…………………少しぐらい、格好つけたかったよなっっっ⁉︎
本日はここまで。次回更新をお楽しみに‼︎
取り敢えず、テオドールを捕縛するのをトータ達は諦めたらしい。
俺が強いのと、勇者の真実が衝撃的すぎたらしい。
加えて、下手に本当の勇者やら偽物勇者やらを話したら……色んな国に潰される可能性がある……というのが、ジュディの話だった。
『それはそうでしょう。ずっと勇者アルドが本物だと思ってたんです。だけど違ったとなれば……今まで勇者アルドを国賓として歓迎した国などの面目丸潰れです。絶対、政治的な問題やら面倒な問題やらが起きます』
こうして、俺のことは何も見なかった、何も聞こえなかった……と、触れる神に祟りなしでいくことになった。
「テオ、早く‼︎」
楽しげに俺の手を引き、王都を進むアイシャ。
換金を終え、商業ギルドを後にした俺達は、服屋でアイシャに数着見繕って貰ってから、王都でも浮かない程度の服に着替えて……当初の予定通り王都を散策していた。
まぁ……あんまりちゃんと見たことがなかったから、結構楽しみだけどさ。
だけど、だ。
…………………お前、さっきまでスキンシップ云々で照れてたのに……すっげぇ普通じゃね?
俺、今だに照れくさいんですけど?
俺はなんか、ちょっと負けた気分になる。
…………こっちばっかり照れてるのは、狡いだろ……。
「どーしたのじゃ?」
アイシャはこてんっと首を傾げて聞いてくる。
………なんですかねぇ、この平常運転感。
なんか、俺ばっかり意識してるみたいでムカつく。
………ちょっとムッとしながら、俺は彼女の肩を抱き引き寄せた。
さっきのお返し……とばかりに彼女の耳元に唇を近づける。
ついでに、微かに触れる程度にキスをしてやった。
「………………ふへっ⁉︎」
「俺ばっかりドキドキしてて、狡くね?」
「っっっ⁉︎」
ボンッ‼︎という効果音が似合いそうなほどに、彼女の顔が一気に真っ赤になる。
目は涙目だし……なんか「ふみゅふみゅ」猫みたいな鳴き声を漏らしてるし……。
……………………あれ?
………照れてる…?
「わ、妾だって……恥ずかしくない、訳じゃな……頑張って……たん、だもんっ……‼︎」
「え?」
「馬鹿テオぉ……‼︎」
…………顔を真っ赤にして、俺を睨むように上目遣いをするアイシャ。
………でも、我慢できなくなったように頬を膨らませて……俺の肩に額をグリグリと擦り付けて。
………………俺は思わず足を止めて固まってしまった。
……………あざと(?)可愛いな……こいつ……⁉︎
俺はグリグリと擦り寄るアイシャをジーッと観察する。
……………なんか……胸が熱くなるんだけど……。
「…………………なぁ。ウチの店の前で止めてくれねぇかい。胸焼けするんだが」
声をかけられて振り返ると、そこにいたのは出店のおっさんで。
…………俺とアイシャは、ドキドキしてたのを忘れてピキッと固まる。
いや、だってな?
スキンヘッドの顔面凶器が犬エプロンつけて、なんかお菓子らしきモノ(甘い匂いがするからそう思った)を売ってるんだよ。
えっぐっっっ‼︎
「え?おっさん、出店やって売れてんの?顔面の所為で売れてないんじゃねぇの?」
俺の言葉に、周りにいた人々が「ヒィィィィィィィィィ⁉︎」やら「あいつ、言いやがったぁぁぁぁ⁉︎」だの反応する。
…………周りの奴らも思ってたんかい。
ってか、なんか冒険者らしき奴らの方が顔色悪いな?
おっさんは大きく目を見開いて……スッと目を細める。
そして、静かに問うた。
「…………お前……オレを誰だか知らねぇのか?」
「知らねぇし、本当のことを言っただけだ」
おっさんはゆっくりと歩み寄ってくる。
………あー……このおっさん、ただ者じゃなかった感じか?
動きが滑らかだし、重心移動が上手い。
筋肉のつき方からして……何かしらの武器を持っていた。
だけど、右足を庇うような歩き方……。
冒険者らしき奴らの反応を省みるに……元冒険者か。
俺はアイシャを隠すように立ち、おっさんと真っ直ぐ向き合う。
すると……。
ガシッと肩を掴まれた。
…………………いてぇ。
「そーなんだよぉぉぉぉぉっ‼︎クレープは美味いのに、オレの顔の所為で売れねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉおっっっ‼︎」
「いや、売り手雇えよ」
「オレの顔が怖すぎて売り手が怯えるんだよぉぉぉぉぉぉ‼︎」
「どんまい」
俺はおっさんの肩に手を置いて慰める。
おっさんは泣き笑うなんて器用なことをしながら、自己紹介した。
「いやぁ、すまねぇな‼︎オレはニルギス。怪我をして引退した元冒険者だ」
「俺はテオ。こっちはアイシャだ」
「………妾、テオのコミュニケーション能力に驚きなんじゃけど……アイシャじゃ。よろしくのぅ」
「いやぁ、オレに怯えることなく堂々と対面で話す奴は少ねぇから嬉しいぜ」
「顔、恐いもんな。あんた」
サラッと言うが、おっさんは気にした様子もなく「ガハハハッ‼︎」と豪快に笑う。
見た目の割に、朗らかな性格らしい。
「ちなみに、くれーぷってなんだ?」
「オレが冒険者として色んなところで仕事してた時に食ったデザートなんだけどな。かなり美味いし、食べ歩きができるんだ。食べてみるか?」
「うむうむ。妾、甘い物に目がないから食べたいのじゃ‼︎」
俺の後ろに隠れていたアイシャはぴょこっと前に乗り出して、二人分の金を出しながらおっさんにクレープを頼む。
すると、おっさんはギョッとしながら俺を見た。
「……………なんだよ」
「……………女に払わせるのか……?」
「っっっ⁉︎」
そう言われて、俺は衝撃を受けた。
凄まじく今更ながら言えば……俺って金持ってねぇじゃん。
勇者パーティーにいた頃は、聖女が金の管理してたし。
追放されててからは、身一つ(聖剣はあったけど)で。
そこら辺の川から水を入手したり、身体を洗ったり……動物を狩ったり、木を使って火をつけたりしてたんだっけ……。
……………………………つまり、サバイバル生活をしてたため、ここ暫く金という俗物的なものと離れていた訳で。
そういえば……さっきの服屋でも店員の顔が一瞬、固まったのって……同じことを思われてた?
…………今の状況ってアイシャのヒモじゃね?
……………ヤバい……ヤツだ。
俺の戦慄に気づかないアイシャは、首を傾げて俺を見つめる。
そして、不思議そうに聞いてきた。
「テオは妾の屋敷で畑仕事をしてくれとるから、給料としてお金を与えようか?テオが好きに使えるお金があった方がよかろう?」
「…………いや、でも……住む場所とか、食事とかはアイシャが提供してくれてる訳で……そもそも、そんなに負担がないからアレぐらいで給料もらうのは……」
「…………ふむ?気にしなくても良いけどのぅ?」
そうアイシャは言ってくれるけど……おっさんは視線で訴えてくる。
〝養われてるのは、アウトだと思う〟ーーと。
…………いや、あのさ。
別に性差別とかじゃないけどさ。
アイシャは女の子で、俺は男で。
実質、これはデートな訳で。
…………………少しぐらい、格好つけたかったよなっっっ⁉︎
…………これは至急、金を稼ぐ手段を確立せねば……。
「テオ、あーん」
「むぐっ」
モグモグモグ……。
「えっ⁉︎美味っ⁉︎」
「じゃよなぁ〜。妾もびっくりなのじゃ〜」
ハッと我に返ると、目の前には紙に包まれたクレープというものを俺に差し出すアイシャ。
俺はそれを受け取って、もう一口食べた。
「へぇ……これ、果物が入ってるのか」
「うむ‼︎妾のは苺で、テオのは南国のフルーツでバナナというらしいのじゃ‼︎」
「アイシャ、そっちも味見させてくれ」
「テオのも味見させて‼︎」
互いのクレープを食べてみる。
あぁ、美味いな……苺も合う。
「バナナも美味しい〜」
「苺も美味いぞ」
互いにモグモグと食べていたら……いつの間にか、周りにいる人々の視線が集中していた。
…………………ん?
「おっちゃん、こっちにもクレープ一つ‼︎」
「あ、私も‼︎」
「クレープ二つ頂戴‼︎」
「お、おぅ⁉︎」
………………どうやら、俺達が食べてたのが宣伝効果になったらしい。
かなりの賑わいになってきて……俺らは互いに顔を見合わせて、苦笑しながらその場を後にした。
そうして……王都散策を目一杯楽しんでから、アイシャの屋敷に帰えるのだったーーーーー。
その後。
おっちゃんの出店は王都で一、二を争う人気店になったとか、ならなかったとか。