Track46「溜息」
「あーやーとーくーん!」
彩斗さんの背後から二階堂さんが顔を出す。彼の肩に手を置いて制止する様に僕は〝助かった〟と胸を撫で下ろした。
「なんだよ、気色悪ぃな」
「ひどっ! なんだよ、じゃないでしょー。幸君が嫌がってるんだからやめたげなきゃ」
「このままだと、お前が幸を辞めさせんだろ」
「いや、お上に逆らったら俺が辞めさせられるからね?」
刹那、絡んだ視線を二階堂さんが逸らす。彼は、もしかしたら僕のことが嫌いなのかもしれない、なんて少しばかり眉を顰めた。
「お前のことは知らねぇよ」
「察しが悪いなぁ、とりま戻るよ。ほら、幸君もジュース持って!」
「なんで買ったことを知って……」
「自販機の前でジュースを買う以外に何をするの?」
たしかに、と溜飲を下げ、放り投げられたリンゴジュースの缶を受け取る。沁みるような冷ややかさが僕の掌を占拠していた。
「はい、戻って、戻ってー」
彩斗さんと僕の背を押した二階堂さんが満面の笑みで歩んでいる。たまに躓きそうになりながらも足を進めていれば、すぐにレコーディングスタジオに着いた。扉の開閉音に施錠の旋律。すぐさま振り向いた僕達が見たのは、怒りを露わにした二階堂さんの顔だった。
「あのさ、君達はノアブルを潰す気なの?」
「あ?」
「だってそうでしょ? 幸君が弾けないってのを、あの場でバラされたら俺の立場がないじゃん。どんだけ無理を通して、このプロジェクトを進めたと思ってんの? 少し頭を使ってくれる?」
「喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩売ってんのは彩斗の方でしょ? 治すって言ってんのに、幸君を追い詰めてどうするの? 無理矢理が良くないのは彩斗が一番知ってるでしょ?」
腕を組んだ二階堂さんが彩斗さんを責め立てる。
「無理矢理が良くない、ねぇ。俺に対して無理強いをした四季がよく言うな」
「彩斗と幸君は違う。透子さんと幸君も違う。個々に合った接し方ってもんがあるんだよ」
「そんなことは分かってんだよ。でもな、なにも知らないことには前に進まない。幸が俺達といたいって望むなら叶えてやりてぇってのが……叶えてやんのが大人じゃねぇのかよ!?」
「俺は、そのやり方がマズいって言っての! まったく……彩斗は血の気が多いんだから」
自らの手を項に置いた二階堂さんが溜息を吐く。刹那、ノックの音が木霊した。




