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「Tragicomedy」完

 物語が喜劇で終わるとは限らない。終焉が語られるまで如何様にしても誰にも分かる筈はないのだ。そう、分かる筈はない。人間は生を受けただけで、神に踊らされる駒の一つでしかないのだから。


 けれども、俺の物語は悲劇で幕を開け、未だ幕を下ろしてはいない。


「もうー、スタンバイは早めにってお願いしたじゃーん」


 焦ったような表情のユヅが舞台袖で俺達を出迎える。すっかり板についてきたマネージャー姿に、俺は頬を緩めた。


 観客席は満員御礼。ライブの開始を待ちわびる声は束になり、厚い層を為していた。伝わってくる熱気に体温が上昇する。ライブ特有の、この感覚が俺を高揚させた。


「ごめんなさいね。ちょっと迷っちゃって」


「透子さんが謝ることないですよ! 幸が紛らわしいことを言うから!」


「僕は悪くないです!」


「だからお前ら喧嘩するなって。てか静かにしろよ」


「アヤさんはいつも子守で大変そうですね」


「煽るなアホ」


 人生とは悲喜劇でなりたっている。それぞれが主人公の物語の終焉は、主人公だからこそ知る由もない。泣き崩れた夜、目覚めたくないと願う朝。誰しも、そんな日々を越えて毎日を過ごしているのだ。少しの躓きで終わらせてしまうのもアリなのだろう。けれども俺は、終わらせなくて良かったと確かに思っていた。


 過去を変えたい。未来を変えたい。愚かな祈りを捧げるからこそ人間なのだ。けれども、俺達は振り仰ぐことは出来ても、戻ることは出来ない。置き去りにしたものは、所詮、置いてきた〝もの〟に過ぎないから。


 コレは物語。人生という名の物語。正体不明の残酷な人が俺達に与えた使命だ。恐らく人は、その人物を〝神〟と呼び崇めるのだろう。


「先輩」


 俺を呼ぶユヅの声が聞こえる。円陣を組もうと誘う為に握られた手は、指先が硬く、かさついていた。


「お前は昔から体温が低いな?」


「何か言った?」


「いや。じゃあ円陣組んだら行くか!」


 空に手を差し出せば、掌が次々と重なっていく。温もりと重みに命を感じているとユヅがいないことに気付いた。


「なにやってんだ。お前もだよ」


「え?」


「ユヅが俺達をノアブルにしたんだろ。早くしろ」


「う、うん!」


 また嬉しそうな顔しちゃって。なんて、ほくそ笑む。皆の顔を眺めてから俺は息を深く吸い込んだ。


「デビューライブは一回きりだ。楽しんで行こうぜ!」


「「「「「おう!」」」」」


 溌剌とした返事が始まりの合図となる。歓声の渦に呑みこまれていくのは爽快だった。


「はじめましてー! 俺達がNoir Bruteです!!」


 駆け出すは奈落の底。這いあがるは舞台の上。




 ——ねぇ、戻りたい。




 そんなことは二度と言わない。

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