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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Fifth Single「ジェイド」
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Track68「問い掛けは罪」

「え……? なに言ってんだよ。第一、お前はユヅを見たことねぇだろ」


「アヤさんは誰に全員死んだって聞いたんですか?」


「お袋だよ……俺、事故の時すっかり気が動転して。目が覚めたら病院だったんだ」


「本当に最後まで話を聞きましたか?」


「え?」


「俺、四季さんの正体に気付いてから色々調べました。それで一つ分かったことがあります。亡くなったのは二人。十九歳の男性と、十八歳の男性。そして重症だったのが十七歳の男性です。この男性は高校生で、亡くなったとの記事はありませんでした。

 この前、昔のアヤさんが映ってる写真を見ました。茶髪で眼鏡の人、赤茶の髪で俺みたいに前髪を上げてる人、黒髪で垂れ目の人。眼鏡はリーダー、赤茶の人がドラムですよね。垂れ目の人が四季さんで間違いないと思います」


「でもアイツは身長が低くて一六五も無かったんだよ」


「事故の時って高二ですよね。身長が伸びたと仮定して、髪を染めれば……死んだと思われていたなら〝まさか〟なんて思わないと思いますし、騙すことくらい出来ますよ」


「雰囲気が全然ちげぇよ。ユヅは普段、眼鏡掛けてて、大人しくて、あんな……第一、だったらなんで俺に会いに来ないんだよ!?」


「俺に聞かれても。普段、眼鏡を掛けていたなら、アヤさんが気付かないのも無理ないと思いますよ。それに、あの人の指見ました? 左手の薬指が曲がってるんです。ギターかベースやってたなきゃ、あの指にはなりませんよ。楽器が出来ない人の手じゃない」


「どういう、ことだよ……なんで……」


 その場に崩れ落ちたアヤさんの呼吸が荒くなる。苦悶の表情を浮かべ、胸元を掴む様に慌てて駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


「わり……はぁ、っく……ポケ……っ……」


「なんて!?」


「に……クッ……が……」


 細切れの音が言葉にならない。今迄に発作状態を目の当たりにしたことはなく、俺は狼狽した。辺りを見渡すも誰もおらず、助けを求められそうにもない。とりあえず彼の背を撫でるも気休めにもならなかった。


「きゅ、救急車……!」


 自身のポケットをまさぐりスマホを取り出すが、指が震えて番号が押せない。そればかりか救急車を呼び出す為の番号を度忘れしてしまった。


「えっと……」


 俺はまた俺のせいで〝兄〟と慕った人を殺すのか。指先が凍え、身体が凍り付いてしまったかのように動かない。頭は冷水を浴びせられたかのように冴えているのに、何も出来なかった。どうしよう。どうするべきか。こうしている間にも、アヤさんは今にも死んでしまいそうなほど荒い呼吸でもがいている。俺に出来ることは何か、と考えるも、答えに辿り着くことはなかった。


「大丈夫!?」


 タイミング良く四季さんが駆け寄ってくる。瞼を下ろしたアヤさんは胸元を鷲掴み、パーカーに皺を作っていた。


「病院行くよ。いい?」


 アヤさんが頷く。四季さんは彼を横抱きにし、車へ駆けて行った。その後を慌てて追いかける。嘘吐きとは思えない必死な形相に胸が痛んだ。


「隼君、乗って! 走りながら指示する」


「救急車呼ばなくていいんすか!?」


「救急車なんて待ってらんないよ! この時間なら車を飛ばした方が早い!」


 後部座席にアヤさんを押し込んだ四季さんが、シートベルトも締めず車を発進させる。唐突な振動に横転しそうになりながらも、俺はシートを掴み何とか耐えた。


「彩斗のポケットに紙袋が入ってるからそれを口元に。それからヘッドフォン付けて音楽流してやって。何か言ってたら俺に言って。分かった?」


「は、はい!」


 覚束ない手元で手順を思い出していく。紙袋を取り出して、えっと、それから、と全てを終えた時、アヤさんが唇を動かした。滑らかになる呼気に安堵した一瞬の出来事。もう一度、耳を凝らせば音が言葉になる。それに目を剥いて、次いで眉を寄せた。


「どうしたの?」


「……って言いました」


「え?」


「ユヅって言いました」


 ミラー越しに絡まった視線が逸らされる。お前のせいだ、と言われた気がした。


「隼君、何を言ったの?」


 口を閉ざしていてはいけないだろうか。自らは駄馬のように使えない人間です、と許しを請う権利もない。俺は苦し気に歪むアヤさんの表情を眺めてから、顔を上げた。


「あなたが黄瀬結弦であると伝えました」


 沈黙の時間が恐ろしい。けれども耐えた。俺自身がエゴを押し付けられて苦しかったから。これが〝いいこと〟なのだと信じて疑わなかった。


「人を助けるより先にやることが二人にはあるんじゃないですか?」


 問い掛けは罪。答えは罰。未来は——


「そうだね」


 翡翠の空が哀哭を呑み込む。そんな世界で在って欲しかった。

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