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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Third Single「サーカズム」
44/83

Track43「私が私である為に」

「え、えっと、なんのことかしら?」


「モモちゃんが二人は付き合ってるなんて言ってたんですが」


「えぇ!? つ、付き合ってないわよ!? そもそも彩斗君が、こんなおばさんを相手にするわけないでしょう!?」


 焦った透子さんが両手で否定を露わにする。段々、林檎の如く染まる頬は〝おばさん〟と呼称するに不釣合いだった。


「モーモちゃーん!?」


「私は私の意見を言ったまでよ!」


 透子さんから私へ視線を戻した四季さんが、何か言いたげに眉を顰める。負けじと言い返せば、安堵したように胸を撫で下ろす彼がいた。


「あ、透子さんって勉強教えたり出来ます?」


「ええ、一応」


「だったらモモちゃんに教えてあげてくれません? 一応、受験生なんで」


「ちょっ!? なん……!?」


 手で口を塞がれ、反論すらさせて貰えない。私は彼の手を抓り、悔しさを目一杯表現した。「痛い」の言葉すら出ないものだから痛くないのだろうか、と首を捻る。私の口唇を解放した右手には赤い痕が出来ていた。やはり痛かったに違いない。


「構わないわ。私で大丈夫かしら」


「勿論! 透子さんなら百人力ですよ!」


「プレッシャーだわ」


 クスクスと笑う彼女が、淑やかに口元を手で覆っている。到底、勝ち目などないが負ける気もなかった。


「私、負けませんから」


「え? えぇ? お手柔らかによろしくね?」


「よろしくお願いします」


 なんのことか分かっていないだろう彼女が、疑問符を浮かべている。私は前方に向き直ると四季さんを一瞥した。


「なによ」


「いーえー」


 ニヤニヤと、だらしない唇に怒りが募る。けれども今回は見逃してやることにした。


「じゃあ、二人共シートベルト付けてー、折角モモちゃんもいるし、今日は新曲の合わせをしてみよっかな」


「曲は」


「サーカズム」


 皮肉も嫌味も跳ね返してあげる。私に、それを向けたなら、反撃されることを視野に入れて貰わないと採算が合わない。言葉に責任を持とう。せめて、この世界で自身だけでも。


「私、人を傷付けないように言葉を選んでみるわ」


 饒舌な彼が何も言わない。それが何よりのエールであることを私は知っている。彩斗さんのように優しくなりたい。透子さんのように淑やかでありたい。四季さんのように変わりたい。憧れを現実に、それを生きる理由に、私はそういう人間で在りたいと思った。


 歪んだ陽炎に、透けるような青い空。今日も得意げに髪を揺らそう。私が私である為に。

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