事情聴取の時間だぞ。
3話分一気に投稿です。よろしくお願いします。
通門税を払い、王都に入った俺達は賑やかな人混みの中を歩いていた。
大通りいっぱいに溢れる人並み。
通り沿いに出店がズラリと並び、大道芸は道行く人達を楽しませる。
豪奢な馬車や商人の馬車などが走っていく。
歴戦の戦士らしい冒険者達が闊歩して……街の中央にある大きな白亜の城がとても綺麗だ。
…………まぁ……なんか、無駄に女性達の視線が多いけど。
アイシャはフードを被ってるからあんまり目立ってないはず。
…………となると、俺か?
「……………なんか、顔についてるのか?」
「テオ、忘れたのかえ?お主、今、顔が良いんじゃぞ?」
「あー……忘れてたわ……」
そういえば、勇者補正なんてヤツがあったんだったな。
俺もフード被った方が良かったか。
「テオは顔が良いからの〜。どんな服でも似合いそうじゃ」
だけど、アイシャは特に気にした様子もなく暢気にそんなことを言っていて。
そーいえば。
「ってか、金はあるのか?」
「うん?あぁ、換金もするぞ?」
「………………何を……?」
「魔石と、じゃよ?」
………………うぇっ……⁉︎
「魔、魔石って……あの旅で使う?」
「おーいえす」
魔石とは、その名の通り魔法の力を込めた石で。
火の魔石なら、火を出せるし……水の魔石なら飲み水を出せる。
消耗品だが……火を起こすための薪や、着火道具、水筒などを持っていくよりも嵩張らないため……商人や、旅をする者達、冒険者達にとっての必需品だ。
俺も旅をしていた時はかなーりお世話になっていた。
魔石はそこそこ強い魔法使いじゃないと作れないと聞いていたんだが……まさか、アイシャが作れるとは。
…………………というか、魔王が人々の生活をフォローしていたとは。
「…………もう……驚くまい……」
「取り敢えず、先に品卸しかのぅ〜」
アイシャは俺の手を引いて歩き出す。
王都は中央の王城と広場、北を高級居住区、東を一般居住区と農業区、西を鍛治区、南を商業区としている。
まぁ、南門から入るのが一般的だから……冒険者とか宿に泊まる人が使いやすいようにって感じなんだろうけど。
アイシャは商業ギルドに辿り着くと、慣れた様子で中に入った。
中は商業ギルドってこともあって、かなり良さげな感じだ。
高そうなソファとテーブル。
カウンターにいる受付嬢達も中々パリッとした制服を着ていて……品が良い。
いかにも商談用の施設って感じだな。
「………あら?アイシャさん。お久しぶりです」
カウンターの奥からスーツ姿のナイスバディ眼鏡女性が颯爽と現れる。
………うわぁ、キャリアウーマンって感じだ。
「お久しぶりなのじゃ、ジュディ。商品を持ってきたぞ」
「まぁ、ありがとうございます。アイシャさんの品は品質優良ですから、とても有難いです」
彼女はジュディさんと言うらしい。
ジュディさんは俺に顔を向けて……品定めするような視線になった。
「そちらは?」
「……………テオドール。アイシャの所で世話になっている」
「……………テオドール?」
ピクッと彼女が反応する。
……………肌がピリピリする。
こういう時って碌なことにならないんだよな……。
「…………ふぅん?商業ギルドのサブマスターのジュディ・オスティです。よろしくお願いしますね」
…………絶対、よろしくする気ねぇだろ。
すっげぇ、敵意あんだけど。
………………カチャ……。
………あぁ……聞きたくない音まで聞こえちゃったじゃねぇか……。
「アイシャさん。裏手へどうぞ」
「あぁ」
アイシャは彼女に案内されて、カウンター裏の扉に向かう。
…………あれ?あそこのソファで換金するんじゃないのか?
「どうした?テオ」
「いや、入り口にあったソファでやるのかと……」
「あそこは待合室のようなものじゃ。基本、取引は裏手でやるんじゃよ」
「えぇ。商業ギルドで売られている商品によっては、売り手の身が危険になりますから。商品がバレないように、裏手で行うんです」
「危険?」
ジュディさんは〝そんなことも分からないんですか?〟と言わんばかりの顔で見つめてくる。
この野郎……こちとらただの農民なんだよ。
「例えば、商品をただで得ようとするため……ならず者が売り手を拉致します」
「……………は?」
「手に入れたお金を奪うために、襲われる可能性もあります。だから、いくらお金を持っているかが分からないように……裏手で行うんです」
「………………ふぅん。なるほどな」
確かに、そういうリスクを減らすために裏手で取引するのは当然か。
まぁ……それでも襲われる可能性はあるだろうけど。
でも、王都だからそーいうのはないかと思ってたんだが……まぁ、表が煌びやかな代わりに裏も深いのか。
「では、テオドールさんはそちらでお待ち下さい」
ジュディさんは俺を信用してないのか、俺を置いて行く気らしい。
………まぁ、アイシャを巻き込めないし仕方ないか。
素直にここで待とうとしたら……アイシャに手を取られた。
「いいや、テオも連れて行く」
「………………はい?」
「アイシャさん?」
「テオは妾の家族じゃ。問題なかろう?」
…………………いや……あの……家族扱いは嬉しいんだけどさ。
ジュディさんの顔が完全に敵対化したぞ、おい。
「いいえ、なりません。こちらとしては、アイシャさんは信用してますが……その男の信頼はできませんから。何か害意があって貴女に接触したのかもしれないでしょう?」
………ま、魔王より信用のない俺ってなんなんだ……。
だけど、アイシャは譲らない。
「意味が分からん。どうして妾が連れてきたのに、問題なんじゃ」
「信用がないからです」
「一緒に暮らしておるから問題ない」
「いいえ、なりません」
…………言い合いをするアイシャ達を尻目に、俺は商業ギルド内にバレないように視線を動かす。
一、二……全部で五人か。
「アイシャ」
「うむ?」
「ちょっと頭を下げてろ」
「………………………え?」
アイシャの返事を待つより先に、飛んでくるモノ。
アイシャ達がそれに気づき、叫ぼうとするが……俺は飛んできたナイフの刃先を指で掴み、逆に投げ返す。
それが開戦の合図で。
殺気を隠しきれてなかった刺客達は、俺を倒さんと飛び出してくる。
「ふっ‼︎」
魔法で隠れてたみたいだけど、まだまだ甘い。
一瞬で距離を詰めて、まず一人。
回復役らしい男を腹を殴り意識を飛ばし、動揺している間に魔法使いらしい女との距離を詰めて、彼女の持っていた杖を破壊する。
「なっ⁉︎」
媒介を使ってないタイプの魔法使いは意識を刈り取らなきゃいけないけど、杖とかの媒介を使ってる奴は……それを破壊してやれば魔法が使えなくなるんだよな。
俺は一旦、距離を取り……残りの三人を確認する。
戦士(男)と拳闘士(男)……後は斥候(女)か。
「テオっっっ‼︎」
アイシャに名前を呼ばれるが、俺はチラリと視線を向けるだけ。
アイシャ達から距離はあるから問題はないと思うけど……はぁ……面倒くせぇな……。
「で?なんで襲ってきた感じ?」
俺が質問すると戦士っぽい屈強な男が答える。
「お前の名前が〝テオドール〟だからだ」
………………は?
「………………意味分からねぇし」
「勇者パーティーにいた〝テオドール〟という斥候が聖剣を奪って逃げたらしい。茶髪に茶色の目と聞いているが……容姿を変えている可能性もある。あんたを捕えさせてもらうぞ」
ほぅほぅ……なるほどな……。
………………………ふぅ………。
俺は息を吐き、緩く笑う。
………………そして……叫んだ。
「ふざけんじゃねぇぞ、屑どもがっっっ‼︎」
『ヒィッ⁉︎』
俺は激昂して、殺意を迸られながらギリッと歯を噛みしめる。
この場にいる奴らがガクガクと震えているが、気にしてられない。
ふざけんな、ふざけんな、ふざけんじゃねぇよ‼︎
アイツらが追放したのに、俺が聖剣を奪って逃げただと⁉︎
どこまで俺を貶めれば気が済むんだ‼︎
こんなことなら、暫く再起不能になるまでアルドのクソ野郎を殴っときゃ良かった‼︎
俺が、ずっと、どんな思いでっ………‼︎
「テオ〜?」
どんな思い………でっ………ぇ……。
………………………………。
………………………………………………………。
「………………いや、自分で言っちゃ駄目だろうけどさ。俺、今、ブチ切れてたじゃん」
「うむ」
「なんで俺の目の前に来ちゃうかなぁ……アイシャ………」
「だって、怒ってるテオは面白くないからのぅ〜」
激昂している俺の前に普通に来ちゃうアイシャは、クスクス笑いながら俺をぎゅーっと抱き締める。
ついでに頬にちゅうっと、キスされた。
「ふわぃ⁉︎」
ブワッと顔が熱くなって、俺の動きが止まる。
アイシャはそんな俺を見て満足げに笑う。
「うん。妾、いつものゆる〜いテオの方が好きじゃぞ」
「………………えぇぇぇ……」
さっきまでの殺意はどこへやら。
一気に脱力した俺は、ぐでーんとアイシャに凭れる。
あぁ……ヤバい……一気にやる気がゼロに……。
「大丈夫かえ?」
「……………疲れた……」
「怒るのは疲れるじゃよ?」
「……………帰って布団で寝たい……」
「えっ‼︎それは駄目‼︎妾とまだ遊んでないじゃろ⁉︎デートの途中で帰るのは駄目なのじゃ‼︎」
「………あー……はいはい……取り敢えず、詳しい話をしてから、だな」
部屋の隅で集まって怯えてる奴ら。
事情聴取の時間だぞ。




