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魔法をぶっ放す鬼娘

 ワイバーン戦はあっさり塩味。



 ボケている暇なんて無い。

 一秒の思考の鈍りさえ、死に直結する。

「っ」

 私が最初に取った行動は、後退だった。

 真正面から立ち向かって勝てる相手じゃない。いくら戦闘狂の鬼族とはいえ、そのくらいの分別はつく。いや、なまじ戦闘に対する意欲が強いからこそ、並外れた戦闘勘(バトルセンス)が不可能を告げてくるのだ。

 でも、ゴブリンの一匹や二匹など丸々飲み込んでしまうほどの巨体を持つワイバーンにとって、ゴブリン――いや、鬼人の小娘の一歩なんて、大した距離じゃない。

 グワッ! と。周囲の空気を巻き込みながら、右翼が私の体を薙ぎ払う。

「ぐぅっ!」

 衝撃音を打ち鳴らして、私の体が石壁に罅を奔らせる。

 痛い。オーガの時とは比べものにならない痛みの本流が私を押しつぶす。でも、それに心を屈するのは死を意味する。

 全身に走る痛みに叫び出したくなる衝動を全力で抑え込み、私は追撃を躱すべく、両足に力を込めた。

 ――けれど。

「グゥルルル……」

 低く喉を鳴らすワイバーンの目に、私は映っていない。

 池に口をつけ、ピチャピチャと水を啜っている。

 私などいないものとして、自身の欲を満たしている……?

 …………。

 そもそもワイバーンは、食料を探していたのではなく、水場で水分補給することを目的としていたのだろう。そこにたまたま、私という邪魔な小物がいたから、軽く掃除した。その程度の認識だろうか。

「……、」

 ここは、逃げるのが得策だ。

 というか、生き残りたければ、そうする意外に道はない。

 分かってはいる、のだけれど……。


 ――戦いたい。

 勝って、私を無視する上位存在に、私の存在を示したい。


 これは、鬼族の習性?

 それとも、私のエゴ?

 ううん。たぶん、それもあるけれど――なんて言えば良いんだろう。心の奥底……そう、言わば魂の部分が、そうしなきゃいけないって叫んでいるんだ。

 まるで自分の意志を塗り潰すように、うるさい声が響いている。


『ワイバーン如きに、なぜ()()()(おく)さねばならないのだ』


 ……だって、第三階級(Cランク)の鬼人と第四階級(Bランク)のワイバーンとじゃ、天と地ほどの差がある。オーガの時なんて比較にならないくらい、ワイバーンと鬼人との差は、絶望的だ。


『それは誤りだ。認識が間違っている。勝てない、なんてことはない。(きさま)にはその力がある。貴様(われ)はその方法を()()()いる。なれば、勝てぬ道理はない』


 知らない。空の王者を狩る方法なんて、私は持ち合わせていない。

 まず第一に、武器すらないのだ。そんな状態で、どうやってあの堅い鱗を貫けば良い? 強靱な皮を斬り裂けば良い?

 分からない。

 思いつかない。

 …………。

 ……………………。

「魔法だ」

 ぽろりと零れた言葉は、なるほど、確かにそれなら可能だろう。

『答えは出た。なれば、後は実戦のみである』

 魔法の使い方なんて知らない。

 でも、()()()()()

 感覚が分かる。『覚えている』というより、『思い出した』というべきだろうか?

 なんでも良い。目の前のデカブツを、ねじ伏せることができるのなら。

 生まれて初めて、体内を巡る魔力を自覚する。温かくて、でもどこか冷たい、不思議な感覚。

 池から水を汲み上げるように、私の中に眠る魔力を取り出す。

 もっと。もっと多く。

『まだだ。それでは足りぬ』

 足りない。ワイバーンを一撃で沈めるためには、もっと必要なのに。

「あ」

 見つけた。もっと多くの力を取り出す方法。

 私は体の奥――精神か、或いは魂か――に意識を集中し、スイッチを切り替えるような感覚をイメージした。

 すると、体に力がみなぎってくる。

 無から有を生み出したわけじゃない。元々ある私の力を、何倍にも引き上げたのだ。

『なかなかに優秀な技能(スキル)だ。「英雄謳歌」の強者特攻Ⅱ。確かに、今の貴様には相応しい』

 空っぽになるほど魔力を汲み上げて、それを私の手の中で練り上げる。圧縮させる。その方が強くなる気がしたから。ただの感覚だけど、たぶん、間違っていないはず。

『うむ。良い。それでこそ、()()()()()である』

 もう十分かな。

 でも、やっぱり竜族相手なら、もっともっと威力を高める必要があるかもしれない。

「グルゥ……?」

 あ――もう時間切れだ。

 魔力の高まりを感知したのか、ワイバーンはぐるりと首を曲げて私を見詰めてくる。

 その目を、私はじっと見返した。

 恐怖心はある。だって、竜が相手なのだ。恐くないわけがない。

 でも――。

 勝てないなんて、私はこのとき、これっぽっちも思っていなかった。

 その証として、私は魔力を高めた両手をワイバーンへ突き付け、悠然とその魔法名を口にする。

「――【光熱弾(シャイン・バレット)】」


 刹那。

 純白の閃光が、世界を塗り潰した。


「――――ッ!」

 叫んだ声が私のものなのか、それともワイバーンの絶叫なのか、それすらも分からない。

 五感が狂う。ぐるぐるというより、ぐちゃぐちゃに近い混沌とした私の感覚は、圧倒的なまでの白と熱だけを確実に捉えていた。

 目を閉じておけば良かった、なんて気楽な考えが浮かぶだけまだマシか。もしかしたら、目が焼けて何も見えなくなってしまったかもしれないのに。

 十秒か、或いはもっと長い時間を経て。

 やがて、視界は元の灰色の迷宮を映し出す。

 良かった。目は焼けていなかったみたい。

 ううん、違った。()()()()()()()()()()()

「うわ……っ」

 思わず声が零れるほど、目の前の光景は、私に衝撃を齎した。

 私の正面から放射状に抉れた――いや、()()()()()石の床。まるで目の前の全てを消してしまったかのように、私の肉眼が捉えられる限界まで、なにも遮るものが存在しない。

 全て、灼けたのだ。

 私が放った、光の魔法によって。

「あ……そういえば、ワイバーンは……」

 辺りを見回してみるけれど、それらしい影は見当たらない。

 どこかに飛んで行っちゃったのかな?

 ううん、違う。そんな余裕はなかった。間違いなくワイバーンは、私の魔法に飲み込まれていたはずだ。

 なら――ワイバーンは、どこに行ったのだろう?

 答えは簡単だ。目の前の石材の床や壁と一緒で、全て灼き払われたのだ。

 つまり……勝ったってことで、良いんだよね?

 あまり実感が湧かない。オーガの時みたいな接戦じゃないから、かな。ううん、魔法を使うのが初めてだからかもしれない。

 と――ちょっとばかり混乱する頭を落ち着かせていると。

 ガクッ、と。唐突に、視界が傾いた。

「あれ……?」

 膝を床につけることでなんとか転倒を防いだ私は、視界がグニャグニャと揺れていることに気付く。

 気持ち悪い。体も重くて、力が入らない。

 毒……という単語が頭に浮かんだけれど、違うと断言した。それは直感などでも、魔力の収縮で生まれた魔物が備える基礎知識などでもなく――。

『魔力切れか。当然だな。初めての魔力行使で、己の持つほとんどの魔力を引き出し、あまつさえ限定的な限界突破(リミットオーバー)までも行ったのだから、一週間は夢の狭間を彷徨うだろう』

『声』が、断言する。

 でもその意味は、私には理解できない。そもそもこの『声』が何者なのか、それすらも分からない。

 ――いや。これは以前、聞いたことがあるものだ。だとすれば、この『声』の主は――。

『だが、ここで意識を失うのは好ましくない。まずは「霊魂捕食」を使って魔力をいくらか回復させるべきだな』

『声』の提案は、なぜだが、受け入れるべきだと思った。

 害がある提案ではなく、私の利益となるものだと悟った……というか、そもそも害となる提案をするわけがないという、おかしな確信だ。

 でも、そもそも『霊魂捕食』って、どうやって使うのかな?

『「英雄謳歌」の時と同じだ。意識を深くへ潜らせ、己の魂につけられたスイッチを入れろ。さすれば自ずと分かる』

 言われるがまま、私は意識を自身の内側へ――魂へ集中させる。

 一度やったからなのか、それとも『声』の助言があったからか、幸いにもすぐに分かった。カチリ、とイメージする。

 すると、私の体へ、光の粒が集まってきた。

「な、なに……?」

 体に力が入らなくても、防衛本能からか反射的にそれらを振り払うけれど、光の粒は私の手に触れた瞬間、まるで吸い込まれるように消えていく。

 これは……オーガの時にもあったやつかな。

 なら、今回のは、ワイバーンのもの?

『よろしい。では次のステップだ』

 どこか楽しげな――何かを期待するような、弾んだ調子の『声』。

 それに呼応して……ってわけでもないけれど、なんだか体が軽い。先ほどまでの怠さが嘘のように消えている。ワイバーンの『光』を吸収してからだ。

『声』は『霊魂捕食』と言っていたから、私はワイバーンの魂を喰らったのだろう。

 それがどんな効果を及ぼすのか、私にはまだ分からない。今確認できたのは、体が軽くなることくらいか。あと、どことなく力がみなぎってくる。ほとんど無くなっていたはずの魔力も、ちょっとだけ復活していた。

 と、自身の体の変化に驚いている私に、『声』は唐突に言った。

『行くぞ、小娘。「白」の名を継承するために』

「……、どこへ?」

『声』の目的が何なのかすら分からないのに、私はただそれだけを問いかけた。

 対して『声』は、『決まっておろう』と尊大な調子で告げる。

『我の体のもとへ、だ』


   ◆ ◆ ◆


◆鬼人(固有名未設定)

 年齢:0(生後数時間)

 性別:女

 階級:C

 種族:鬼族・鬼人

 職業:ファイター → 魔法拳士

 恩恵:『???の祝福』……※情報開示権限レベルが不足しています。

    『白き魔王の怨嗟』……白き魔王を喰らった際に魂に付着した呪い。(白属性適性Ⅲ 青属性適性Ⅲ / 狂気Ⅰ)

 称号:『反逆者』……運命に抗う者に与えられる。(幸運Ⅱ 特殊技能『因果の打倒』獲得)

    『英雄』……魔王を討伐した者に与えられる。(魔力上昇Ⅱ 筋力上昇Ⅰ 幸運Ⅰ 特殊技能『英雄謳歌』獲得)

    『魂喰い(ソウルイーター)』……魂を喰らった者に与えられる。(特殊技能『霊魂捕食』獲得)

 技能:『光魔法・下級』……多少の光の魔法を扱える。初期のもの以外は自力で生み出せるが、あまり効果は期待できない。(【光源球(ライトボール)】【光熱弾(シャイン・バレット)】)

    『???・下級』……※情報開示権限レベルが不足しています。

    『???・下級』……※情報開示権限レベルが不足しています。

    『???・下級』……※情報開示権限レベルが不足しています。

    『因果の打倒』……不運操作の影響を受けない。不利な運命操作の影響を受けない。

    『英雄謳歌』……強者特攻Ⅱ、悪性特攻Ⅱの補正をかける。

    『霊魂捕食』……倒した敵の魂を喰らえる。

    『怪力・並』……筋力上昇Ⅲの補正をかける。

    『火炎の吐息(フレイムブレス)・並』……それなりの火炎を口腔から放射できる。New!

 武装:

 特徴:背中まである銀髪。ぱっちりとした紅い瞳。額から二本の紅い角が生えている。身長148センチ。



 どこが『(バレット)』やねん、と言ってくれるやつがいない深刻なツッコミ不足。

 全魔力を振り絞ってこの威力……って考えると微妙なところなのですが、まぁそれなりに魔法使いとして優秀かな? くらいです。今はまだ。


 さて、そもそもの話ですが。

 最強最悪(まおう)があの程度でやられるとでも?

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