表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Fifth Single「ジェイド」
67/83

Track66「檸檬」

「俺が両親に会いたくないのは兄貴の死の真相を隠してたから」


「真相?」


「ああ。馬鹿な話っすよ。兄貴は俺を助けようとして川で溺れて死んだんだ」


 予想外の回答だったのだろう。一瞬、足を止めたアヤさんは白皙の肌を更に蒼白く染め上げていた。


「たしかに馬鹿な話だな……残される側の気持ちなんて一つも考えてない」


 意外な回答に目を瞠る。攻撃的な言葉遣いは彼らしくない。漂う気まずさに、俺は真っ直ぐ前を見据えた。右足を踏み出し、左足で地面を蹴る。そんな簡単な動作に何故か足が縺れそうになった。


「そういうこと。当時のことは何も覚えてない。両親の話だと家族でキャンプに行って魚釣りをしてる時に、俺が足を滑らせて川に落ちたらしい。気付いた兄貴が助けてくれようとして飛び込むも、二人共流されて助かったのは俺だけ。兄貴は滝まで真っ逆さまで……大丈夫っすか?」


「あとどれくらいで着く?」


「二、三分かな」


「じゃあ行こう」


「でも顔色悪いっすよ?」


「墓まで行ってから休む。続き話してくれるか?」


「無理しないでくださいね。肩、貸しましょうか?」


「大丈夫だ」


 今にも発作を起こしそうな呼吸の仕方だ。肩で息をしながら、荒い呼気を吐き出す様は、とても大丈夫とは言い難い。それでもたしかにココで倒れられるよりは、墓で行き倒れてくれた方が良いように思えた。


「ヤバそうだった早めに言ってくださいね」


「ああ」


「それを聞いたのは高校に入ってからだった。もういいだろ、なんていう両親の判断で俺は真実を知った。でも俺は、そんな両親を許せなかった」


「どうしてだ?」


「全部エゴだから。黙っているのも、言うのも、俺の為を思って、なんていうエゴだったから」


 気持ちを吐露したのは初めてだった。こんなにも癪に障るようなことを皆やっていたのか、と今になって思う。吐き出すと楽になるというのが嘘に思えた。


「俺の為を思うなら、ちゃんと説いて欲しかった。兄貴は、お前を助けようとして死んだんだって言って欲しかった」


「……お前の人生は兄貴のリバイバルなのか?」


「え?」


「隼は、どうしてノアブルに応募してきたんだ?」


「ベースが弾けたし、家に居たくなかったから」


「だったら学校に行くこともできただろ? なんで行かなかったんだ? ベースが好きだからじゃないのか? 学校に行ってる時間もベースを弾いてたいって思ったからじゃないのか?」


「……なんで分かるんすか?」


「お前がベースを好きだったから、俺はお前とやりたいって思ったんだよ。全部が全部そうだとは言わない。でも、やっぱり弾き手の心が伝わる瞬間ってのはあるよ」


「ははっ……俺、誰かにバレるくらい好きなんだ」


 空笑いが秋空に溶ける。嘲笑にも似たそれは、心に沁みる檸檬の果汁のようだった。


「でもサヤ兄はもっとベースが好きだった。アヤさんみたいに……アヤさんが歌った時みたいに、本当に楽しそうに周りを巻き込むんです。サヤ兄には夢があって俺は……その夢を奪った」


 灼けつくような真実に喉が悲鳴を上げている。いっそ極悪人であれば断罪する術もあったというのに。生温い罪は濯ぐことすら難しく思えた。


「だからノアブルに応募して受かっても、皆といても、どこか蚊帳の外だったのか」


「はい……俺が楽しむのはダメなような気がしたんです。でもアヤさんは、どうやらそれを許してはくれないみたいっすね」


「ああ。俺が押し付ける気持ちはエゴだ。楽しんで欲しい。笑って欲しい。仲間で在って欲しい。でも、それで隼も楽しめるようになるならエゴでもいいと思ってる。なぁ、自分を責めるのは、やめにしないか。楽しんでもいいんだ。笑っても、泣いても、死んだ奴は生き返ってこない。だったら隼は自分の人生を生きようぜ」


「あはは、死にそうな顔色で何言ってんすか。分かりましたよ。分かったから兄貴の墓参りしたら休みましょう。着きましたよ」


「そうだな」


 墓石が立ち並ぶ静観な墓地には誰もいない。墓参りには早すぎるせいだろう。俺は誰もいない舗装された道を案内するかのように歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ