【小話】満月の夜に1(アリアナ視点)
ご無沙汰しております。
なかなか更新出来ず申し訳ありません。
ハロウィンの時のアリアナ視点で書いていた分で申し訳ないのですが…そのまま破棄するには忍びなく。時期外れで申し訳ありません。
漆黒の夜空に丸く黄色いお月様が浮かんでいる。
今日は今年最後の満月なのね。
ドレス姿では、とても外には出れない。窓越しに満月を眺める。
前回の夜会も満月だったかしら…
そう、収穫祭の時期にあった夜会を思い出す。
あの時も満月だった。
オレンジ色の普段より大きく見えた満月…
前回の夜会を思い出す。
とても幻想的な満月に誘われて、私はこのテラスに降り立ったのだった。
*****
満月にお願い事をする風習があったのは何処の国だったかしら?
願い事、叶うかな?
だけど、今の私の願い事って?
卒業パーティーに婚約破棄され、謂れのない罪を着せられ、悲惨な人生を送る、それを回避する事が望みだった。婚約破棄ぐらいは構わない。だけどその後は自由に生きたいと思っていた。
その為に生きていく力を付ける、そう信じて努力し、私財を蓄え、婚約破棄後に備えていた。
卒業パーティーが終わった今の時期は、領地の端で身分を隠して、生活している筈だったのよね。
ゲームの世界での悪役令嬢としての役割は終わったはず…なのに、今王宮で開かれている夜会に参加しているのは、何故?
ずっと気を張っていた私の望みは平穏な人生を送る事だったのに。
「ああ、何処か遠くに行きたいな」
気が付けば、そう口にしていた。
すると、「その願い、叶えてやろう」と、声が聞こえて、私が振り返ると、真紅のドレスを優雅に着こなした美女が立っていた。そう見た目はアラサーぐらいのの美女。だけど…
「おばば様?」
私は自分の目に入った美女の本質に気付き、そう声をかけていた。
今の姿に被さる様に本来の姿が見えている。
この大陸で数人しかいない魔女。
膨大な魔力と豊富な知識で、魔女が味方すれば国が栄え、魔女に見放されれば国が滅びるとまで言われている。
その実力と地位は各国の王族よりも高い。
そんな魔女の一人が目の前にいる。
おばば様と私が呼ぶ彼女だ。
幼い頃に彼女に出会い、何故か気に入られ、気まぐれに魔法や薬草の事を教えてくれた師でもあった。
因みに、出会いは王宮で子供達が集められたお茶会である。子供姿で参加していたおばば様だったけれど、私には元の姿が見えてしまい、本人に「なんでおばば様もいっしょにいるの?」と聞いてしまったのよね。
普通の人には、本来の姿は見えないらしい。
私には本来の姿と化けた?姿の両方が見えてしまう。
最初見た時は幽霊が取り憑いているのかと思ったぐらいだ。
因みに今は妖艶な美女の姿。
「この姿でハバとは!」
「だっておばば様はおばば様だし」
「この美貌にハバは無いだろう?」
「よそ行き様に化けられても、わたくしにはおばば様にしか見えませんわ」
「相変わらず口が減らぬ奴じゃ」
「悪かったですわね。ところで、今日はどうされたのですか?夜会に参加にしては、服装が地味ですわよ」
「何を言う、このドレスの何処が地味なんじゃ。お前さんこそ、ここで一人で何をしている?婚約者がいた筈だろう?」
「どなたの事を仰っているのか分かりませんが、最初の婚約は破棄されました。今はクロード殿下と婚約はしておりますが、彼は今は他国の姫君をお相手されています」
「全く王家の者はクズじゃのう。お前はどうしたい?」
「私?」
「そうじゃ、お前自身はどうしたいのじゃ?」
「わからないわ」
「何処か遠くに行きたいと言っていたではないか?」
「気が付いたらそう言っていただけで…実行したら皆に迷惑がかかるわ。もうあんな思いはしたくないの」
そう、卒業パーティーから逃げた後、ルーカス殿下を巻き込んで、何人もの人を命の危険に晒してしまった。
今、私が居なくなれば、またクロード殿下が大騒ぎするだろう。
クロード殿下を信じたい。
でも先程見た光景が忘れられない。
彼は他国の姫君をエスコートし、談笑していた。
私が挨拶したにも関わらず、婚約者として紹介もせずに、他の貴族達と同じ扱いだった。
特別扱いをして欲しい訳ではないけれど、姫君と彼の距離の近さに胸がチクリと痛む。
その姫君は、私をチラッと見た後、クロード殿下に擦り寄りながら、聞こえよがしに言った。
「わたくしは側妃を持つ事には反対は致しませんわ。王太子ともなれば、側妃を持つ事も必要でしょう。殿下の今の婚約者は所詮国内貴族ですわよね。殿下ほどの方であれば、国同士の結び付きがどれ程大事かは充分ご理解されている筈。賢明なご判断を期待しておりますわ」
それに対して、クロード殿下は明確に返事をしなかった。まるで私を避けるかの様に彼女をエスコートしてダンスを踊りに行ったのだった。
外交とはいえ…
側妃を持つつもりは無いと明言して欲しかったし、婚約者は私だとはっきり紹介して欲しかった。
信じたいのに、信じきれない…
私の心がチクチクと針が刺さった様に痛み出す。
「何処か遠くに行きたい」
満月を見上げ、またそう呟いていた。
「その願い、叶えてやろう」
そう言って、おばば様は杖を振るう。
おばば様は本来の老婆の姿に戻り、気付けば、私も同じ姿になっていた。
おばば様は堂々と夜会の会場から出て行く。
慌てて私も後を追ったが、見張りの騎士達も誰も咎めなかった。
「おばば様、何処に行くの?」
「お前の望む所だよ。」
人気が無い庭園に出ると、おばば様は杖を振った。
眩いばかりの光に包まれた後、気が付けば、何処かの広場だった。
今日はお祭り?と周囲を見渡すと、人々はどうもハロウィンの様な仮装をしている。これでは、何処の国かわからない。
「おばば様、転移するならすると言ってくださいね!わたくしにも準備があるのに!」
そう言った時、
「えっと、魔女様はどちらでしょうか?」
と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「「私」」
おばば様と声が重なる。
だって今は魔女の格好だし、いいよね。
そう応えて、声のした方を向けば、可愛らしい黒猫の仮装をした少女がいた。
「えっと、先程いらした魔女様はどちら?」
遠慮がちに彼女は尋ねる。
私はおばば様を見据える。
「おばば様先に来たの?狡いわ!」
「誰がおばばだ。まだ私は若い!」
「見た目は魔法で誤魔化しているからでしょう?実年齢は誤魔化せないですわよ。諦めて受け入れたら?」
「ふん!お前みたいなひよっこには言われたくは無いわ」
「私は魔女じゃ無いし」
「さっき魔女って返事をしたのは誰じゃ?」
「今日は魔女なのよ」
そんな気軽な会話は楽しい。
二人の世界で会話していたら、その少女が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「すみません。魔女様は魔女では無いのですか?」
「今日はハロウィンだから、今日だけ魔女よ」
「アリアナ様?」
「ああ、バレちゃった…ご機嫌よう、マリー様、ご招待ありがとう。お返事出せなくてごめんなさい」
そう、黒猫の可愛らしい仮装をした少女はヨハネス殿下の妹であるマリー殿下でした。
「アリアナ様!お会いしたかった!」
そう言って、彼女は抱きついて来たので、しっかりと受け止めました。フワモコうさぎと同じ様に可愛らしい彼女。妹がいたらこんな感じなのかしら?
そう思いながら、此処は北の国なんだと、納得した。
マリー殿下の数歩後ろには、上品な海賊姿のヨハネス殿下が立っている。
綺麗な顔立ちのヨハネス殿下が海賊の仮装をしても、浮いていて…どうせならお姫様の仮装が見たかったと思ったのは内緒。
ハロウィンの様なお祭りは無いと以前仰っていたけれど、ハロウィンみたい。
と、一人で納得していたら、マリー殿下が戸惑った様子で私を見上げた。
ああ、おばば様と同じ姿なんだ。
私は杖を一振りする。
魔女の服装はそのままに、アリアナの姿に戻った。
「脱走してきたから、姿を変えていたの。ハロウィンだからこのままでもいいかと思ったけど、同じ姿の人物が二人いると混乱させてしまいますわよね?」
そう言って、マリー殿下を見れば、彼女は安心した様に笑顔になった。
その後、二人でお祭りに行き、途中からはヨハネス殿下も一緒に屋台を見て回ったり、子供達にキャンディを配ったりと楽しい一時を過ごしたのだった。
*****
束の間の休息だったけれど、楽しかった。
北の大地は収穫祭の時期にはもう寒い。
だけどそれを上回る熱気と人々の笑顔が私を癒やしてくれた。
ハロウィンは無いと言っていたのに、態々ハロウィンを取り入れてくれるなんて。
私も魔女の仮装をして、楽しかった。
帰りたくないぐらいに。
だけど、家出の前科がある私はこれ以上北の国に迷惑をかける事は出来なかった。
お祭りを楽しんだ後は後ろ髪を引かれながら、おばば様に国に連れて帰って貰ったのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
続きは近いうちに更新予定です。出来れば明日、明後日に。
今年も応援してくださりありがとうございました。
来年もボチボチ続けていきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。
では、良いお年をお迎えください。




