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薄弱少年と願いを叶える幻夢郷  作者: わたっふ
第2章 悟神・夏祭り編
11/12

第10夢 惨劇の過去

当時の享奈はまだ中学に上がりたての元気な女の子であった。

表情豊かで、家族や周りからもとても好かれていた。

だがその一方で何をするにも1人では出来ず、その都度両親や友人を困らせては持ち前の笑顔で解決してきたと言う。

そんな生活を送っていた享奈は、中学校の夏休みを利用して家族とともに遠出をすることとなったそうだ。



「その時に奴らが……」


「はい。それもいきなりでした」



とある県にて気晴らしに山登りをしていた時のこと。

それまで燦々と晴れ渡っていた空が一瞬にして雨雲に覆われ、ゴロゴロと雷が鳴り始める。


『こりゃヤバイな。一雨来るかも知れん』


『そうね。ゆきちゃんが風邪を引いたら嫌やわ』


『一旦、あそこに避難しよう。今から山を下るのは危険だ』


などと話しながら、3人は近くにあった山小屋へと駆け込む。

しかし、一向に降る気配が無い空に違和感を覚え、享奈は下山しようと両親に告げる。

話し合った結果、このままここに居ても何も変わらないということとなり、一か八かの勝負に出た。

父が山小屋の扉を勢いよく開け、享奈と母を外に出して走りだそうとしたその時───



【【降り始めたのだ】】



不思議なことに、それは水滴ではなかった。


ビリビリと地面から伝わってくる痺れと振動。


大きな音を立てて地面に落ちてきたものの正体は、なんと無数の小さな雷だった。

そしてそれらが次々と人へと形を変え、その場には数十という稲妻を身体に纏った人間が現れる。

その誰もが黒い服にフードを被り、表情を見せないという異様な出で立ちだった。


『……何者だ?』


2人を後ろにつけ、鋭い眼光を向けた父。


『答える必要はないんじャねェか? とッくにご存知の筈だろォ?』


語尾を伸ばす、独特な喋り口調の男が人混みをかき分けて3人の前に立ち、両手を広げて自己紹介をする。


『特殊能力撲滅機動隊 隊長 ゾルバース・ヴェルデだァ。突然で悪いがァ……今からテメェらを抹殺するゥ……悪く思わないでくれよォ?』


男がそう言った直後、稲妻兵(以下雷兵)が3人に襲いかかって来る。

訳がわからず立ち竦む享奈に、両親は逃げろと言う。


『ここはお父さん達に任せて、享奈は早く山を降りるんだっ……!』


『お母さんも後で追うから……早く!』


両親が声を張り上げると、自分たちを除いた全ての時間が止まる。


『あ……ぁ……』


享奈はその時、初めて両親が能力者であることを知る。

そして同時に、自分もその力を持っていることを───


『うぐっ……!』


振り返り、享奈は走り出す。

走って、走って、これ以上足が動かないという程まで走り続けた後に石に躓いて転ぶ。


『あ……れ……どこ……ここ…』


擦りむいた左膝を抑えながら、状況を理解する為にも起き上がって周りを見渡す。

登ってきた道を間違えてしまったのか、辺りには真っ暗な森が広がっていた。

不安と恐怖に包まれ、享奈は思わず両親の名を叫ぶ。

しかし当然のことながら、その声に応えるものはいなかった。


『お父さん……お母さん……』


享奈は再び走り出す。

草木を掻き分け、身体中を枝で擦りながらもなんとか剥き出しの茶色い地面の道に出た。

右は下り坂、左は上り坂。

故に右へ行けば山を降りることが可能だった。

しかし享奈は左の上り坂へ足を進めていた。

それは気が狂った訳じゃなく、死にたいと思った訳でもない。

ただ単純に、母の言葉を信じていたからだった。


【後で追うから】


そう言っていたから、この不安を消してくれる安心を求めて享奈は両親の元へと向かった。

空が近付くにつれ、へし折れた木々や抉られた地面が目に映り込んでくる。

そして最後の一歩を踏み出して、またいつもの様に両親の名を呼ぼうとした。

その時、見てはいけない現実を目の当たりにしてしまったのだ。

その戦いの決着を───



「どう……なったんだ?」


「…………血を流しながら倒れていました」



先程まで居た雷兵らは影も形も無く、そこに居たのは荒い呼吸を繰り返すゾルバースと地に伏せた両親の3人だけだった。

ゾルバースは右腕を負傷したらしく、だらりと垂れ下がった腕からは血が滴り落ちている。


『ぁ……』


ピクリとも動かない両親に、享奈の目からは光が消える。

その姿にゾルバースはケタケタと笑い、立ち尽くす享奈の方へ顔を向けた。


『良く戻ってきてくれたなァ……良い子にはご褒美をあげなくてはァ……』


『───』


何故こんな目に会わなきゃならないのか?

自分たちが何をしたというのか?



────何も分からなかった。



しかしただ一つだけ明らかだったのは、目の前にいるこの男は正気ではないということ。

そしてそれから導き出される結論として、今この時を持って自分の命は終わりを告げてしまうということも───


『テメェもすぐにコイツらと同じ所へ送ッてやるよォ……ゴミはゴミ箱に捨てなきャならねェからなァ〜』


『ゴミじゃない……』


『あ?』


『……ゴミはお前のほうだ!』


だがその瞬間、享奈の心は恐怖といった感情よりも、怒りや憎しみ、そして殺してやるという強い殺意に満ち溢れた。

唇を噛み締め、拳がプルプルと震えだす。

木々がざわめき出し、辺りに冷たく冷えきった風が吹き始める。


『あくまで俺を倒そうッてかァ……良いぜェ?受けて立ッてやらァ』


その怪しい雰囲気に、ゾルバースは血だらけの右腕を口に咥えて戦闘態勢へ移る。


『許さない……絶対に……』


享奈が涙を流しながら声を張り上げると同時に、2人を包む空間が一瞬にして崩壊する。

ガラスが割れるかの如く空中にヒビが入り、パリンと言う音と共に世界が異様な姿へと変わった。


『(珍しい……異空間生成かァ)』


見渡す限りに咲き乱れた赤い花───彼岸花。

別名【死の花】とも呼ばれるその中に2人は立っていた。

顔を上げると、赤黒く渦巻いた空が見える。



「で……大丈夫だったのかよ……たった1人で挑むなんて無謀すぎるぜ……」


「はい。幸い大事には至りませんでした。故にこうして生きておりますし」


「まさか……お主の力で撃退を?」


「───いいえ。むしろその逆です」



互いに一歩を踏み出して敵対したはいいものの、その力の差はとても大きなものであった。

開戦してから僅か数分足らずで、享奈はゾルバースの力に捩じ伏せられていた。

身動き一つさえ取れないほどに痛めつけられた後、体力切れで能力が解除されて元の世界に戻ってしまう。


『戦いでモノを言うのはァ、怒りや悲しみとかの感情じャァねェんだよォ。その身体に染み込んだ動きや感覚が全てを左右するのさァ』


頭を踏みつけられ、口いっぱいに血の味が広がる。

痛みと悔しさ、そして自分の非力さに止めどなく溢れでる涙が、吐き出された血と混じり合い赤く染まる。

立ち上がる気力、争う気力さえも既にない。

いっそのこと、このまま楽に死なせてくれるのなら───

そう思ってすらいた。


『じャあな、クソガキィ』


振り上げられた掌に、ビリビリと電気の火花を散らすエネルギーの塊が現れる。

命を奪う、ただそれだけの為に創り出された「それ」には、人を殺す躊躇いなどないように思えた。


『────っ!』


潔く負けを認め、迎える死の苦しみに唇を噛みしめる。

バシュンと言う騒音が鼓膜を震わせ、身体が浮かび上がるのが感覚的に伝わってくる。

しかし、不思議なことに痛みはいつまで経っても訪れはしなかった。

死ぬ時とはこうもあっさりしたものだろうか?

そう考えながら、享奈はうっすらと目を開けようとした。


『──?』


だがその瞬間、享奈の顔に何やら重たいものが落下してきた。

右手で顔に覆いかぶさるソレを掴み退け、享奈は目を開ける。

すると目の前には、片腕を無くしたゾルバースが立ち尽くしていた。

目を見開いて、驚きの表情のまま享奈を見下ろしている。

ボトボトと滴り落ちる血が、享奈の顔を赤く染めていく。

突然のことに何が起こったか分からないでいる享奈が、ふと右手に持っているソレを見て短い悲鳴をあげ振り払う。

ボトリと地面に落ちたソレは、肩から切断されたゾルバースの左腕だった。

切断面は、焼け焦げたように黒く変色していて、強烈な熱で焼かれたことが伺える。


『や……野郎ォ……』


ゾルバースが口から血を吐きながら、鬼のような形相で森の中を睨みつける。

その視線の先を追った享奈が目にしたものは、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる1人の背の高い男だった。


『何者だテメェ……』


享奈を挟んで、その男から距離を取るゾルバース。

静寂に包まれた世界の中、荒い呼吸音だけがそこにこだましていた。


『………』


『オイッ!あんまりふざけてッとォテメェからぶッ殺───』


頭を掻いてダルそうに首の骨をコキコキと鳴らす男に、ゾルバースは怒声を浴びせる。

だがその声は、男の人差し指から放たれた光線にプツンと途切れた。

そしてその代わりに口から発せられた言葉は、激痛に悶え苦しむ悲痛な叫び声だった。


『ギャーギャー喚くな、雑種』


『ぁ……ぇ?』


『ガッ……ガギギッ……グ…ハッ……ハァ…ヒヒッ……な…なるほどォ……光かァ……』


左膝を貫かれ、たまらず地面に崩れ落ちる。

片腕を無くしたことで上手くバランスが取れないのだろう。

起き上がろうとする姿勢を示してはいるものの、いかんせん身体が思うようにいかないようだ。


『……立てるか』


暗く、されども力強い言葉に享奈は頷き、差し出された手をガッシリと掴む。


『ぁ…ありが……』


何者かは分からないが、自分を助けてくれたことには変わりない。

ならばと、享奈は今にも途切れそうな震えた声で感謝を述べる。

だがその言葉を最後まで言い終わる前に、享奈は急な眠気に襲われてしまう。


『全く……世話がかかるな』


溜息をつく男は、腕に倒れこんできた享奈を肩に担いで歩き出す。


『オイオイ……当て逃げがテメェのやり方かよォ? 寂しいじャねェかァ! ブラックボックス!』


すると、背中を見せた男にゾルバースの魔の手が襲い掛かってくる。

周囲を闇が支配し、四方八方が暗闇に閉ざされる。


『無駄なことを…』


だがそんな一歩先さえも見えない空間の中、男は冷静に一言、そう言った。

するとその瞬間、ゾルバースの目に少年のような輝きが芽生える。


『ホォ……この技を破るとはなァ……流石は始祖の神ィ!』


内部からの眩しい輝きの後、それまで1度も敗れたことのなかった技の拘束が解かれる。

自分と同等か、あるいはそれ以上の敵がまだこの世界にいたこと、そして歴史に名を刻んだ者であること、その二つがゾルバースに幸福感を与えていた。


『ふん……』


『お初にお目にかかりやァす。俺は特殊能力撲滅機動隊 隊長のゾルバース・ヴェルデと申す者でェ……まさか生きている間にあんたに会えるとは思ッてもいなかッたぜェ』


『こちらも噂は聞いている。話によれば、貴様ら能力者狩りとやらをしているようではないか』


男はゾルバースに背を見せながら、低く怒りの篭った口調で話す。

その返答として、ゾルバースは鼻を鳴らし自慢げに「そうだ」と呟いた。


『ならば、貴様らも死すべきではなかろうか』


『ハァ?』


眉を顰めて頭の上に?を浮かべるゾルバースに、振り返った男は人差し指を向ける。

するとその指先に1つの光の玉が現れた。


『今ならば見逃してやる。だがこれ以上殺戮を繰り返すようならば、こちらも手を打つ』


『ヒュ〜カッコいいねェ!華麗に見事に決まッちまッたぜェ〜だけどよォ……俺には俺の理由があッてのこと……今更やめるわけにはいかねェんだァ』


『──そうか』


それまでの態度とは一変し、真剣な表情を見せたゾルバース。

そんな彼に向かって、蔑むような視線を向けたままそう言い捨てた男は、腕をゆっくりと下ろし再び歩き出す。


『おい、どこへ行くッ!殺るんじャねェのかよォ』


『瀕死の者を殺める程落ちぶれてはおらん。だが次に会った時は全力で貴様を潰す』


情けをかけられ、命を奪わずに去っていく男。

その背中を睨みつけながら、ゾルバースは味わったことのない屈辱と怒りに、膝をついて地面に拳を叩きつけた。


『殺す……奴だけは何が何でもぶッ殺してやるッ……!』


フラフラと覚束ない足取りで、地面に伏せている享奈の両親の元へ辿り着いたゾルバースは、2人の首根っこに右手の爪を食い込ませる。

流れ出た血が指にべっとりとつき、鉄臭い匂いが鼻をつく。


『もうすぐだァ……時期に俺の願いは叶えられるゥ……』


手を引き抜くと、大量の血が辺り一面を赤く染め上げる。

返り血を浴び、そして口の周りに付着した血をペロリと舌で舐める。


『待ッていろォ……必ずやテメェを超えてやる。始祖の神……いや…悟神ッ!』


全身から闇のオーラを放出し、傷ついた身体を再生させる。

そして空に向かって両手を突き出すと、憎しみの篭った雄叫びをあげ、周囲に漂う闇のオーラと共に姿を消した──────


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