王子様達の求婚
攻略キャラの登場です。
隣国の王子、レオンハルト様が声を上げる。
この人賢いんじゃなかったんだっけ?
脳筋だった?
何で今、口出しする?
「勝てばお前を婚約者として、我が国に連れて帰る。いいだろう?アリア?」
キャーと令嬢達から声が上がる。
「まさかの愛称呼び?」といった声が彼方此方から聞こえる。
確かに練習相手だったから、アリアと愛称呼びでもいいとは言ったが。
何故、決闘に勝ったら、婚約者になれるという理論になるのか⁈
誰もそんな事言ってないし。
寝言は寝て言え!と心で叫ぶ。
せっかく婚約破棄を堂々とできるのだから、私はヒロインの攻略キャラとは、関わりたくない。
恋愛対象とならないよう、かなりお転婆振りを見せていたはずなのに、なぜ?
レオン様が防御空間に断りも無く入ってくる。
彼とは良くこの空間で訓練という名の魔法の手合わせを楽しんでいたので、入り方を知っている。
「あら、レオン様、お国に婚約者がいらっしゃるのではなくって?」
「あれは向こうが勝手に言っているだけだ。決まった相手はいない。だからアリア、結婚しよう!」
公開プロポーズに、私側の令嬢からキャーと悲鳴が聞こえる。
「わたくしもレオン様とご一緒できるのは楽しそうだと思いますわ。でも、わたくしはこの様な事を致しましたので、きっと廃嫡になり、貴族の娘では無くなりますわ。だから婚約者なんて無理ですわ。」
ちょっと令嬢らしく断ってみる。
だいたい、折角婚約破棄できるのだから、邪魔しないで!と心の中で続ける。
「悪いのはそこにいる馬鹿の方だ。身分が必要なら、この国でも奪い取ってから帰るか?」
と、腹黒い笑いを浮かべる。
貴賓席からは、それだけはご勘弁を!と懇願する声が聞こえる。国王陛下?
「レオン様が仰ると、冗談に聞こえませんから。」
「冗談じゃないぞ。好きな女の為に一国手に入れて何が悪い!」
いや、冗談にしようよ。と私は頭が痛くなる。
「アリアの為なら、それぐらい苦ではないぞ。お前を連れて帰れば、一万の兵以上の価値がある。私も両親からお前を奪い取って帰ってこいと言われ、面白くも無いアカデミーにわざわざ入学したのだから、お前さえいれば構わない。」
あっ!やっぱりそっちでのオファーでしたか。
しかし面白くも無いなんてはっきり言いましたね。まあ、私も同感ですが。
「あら、レオン様もわたくしの力をご存知でしたの?どこから漏れたのか、ゆっくり聞く必要がありそうですね。貴方もやっぱりこの力が必要でしたの?それは婚約者としてではなく、軍人としての勧誘ではなくて?」
と笑いながら聞く。
「お前はさっき、俺がお前の事を好きだと言ったのを、聞いていなかったのか?」
「いえ、それは私の力が好きと言う事ではなくって?」
「お前自身が欲しい。お前と一緒にいると楽しいと思うぞ。力が欲しい訳ではない。力なら私も充分に持っている。私と手合わせできる相手もそうそういまいし、その時のお前は生き生きとしていて、楽しそうにしている。そんなお前と一緒に国を守りたいと思うのは、自然な事だろう?」
確かにレオン様は強い。魔力もだが、それ以上に使い方が上手い。敵には回したくない。
私が普段の授業で手を抜いているのも、早々に見つけて、練習相手になってくれたし。一緒にいて楽しい人ではある。
でも、やっぱり私の魔法力に惹かれているとしか、思えない。
「やっぱり軍へのオファーですか。」
と、首を傾げながら言ってみた。
「普段のお前も、力に傲る事も無く、クラスメイトだけでなく、下級生に対しても心配りができる。皆から慕われる。知識も自制心も将来の王妃として充分だ。お前の全てに私の心が持って行かれた。私の妃となってくれ。そこのボンクラとは婚約解消したんだろう?」
なかなか引いてくれないので、次の手を出してみる。
「まあ、嬉しいお申込みですが、簡単に「はい」という訳にはいきませんわ。たった今ですのよ。長年の婚約者から婚約破棄されたのは。傷心の乙女心にご配慮くださいませ。」
と馬鹿王子を見ながら、悲しそうな振りをする。
うん、我ながらいい演技だと思う。
周囲の顔は、引き攣っているが。
レオン様は怖い顔でニヤリとする。
いつもの王子様スマイルはどこへ行った?
「そうか。乙女心を解さなくて申し訳ないが、おれには喜んでいる様にしか見えないが。」
「あら、バレました?こんなバカの相手をしなくて済むのが嬉しくって。」
「馬鹿馬鹿言うな!」とクリストファー殿下が叫ぶ。
「「馬鹿だから」」と二人の声が重なる。
すっかり存在を忘れていたクリストファー殿下。
「レオン様、これはわたくしとクリストファー殿下の問題ですわ。隣国の王太子殿下を巻き込む訳にはいきません。婚約解消が無事に成立しましたら、わたくしは、この件できっと廃嫡されると思いますわ。なので平民として一人で自由に生きますわ。」
とニコリと微笑む。
レオン様は目を丸くする。
私は前世の記憶を元に魔法道具を発明し、その権利を販売したり、自分の魔法具の店を経営している。
前世は家電メーカーの開発部門で働いていた。ドローンやカメラは専門外であったが、炊飯器や冷蔵庫、洗濯機などの白物家電が担当だった。
この世界で魔法がある事に驚いたが、その恩恵が一部の人にしかない事を考えると、魔力がない人や少ない人にも役に立つ魔法道具があってもいいのではと思って始めたのだった。ちょうどその頃に魔法石を見つける。石の中に魔法を閉じ込めたり、魔法を出したりできる物だった。これを動力に魔法道具を開発したのだ。
なので、一人で生きていくのには困らないだけの蓄えと、断罪イベントに向けて逃亡の準備も抜かりなくすんでいる。
余生(?)を送るための魔法具開発研究所も田舎に建てた。今からそこに篭って色々研究できる事を楽しみにしている。
見目麗しい男性にいくら言い寄られても、アラサー時代の記憶がある私は、いい男ほど要注意だと擦り込まれているから、動じない。
なぜなら、開発部門は男性社員が多く、『俺は女性の気持ちがよくわかる』などと言いながら、事務方の若い女子社員を誑かしていた馬鹿が多かった。注意すると、商品開発の為に協力してもらっているだけだと。お局の僻みだとも言われた事があったっけ。
女性が少ない職場であった為に、男性の下品な話が日常茶飯事だった。
『いい加減にしろ!』と叫んでいたのが懐かしい。アラサーにもなると、初々しさより、図太さが勝る。
「貴族のご令嬢が市井に下って、一人で生きて行く事は難しいだろう?かと言って、国内の貴族に嫁いだとしても、この馬鹿王子が目に入るだろう?ならば我が国に来るのが一番だ。」
「あら、誰が市井で生きていけないのかしら?わたくしを誰だと思って?」
「公爵令嬢だろう?」
「ふふふ…肩書きはそれだけではなくてよ。」
「ハハハ!やっぱりお前は面白い!」
レオン様が笑いながら、剣の柄に手をかけようとした時、外から叫び声が聞こえた。
「待て!」
振り返るとこの国の第1王子であるクロード王子とその後ろに王子の側近である兄がいた。
そういえば、兄は私の防御空間に入ることができたんだっけ。ファーガソン一族は魔法能力が高い者が多いけど、兄も私ほどではないけれど魔法能力が高かったのよね。
そして、この二人も攻略キャラ。これで4人ね。
第一王子のクロード殿下は、イケメンだけど影があるいい男なのよね。能力は高いけど、側妃であるお母様の身分が子爵家という事で不遇なのよね。
私も婚約するなら、クロード殿下が良かったのだけど、王妃が自分の子であるクリストファー殿下を押しつけてくれたのよね。
まあ、どちらも主人公の攻略キャラだから、関わらないに越した事はないけど。
兄は王子様では無いけれど、イケメンで文武両道であり、陰の王子と呼ばれているらしい。難点は重度のシスコンである。私にとって優しい兄だが、兄×ヒロインになると、私は、兄を攻略したいヒロインにとっては、邪魔な悪役令嬢であるのは間違いない。
兄は、私が外したブレスレットを持って、ワナワナと震えている。これはマズいかも。力を解放した事がバレてしまった…
クロード殿下が私の側まで来て、頭を下げた。
「アリアナ嬢、この度は愚弟が迷惑をかけた。この婚約に関しては、明日にでも話し合いをさせてくれないか?君に不利になる事は無いと約束しよう。」
「クロード殿下、わたくしなどに頭を下げてはなりませぬ。クロード殿下に謝罪を頂かなくとも、婚約破棄に関してはわたくしも同意しておりますわ。」
私は慌てて礼を取った。
クロード殿下は、私の手を取り、甲にキスを落とす。
「ならば、私との婚約を結んでもらえないだろうか?」
「はっ?」
つい、素が出てしまう。いけない、いけない。
「いや、せっかく愚弟が婚約破棄してくれたから、このチャンスは逃せないと。陛下も後押ししてくださるそうだ。」
私は陛下の方を睨む。陛下は慌てて明後日の方向を向いた。狸親父め。
私は今、それどころでは無いし。
そもそも、攻略キャラとは関わりたくないんですが。
「決闘なら私が代ろう。愚弟に引導を渡す。」
私の楽しみ(見せ場?)を取らないでほしい。
「殿下、わたくしはわたくしの名誉の為に、決闘を申し込んだのです。ファーガソン一族の者として、売られた喧嘩は自分で落とし前を付けなければ、ご先祖様に申し訳が立ちませんわ。殿下はわたくしの実力はご存知のはずです。」
現在、軍のトップであるクロード殿下は、魔法師団も統率していて、魔法の能力がとても高い。私より高いのではないかと思う。
当然、私の実力も筒抜けだ。
「では、名誉の為だけに、決闘というのかい?」
ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべる。
背筋がぞっとする。
勇気を出して、「はい。」と答えた。
「そこのレオンハルト殿下の求婚はどうするのかい?」
さらに悪魔の微笑みを浮かべながら聞いてくる。他人には見目麗しい王子の微笑みしか見えないんだけど、付き合いの長い私には、全身に警報が出ている。
今すぐ逃げ出せと。
頑張って足を踏ん張り、当たり障りない言い訳をする。
「レオン様の求婚はいつもの冗談ですわ。わたくしが剣を取らなくとも良いように庇って下さったのですわ。でも、わたくしは庇ってもらうほど弱くはありませんわ。」
レオン様は鍛錬の際によく『あんな色ボケ王子とは別れて、俺のところにこい!』と言われていた。
剣を交えながら言われても、本気にするわけない。
いつも冗談として扱っていた。
「アリア、冗談じゃないよ。本気だ。婚約破棄になったら連れて帰っても構わないだろう?」
レオン様がいつの間にか私の後ろに立ち、肩に手を置き、クロード殿下から引き離す。腕を伸ばして私の手を取り、甲にキスを落とす。
キャっと令嬢達から声が上がる。
「消毒」
レオン様が耳元で囁く。
心臓に悪いから、止めてほしい。
クロード殿下の凍りつく様な眼差しが怖い。
殿下お得意のブリザード発動させないでくださいね。幼い頃に宮殿に上がった時は、よくクロード殿下が遊んでくれたけれど、何故かクリストファー殿下と一緒の時には、毎回ブリザード発動されていたのよね。
一瞬だけ、私が思い出に浸っていると、
「決闘に勝てば、アリアナ嬢を貰い受ける事ができるのであれば、私もこの勝負、加えて頂きましょう!」
「ならば私も。」
「いや、私こそアリアナ嬢に相応しい!」
北の国のヨハネス王太子、南の国のイスマエル皇太子、西の国のルーカス王子が名乗りを挙げる。
ああ、攻略キャラが揃ってしまった。
なんだか皆方向が間違っている。ヒロインに行けばいいのに。
「お気持ちは嬉しいのですが、これは婚約の為ではなく、わたくしの名誉の為の決闘ですわ。皆さまのお手を煩わせる訳には参りませんわ。」
だからみんな下がって。と心の中で付け足す。
私はバリキャリ目指すから、放っておいてください。
「アリアの為に私が代わりに剣を振おう。ファーガソン家の名誉にかけて。」
兄までも割り込んできた。
いやいや、お兄様が剣を交えたら、殿下は秒殺なんだから。私が殿下で日頃の鬱憤を晴らしたいだけなのよ。邪魔しないで!
「お兄様、わたくし一人で大丈夫ですわ。ちょっと剣を合わせるだけです。最後に今までの恨み辛みを晴らしたいだけですわ。」
そう言って、剣を魔法で取り出し、一本を殿下に投げた。
お付き合い頂き、ありがとうございました。




