断罪イベント
断罪イベント始まりました。
「殿下、婚約破棄については、喜んでお受け致しますわ。でも、彼女を虐めたことや襲わせたなど、一切身に覚えのない事ですわ。ふふふ。」
悪役令嬢に見えたかしら?
「嘘をつくな!カーラから聞いているぞ。」
「殿下は、ご自分にとって都合の良い事ばかり言う者の声しか、聞こえない様ですね。」
似たような王様が童話にいたよね。
「何を言う!」
「あら、本当の事を言われて腹が立ちました?」
「お前は自分のやった事を誤魔化すつもりか!」
「王族としての自覚がございますのかしら。」
私は盛大な溜息をつく。
「では、わたくしがやったと言う客観的な証拠でも?」
「お前がカーラの身分が低い事を貶したり、ドレスを汚して破いたり、持ち物を池に捨てたりしていただろう!破れたドレスは証拠に取っているぞ!」
ご友人たちが「そーだ!そーだ!」と囃し立てる。
「身分の件は身に覚えありませんが、どなたかご存知かしら?」
と首を傾げて、後ろを振り返る。
「はい。白薔薇姫様、いえ、アリアナ様は王家の方には敬意を持って接するべきだと、助言されただけですわ。」
「証拠はないだろう!」
「いえ、ここに」
そう言って、わたくしの親友の一人、ソファが魔法録音装置で会話を再現してくれた。
(カーラさま、王家の方には敬意を持って接するべきです。臣下にあたるわたくし達は、まずは礼をするのです。そしてクリストファー殿下からお声がかかるのを待つのが、令嬢としての作法ですわ)
(あんたなんか、相手してもらえないから、嫉妬だろう!私が声をかければ王子なんかイチコロなんだから、私が王子の妃になって贅沢三昧するのをが気に入らないのだろうけど、邪魔するなよ!)
ほとんど下町の言葉である。
カーラは最近子爵家の養子に入った下町の者だ。
貴族の令嬢としての最低限の教育を受けないまま、アカデミーに入学したらしい。
それならば、最低限のマナーは学んで欲しいと声を掛けたのだった。
シーンとしたホールに、カーラの声が響き渡る。
貴賓席では、王妃陛下が真っ青だ。
「ドレスの件は、あれはカーラさんが、新しいドレスを殿下に強請る為にご自分でされたのですわ。」
「ワタシじゃない!」
「あら、破れたドレスは前回のパーティーでお召しになられていた際の物では?」
そして私は扇でご友人の一人を指す。
「そこにいらっしゃる方とパーティーを抜けて、中庭に出られた際に破れたのですわ。会場に戻っていらした際に、私以外にも目撃された方がいますもの。きっと使えなくなったので、新しいのが欲しかったのでしょう。」
「ああ、俺もしっかり見たぞ!テラスで二人に会ったからな。」
レオン様、ありがとう。と心で礼を言う。
レオンハルト様も攻略キャラだけど、さっぱりしていて、男らしく好感度高かったのよね。
私が悪役令嬢だから、深入りしないように気を付けていたけれど。
「未婚の男女が二人きりで会場を抜け出すだけでも、規則違反ですのに。ドレスは何で破れたのでしょうね?」
周囲がザワザワとする。
私が指摘したご友人の子爵令息は、顔が真っ赤た。
「物が無くなったと皆様に触れ回っていらしたのも、物を強請る為だったのでしょうね。其方にいらっしゃる方々からの贈り物を換金されていたようですから。」
と、ご友人たちに向かって扇を向ける。
皆、心当たりがあるのだろう。挙動不審になっている。
「換金に関しては、店からの証書を取っていますわ。同じ物を何人もの方に強請られたみたいで。一つ持っていれば、疑われませんからね。」
ファーガソン家の諜報機関は国の機関より優秀である。
「ちなみに、教科書やノートを噴水に投げ込んだのも、カーラ嬢ですわ。池ではありませんけれど。課題が終わらなかったので、切羽詰まったのでしょうね。皆さまご覧になりましたわよね?」
「「はい。白薔薇姫さま!」」
後ろから、強力な援護の声が聞こえる。
「だが、襲撃の件は、お前からの襲撃依頼のレターが見つかったぞ!」
「その筆跡はわたくしではありませんわ。そんな基礎的な事も調べる事が出来ませんの?わたくしはその様なみっともない字は書きませんわ。」
と、微笑んでおく。
「わたくしがやるならもっと手際よく、効率的に致しますわ。このように!」
ちょっと目に力を入れて、拘束魔法をかけて、殿下のご友人を土下座させる。
カーラも身動き取れないように、同じ魔法をかけた。
クリストファー殿下は一体何が起きているのか、わからない。という表情を浮かべる。
「衛兵、何をしている。この女を捕らえよ!」
しかし衛兵は動かない。いや、動けないのである。
床に足が吸い付いたようになり、指一本動かないのであった。当然である。拘束魔法で押さえているから。
拘束魔法万歳!
私の魔法の力はかなり強かった。これもゲームの世界にはなかった事だ。
この国では魔法を使えるのは高位貴族に多かった。が、使えても生活魔法などの簡単な魔法だけの場合が多い。
攻撃や防御、転移などの高度な魔法を得意とする者は数少なく、その能力が高い場合は魔法師団への入隊が義務付けられる。しかし、魔法師団でも、広範囲に魔法をかける事ができる上級者は、年に一人見つかれば良い方なのだ。
前世の記憶が蘇った時に、高度な魔法の力も表に出てきてしまった。攻撃、防御、転移の3種の魔法の他、色々な魔法の能力が現れた。
両親は将来を危惧して、魔法の優秀な家庭教師をつけてくれた。
記憶が戻った私も、将来のバッドエンドを避ける為に、魔法の使い方を覚えるのに必死だった。おかげで、今は自由自在に操る事が出来る。
攻撃、防御であれば1個師団並みだと思う。
ただし軍事利用されたくなかったので、上手く隠していたんだけど。
まあ、魔力の制御がまだ上手くない頃に、国王にはバレてしまい、『魔法師団行きを免除するから、王子の婚約者でいてね。』と頼まれてしまった。
それで、さらに教養、語学、ダンスなどの貴族令嬢として必要な勉強と、体術、暗器の使い方など、自分の身を守る為の訓練も頑張った。
もちろん、将来逃げた時の為に、庶民の生活も。まあ、庶民の生活は前世の記憶があるから、問題なかったけど。
婚約破棄に断罪イベントなら、もう全力で魔法を使って構わないわよね。遠慮なく使わせてもらうわ。
だって後は逃げるし。
「お前たち口裏あわせしているだろう!声だけでは証拠にならないぞ。お前と違って、カーラは優しくか弱いんだ。そんな事をする訳が無い。」
確かに、素の私はか弱くは無いな。
カーラが優しいのは時と場合で、自分に利益があると思う時だけだ。そんな『優しい』は本当の優しさでは無い。
「証拠ならございましてよ。皆さまにもご覧頂きますわ。」
私は彼女が襲撃者へ依頼しているところを映像魔法を使いホールの壁一面に写す。
これはかなり上級な魔法なので、自分で魔法をかける。
彼女が襲撃依頼している場面を。
(軽く襲ったフリをしてくれるだけでいいんだから、言うこと聞きなさいよ。昨夜相手してあげたじゃない!この宝石あげるからさ。王子から貰ったものだからいいものだよ!)
次に彼女が皆に強請った物を換金している場面を。
(思ったより少なかった。今度は宝石を強請ろう…)
そして、パーティーを抜け出して、子爵令息と抱き合っている所を。
("ああ、好きよ!”"ドレスが邪魔だな" ビリッ "ドレス破けたじゃない!弁償してね!” )
誰もいない家政準備室の一角で、ドレスをビリビリに破いている姿。
(これで誰かに破られたと言って、新しいドレスを殿下に強請ろう!今、流行っているドレス、あれがいいなあ)
彼女は独り言も多いようだ。
およそ令嬢らしくない、言葉遣いと振る舞いに皆首を横に振る。
最後は自分で噴水の中に、教科書とノートを投げ入れる所と担当教官に言い訳をしているところを。
("君、提出期限は2度延ばしてあげたよね。’’''だって誰かが私の教科書と課題のレポートを噴水に入れたから。せっかく仕上げたのに。")
「学校にある記録動画付きの監視魔法追跡機に写っていましたわ。」
私は意地の悪い笑みを浮かべる。
「これはカーラ嬢に関するものだけですが、もちろん殿下やそのご友人の諸々の不正や規則違反に関しても、わたくしは把握しておりますわよ。何なら今から皆様にご披露しても。せっかく父兄の皆様がいらっしゃっているのですから。」
うん。前世の監視カメラとドローンを元にして、魔法で作った魔法道具、私の力作だけど役に立ったわ。
クリストファー殿下はワナワナと震えている。
もう一押ししておくかしら?
やっぱり私は悪役令嬢よね。
「殿下、まだわたくしを御疑いですの?わたくしにもプライドがございます。皆の前で名誉を傷つけられたのですから、覚悟は出来ていらっしゃるのでしょうね。」
そして、ご友人に、視線を向ける。
「殿下周りの方も、同罪ですわよ。さっきの録画装置で今の場面は録画しております。名誉毀損で慰謝料ぐらいで済めばいいでしょうけれど、ファーガソン家を敵に回したのも同然ですからねぇ。」
保護者席から、悲鳴とバタバタと音がする。
貴方達の息子の育て方間違ったのよ。
ファーガソン家はこの国の食料、燃料、武器などほとんどの物流を掌握している。軍備も小国並みに揃えているが、能力だけで言えばこの国全体の軍と互角に戦える。
独立してもやっていけるだけの能力と経済力がある。それを公爵位で王家に仕えているのは、3代前が王家から臣下に下り出来た家だからだ。
しかし理不尽な事をされれば、黙っていない好戦的な一族である。もちろん私を含めて。
「わたくしは別に殿下と結婚せずとも、他国から捨てるほどの縁談の申し込みが来ております。婚約しているとお断りしてても、熱心な方は沢山いらして、好条件を提示される方も。なので婚約破棄はやぶさかではございませんが、名誉毀損に関しては、きっちり落とし前をつけて頂きますわ!」
ここは建前を使っておこう。
本当は結婚するより、仕事に生きたいのだけど。
まあ、縁談の好条件の殆どがお飾り妻でいいから、軍に入れとか、研究所を作ってあげるからとか、どう見てもヘッドハンティングではあったが。
それは内緒だ。
そして私は絹で出来たグローブを取り、クリストファー殿下に投げつけた。
「決闘で許して差し上げますわ。私の名誉毀損に関しては。慰謝料ぐらいで済まさせませんわよ。
でも、私は手加減いたしませんわよ。徹底的にやらせていただきますわ。それは全力を出して!」
そして貴賓席を見る。
「よろしいですわね。陛下!」
突然話を振られた国王は、慌てていた。
ガックリと頭を下げ、
「ああ、愚息が迷惑をかけた。彼奴の身に何があっても君に咎がいかない事も約束しよう。」
「陛下が常識的で助かりますわ。この国ごと消さなくて済みそうで。」
と、微笑む。
ヒッと息を飲む声が周りから聞こえる。
私の微笑みって怖かったかしら?と首をかしげる。
まぁ、悪役令嬢だから構わないわよね。
陛下の許可をもらったので、殿下を空間防御魔法の中に閉じ込め、自分も入って行く。
「そんなにわたくしの事が気に入らないなら、自分自身で動くべきでしたね。」
さあ、ここからが本気だ。
「フン!お前なんか私が手を下すほどもないが、特別に徹底的に叩き潰してやる!」
そうよねぇ。殿下は私の実力を知らないから。
アカデミーの授業は手を抜いていたし。本気出して実力がバレるの嫌だったし。
殿下は負けると機嫌が悪くなるので、皆適当に相手をしていた。自分は強いと思い込みだけで、鍛錬もせず、カーラに入れ込む毎日を過ごしていた。
魔法を使わず、殿下と剣を交えても、5分も掛からず終わるだろう。私も伊達に鍛えているわけではない。
殿下が私に向かって来ようとしたので、とりあえず拘束魔法で体を押さえつけてやった。
拘束魔法、サイコー!
「あら、こんな状況でも、まだお馬鹿ですのね。」
「なに!言いたいだけ言わせておけば!」
殴りかかろうと、腕を振り回しているが、足が動いていない。下半身にだけ魔法をかけているから。
腕だけグルグル回していて、さらに馬鹿に見える。
笑うのを堪えるのも大変だ。
「殿下の暴言の数々、なかった事にして差し上げでも良くってよ。ただしわたくしに勝てたのであれば。」
私は意地悪く笑う。
「剣にします?魔法にします?魔法だと殿下には不利だから、剣にしましょうか?ふふふ…」
久しぶりに楽しくなって、少し笑う。
また、周囲が引きつった。
「おい!その決闘、俺にやらせろ!楽しそうだ。」
読んで下さり、ありがとうございます。
なるべく早く次を投稿する予定です。