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声の言うがままに歩く鬼娘

 書き溜めなんて有って無かったようなものなので、ちょっとスローペースになると思います。



『ここを右に曲がれ。――そこの(どん)()は弱めの【光熱弾(シャイン・バレット)】で事足りる。適当に片付けろ』

『声』に導かれながら、私は迷宮を歩く。

 ワイバーンをあっさりと倒してからしばらく、私は『声』の言うがままに足を進めていた。どうやって『声』は目的地への道を把握しているのか謎だけれど、きっと私には分からない不思議な力でもあるのだろう。

『声』の目指す目的地へとひたすら歩いている間に、魔力の扱いにも大分慣れてきた。道中遭遇する魔物を全て魔法で片付けていたから、ちょうど良い感覚を掴めたのだ。

「【光熱弾(シャイン・バレット)】!」

 私の掌から白色の魔法陣が浮かび上がり、そこに収縮された魔力が光の弾丸となって呑鬼(トロール)の顔面を打ち抜く。石材を焼き切る熱量を秘めた光弾はぶくぶくに太った鬼族の顔に大きな穴を穿ち、その背後の石材を焦がして消えた。

 こうして何度も魔法で敵を倒していると、精密な狙いもつけられるようになってくる。一度頭や心臓などの急所を狙ってみたら思った以上に効いて、その時味わった快感が堪らなく心地よく、それからは積極的に弱点を狙ってみることにしている。

『……魔法を使い始めて二時間で、すでに狙撃手(スナイパー)か。恐ろしい奴だ』

「スナイパー?」

『今の貴様のように、遠距離から弱点(ウィークポイント)を狙い撃ちする弓兵や魔道士のことだ』

「へぇ。なんかカッコイイね」

『声』は博識で、質問したら全て返ってくるのでとっても便利だ。

 この代わり映えのしない景色が続く迷宮でも、いろいろな種族の魔物が闊歩し、様々な武器や魔法を手に襲いかかってくるので、知りたいことは一杯ある。それに、生まれたばかりの私にとっては何もかもが新鮮だ。その答えを用意してくれる『声』は、私にとってすでに無くてはならない存在となっている。

 ……その正体が、かつて私の体を奪おうとした魔王だったとしても。

 そう――私の中で直接語りかけてくる存在なんて、あの『白き魔王』以外あり得ない。

 私にとっては恨むべき存在なのだろうけど……この状態では私に危害が加えられないってことはなんとなく理解しているから、気にしないことにしている。それに、鬼族は強者に対して敬意を払うものだしね。たとえ一度下した相手だったとしても、強敵であったことは確かだし、丁重に扱うのが正しいだろう。

 まぁ、魔王に対する丁重なおもてなしの仕方なんて知らないんだけど。

技能(スキル)で霊魂を捕食したら、武器もそいつのものと交換しておけ』

「りょうかーい」

 少し前に倒したリザードマンの武器だった薄い青の輝きを宿す穂をつけた槍を捨て、今し方頭部を潰されたばかりのトロールの死体に手を翳すと、スキル『霊魂捕食』を発動させる。

 それからほんの僅かに体内に蓄積された力が高まったのを感じながら、トロールが握っている剣を手に取って見回す。赤いものが混じった刃の、両刃の長剣だ。軽く振ってみると、先ほどの槍よりも使いやすい気がする。

 まぁ、槍も剣も使うのは初めてなことに変わりはないけど。

『さぁ、行くぞ。立ち止まる暇はない』

 魔王に急かされ、私はまた歩き出す。

 ……トロールの肉は食べられるか試してみたかったんだけど、なんかオーガの時と同じ結果になりそうだったし、やっぱりいいや。

 でも、空腹は早くなんとかしないとなぁ。

 そんなことを考えながら、見つけた魔物を片っ端から魔法で撃ち抜く。

 なんというか、歯ごたえがない。第三階級(Cランク)の鬼人だからか、魔力の量もそれなりに多いようで、急所を狙っていることもあってかほとんどの魔物を一撃で葬り去ることができた。

 つまんないなぁ、なんて鬼族としての好戦的な思考をしつつ、私は暇潰しに魔王に問いかけてみる。

「ねぇ、あとどのくらいで着くの? というかなにを目指してたんだっけ」

『阿呆。我らの目的は「白」の継承、すなわち我の肉体が封印されている「(はく)(りん)(こう)の間」だ』

「はく……なに?」

『白燐光。我の名だ』

 あれ? この人(人……?)、前は『白き魔王』ルシ……ルシ……ルーシー? って名乗ってなかったっけ?

『ルシフェード=ヴァイスだ。なぜ偉大なる魔王の名を覚えられぬのか……』

 逆にどうして、一度聞いただけで覚えてもらえていると思っているのか、私には分からないよ。

 というか心読まれた? あ、『白き魔王』も私の体の中にいるんだから、そのくらい簡単なのか。

『まぁよい。ルシフェードの名は、エルフとして生を受けた時に父上と母上から貰った名だ』

 エルフだったんだ、この魔王。

『そして「白燐光」は、我が魔王として存在を星監図書館(エーテル・コード)に刻んだ際に与えられた二つ名(セカンド・ネーム)だ。ゆえに、勇者どもは我の肉体を封印した部屋にそのような名をつけたのだろう』

 ……なんか良く分からない単語が飛び出してきたけど、今はおいておこう。

「じゃあ、『白き魔王』ってのはなんなの?」

『俗称だ。どうやら「白燐光」の名は難しいのか無学なものには覚えられぬようで、簡略化された名が広まったのだろう。だから我も勇者や王族が相手でもない限り、そちらを名乗るようにしている』

「へぇ……優しいんだね」

『……、別にそのようなものではない』

 ちょっと『声』の調子が変わった。照れてるのかな?

『ふん。無駄な話は仕舞いだ。――いよいよだぞ』

「え?」

 あ、そういえば『白き魔王』の体が封印されている場所を目指していたんだっけ。

 話しながらだと、そんなに時間が経った気がしないなぁ。

 私の目の前には、大きな扉が(そび)えている。白い花を中央に飾り、その周囲を氷の結晶と水の飛沫を象徴した文様が彫られていて、その荘厳さをより引き立てていた。

『調子は万全か?』

 訊いてくる魔王に、私は頷く。

「うん。魔力も大分戻ってるよ」

 道中の魔物を、魔力消費を少量に抑えながら倒し、その魂を『霊魂捕食』のスキルで喰らったため、魔力は半分以上回復している。ワイバーンの時みたいな超威力は出せないけれど、並の魔物なら何体襲いかかってきても問題ない。

 ……というか、なんでそんなことを訊くんだろう?

『見れば分かる。()く開けよ』

 魔王が急かしてくるけれど、ちょっと不安だ。

 でも、ここでずっと待っていても仕方ないので、私は金属の扉に手を掛け、力を込めて押す。

 ……お、重い。

 なにこれ、びくともしないんだけど?

『阿呆、それは押すのではなく引いて開けるのだ』

「先に言ってよ……」

 やや脱力しながら、今度は引っ張る。すると、先ほどまでの重さからは想像できないほどあっさりと扉は動き、内部への道を開いた。

 ゴウン、と音を立てて目一杯扉が開いたことを確認してから、私は一歩部屋へ踏み出す。

 中は真っ暗ということはなく、壁に発光する石が埋め込まれていた。迷宮の所々で見かけるものと同じものだとは思うけれど、加工されているのか、此方の方がいくらか明るいし、見た目も整然としている。

 思っていたよりも広い。オーガが実体並んでも大丈夫だった迷宮の廊下よりも、ずっと余裕がある。ここなら、周囲のものを気にせず戦闘に没頭できそうだ。

 でも、魔物の気配は一切無い。

 あるのは、部屋の中央に鎮座する、良く分からない金属の塊だけだ。

『なぜ調子を訊いたか、だったな』

 と、魔王がそんなことを語りかけてきた。

 別に答えなくても良かったのだけれど、なんだか嫌な予感がする。

 肌がピリピリするというか……なんか、不味い事態が起こりそうな感覚だ。自然、全身が堅くなったのを感じる。

 ――その私の感覚は正しかったと、五秒後に肯定された。

『我ほどの魔王を封印する部屋を、何の守りもなく無防備に解放するわけにもいくまい』

 ガギン、と。何か金属のものが割れた音が部屋に木霊する。

 音の発生源は、部屋の中央に積まれた謎の金属の山。

 ……いや。

 ()()

 あれは、ただの金属の塊などではない。

 だって、今まで出会った魔物達が持っていた武器にも使われていなかった見たこともない質感の金属だし、妙な文様も描かれている。魔法を使い始めたから分かることだけれど、アレは何らかの魔法的意味を孕んだものだ。

 なんだっけ? 確か、基礎知識として、あんな特徴の魔物を知っていたはず。

 (こう)()族の一種……それも自立し、かつ高い戦闘能力を誇る、一部の超出力個体は兵器なんて呼ばれる――。

魔道人形(ゴーレム)。「(てん)()の賢者」リアが作り出した、我の肉体を見張るための番人だ。その役割ゆえに、階級(ランク)()()()()()A以上である』

 ……、は?

 今、この魔王はなんて言った?

『これは試練だ、次代を担う新たな「白」よ。圧倒的理不尽を誇る遙かな上位者を打ち倒し、因果運命をねじ曲げ、己が存在を世界に刻め。さらば、我が「白」は貴様を次の担い手と認めよう』

 魔王の演説を聴いている余裕なんて無かった。

 堅牢な金属の塊が、重苦しい音を立てながら()()()()()

 エネルギーは魔力。その出力は、ワイバーンを凌ぐほどの超怪力を実現するだろう。


『――侵入者の存在を確認。ランクC、鬼族。武装は赤属性の下位魔剣と思われる。推定脅威度……D+と算出。これより、演習用低(プラクティス・)コスト運用(モード・イージー)にて処理を行います――』


 ウィィィイイイン――と。

 奇怪な音を立てながら、強大な質量を誇る兵器が鉄の拳を振り上げる――。


   ◆ ◆ ◆


◆鬼人(固有名未設定)

 年齢:0(生後数十時間)

 性別:女

 階級:C

 種族:鬼族・鬼人

 職業:魔法拳士 → 魔道士

 恩恵:『???の祝福』『白き魔王の怨嗟』

 称号:『反逆者』『英雄』『魂喰い(ソウルイーター)

 技能:『光魔法・下級』『???・下級』『???・下級』『???・下級』『因果の打倒』『英雄謳歌』『霊魂捕食』『怪力・並』『火炎の吐息(フレイムブレス)・並』『酩酊耐性・強』New!『豪腕』New!

 武装:魔剣〈無銘〉……赤属性の下位魔剣。刀身に火を纏わせられる。

 特徴:背中まである銀髪。ぱっちりとした紅い瞳。額から二本の紅い角が生えている。身長148センチ。



 ステータスの情報が大分増えてきたので、簡略化しました。

 いくらか話数が進んだら、効果もきちんと記した完全なステータスを再び表記する予定です。

 一応、新獲得スキルは後書きに書きますが。


 実は、増えているスキルは『霊魂捕食』の効果によるものだったりします。


『酩酊耐性・強』……酩酊耐性Ⅲ、混乱耐性Ⅰの補正をかける。(トロールから獲得)

『豪腕』……両腕に筋力上昇Ⅴの補正をかける。(オーガから獲得)


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