真っ赤だ。
「この女!」
最後の悪足掻きと、私になりふり構わず向かって来る。
ちょっとスッキリしたので、この辺で止めてあげよう。と私は殿下の剣を叩き落とし、ドレスを気にせず、回し蹴りをした。
殿下は、腹を抱えて座り込む。
ピンヒールが腹に食い込んだようだ。
今日はピンヒール型の暗器を使っていないから、大丈夫なはず。
ここでピンヒールでガンガンと蹴りたい!という、衝動は必死に抑えた。
「まだやりますか?殿下、日頃の鍛錬を怠るから、この様にわたくし如きに、あしらわれるのです。」
「ウゥー」と殿下は、言葉にならない声を出す。
周囲がザワつく。
『いや、あれは普通の人は勝てないでしょう』
と言う声は無視する。
「これが戦場であれば、確実に命を落としていますよ。授業では、皆、殿下が相手であると、わざと負けているのです。負けると殿下のご機嫌が悪くなるからと。それが将来貴方の為になりますか?」
殿下はガクッと項垂れる。
やっぱり教師の気分。
本当なら親や先生がちゃんと教育してくれないといけないのに、何故に私が!
「貴方が責任を負う身でなければ、どんな方であろうとも想い合う方とご結婚されるのは勝手です。しかし貴方は王子殿下なのですよ。恵まれた地位にいるのであれば、それを支えてくれる民に対して責任が生じます。その貴方を支えていく伴侶の方も同じくらいの責任があるのです。」
私は一度カーラに視線を移す。
「私は彼女が身分が低いからとか、私の方が相応しいからと言っているのではありません。彼女が嘘や偽りばかりの方でなければ、貴方の妃にふさわしくなれるよう、喜んで協力したでしょう。いくら身分の高い方でも想い合う方と一緒になる方が、幸せですから。でも人を騙して物を強請ったりする様な方を、側に置く事になれば、王宮に波風が立ち、王の治世も揺らぎます。そのような王家を民はどう思うでしょう?」
クリストファー殿下と目を合わせる。
そして最後の言葉が届く様に、祈りながら言葉を続ける。
お馬鹿だったけど、何年も一緒にいれば、多少の情は湧く。もう最後と思うと余計に。
「王家にいる方こそ、自分自身に厳しくならなければ、国は立ち行かなくなります。特権ばかり振りかざし、自分の好きな事だけしか見なければ、民の心は離れます。そうすれば、この国そのものが危うくなります。どうか良くお考え下さいませ。」
ハッとクリストファー殿下が私と目を合わせた。
何か言いたそうではあったが、言葉にならないようであった。
そして私は空間防御魔法とご友人と警備兵の拘束魔法を解いた。
「皆さま、お騒がせ致しました。わたくしはこれで失礼いたします。どうぞパーティーを続けて下さいませ。では、ご機嫌よう。」
と、優雅に一礼し、転移魔法で姿を消した。
後がどうなろうが、私には関係ない。
私はこれから好きな事をして、平穏で自由な生活を過ごすのだから。
転移魔法で着いたところは、私が経営している店にある私の部屋だ。逃亡準備として、とりあえずアカデミー近くに1店舗用意していたのだ。
本店は王都中心部に、支店は3店舗、なかなか繁盛している。当面の生活も困らないし、これから経営に専念できるのであれば、ますます発展させる事も出来るだろう。
荷物も事前に用意して、ここから別の支店に転移する予定だ。
これからの事を考えて、ニマニマしていると、後ろから「へー。ここがアリアの部屋かぁ。」
と聞き覚えがある声がする。
恐る恐る振り向くと、笑顔のレオン様と、凍りつくような眼差しのクロード殿下と、鬼の形相の兄が立っていた。
「キャー」と叫んで、バスルームに飛び込み鍵をかける。できれば見なかった事にしたい。
何故に3人ここにいる。
攻略キャラとは、関わりたくないのに、何でこうなると、頭を抱えてしまったのだった。
「私の平和な生活を邪魔しないで!」と絶叫した。
(完)
稚拙な文章だったとは思いますが、お付き合い頂き、ありがとうございました。
一応、決闘まで終わったので、完結とさせて頂きます。続きも書いてみたいとは思いますが、先の構想はこれからです。
また、違う登場人物視点も書いてみたいと思っています。それはここで番外編として投稿できればと考えています。