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薄弱少年と願いを叶える幻夢郷  作者: わたっふ
第2章 悟神・夏祭り編
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第9夢 不思議な出会い

「暑い……」


朝食を終えた夏来たちは、例の光の正体を突き止めるべく太陽光がジリジリと照らす道路へと出た。

左右を確認するも、行き交う車はおろか、人すらも見れない。


「なぁ夏来……この村は本当に人がいるのか?」


そう思わせるほどに静かな朝だった。

ここ【悟河村】は人口300人足らずの寂れた村だったらしいが、前に来た時にはその印象を覆す程に栄えていた。

話によれば、移住を決意した都会からの人たちが多く入って来て、人口がたった一年で爆発的に増えたと聞く。

それと比例するかのように、村にはスーパーやらコンビニといったものが建つようになり、もはや村と呼んで良いのかといった思いも抱き始めていた。


「さ…さぁ……」


「村なのか町なのか、ハッキリして欲しいもんだな」


しかし昨日、この村に来てからというもの、全くと言って良い程に人とすれ違わない。

暑さで外に出たくないという気持ちはわからなくもないが、正直ここまでとは思わなかった。


「ま、しょうがねぇか……あいたた……」


炎条寺が頰に手を当てる。

昨夜の仙座につねられた部分が、熱を帯びたようにまだヒリヒリと痛むようだ。


「くそっ……ゆりか、お前絶対能力使ってたよな……女子の力じゃねぇっーの」


「自業自得だよ〜だ!」


炎条寺の苦しむ顔を見て、隣を歩く仙座は楽しげに笑う。

本当にこの2人は仲良しなんだなぁと常々思う3人は、少し後ろを歩きながらその光景を見ていた────












「ここで僕は……」


小山の平地へと足を踏み入れた夏来たちは、昨晩の出来事を振り返る。

全く身に覚えがないと主張する夏来に、「これまでもそうだった」とニッ怪は言う。


「山頂までの道がこの辺にあるはずだ。手分けして探すぞ」


その声を合図に、夏来たちはバラバラに散らばって行動を開始する。

草木を掻き分けて捜索すること数十分。

声を上げた幻花が、森の中に古びた石段を見つける。

きっとここだろうと期待を募らせ、夏来たちはその石段を駆け足で登っていく。

行く手を遮るように横へと伸びる枝を潜り抜けながら進む中、前方に何やら赤い建物が見える。

近づくにつれ、それが黒く変色した鳥居であることが分かって来た。


「ふぃ〜着いたぁ〜!」


仙座は最後の一段を元気良く飛び越え着地する。

鳥居を見たときから察しはついていたが、やはり辿り着いた先には大きな神社が建っていた。

辺りは木々に囲まれていて薄暗く、時折小鳥のさえずりが聞こえるだけで、その他に音と呼べるものは存在していない。


「こんな所に神社なんてあったのね……知らなかったわ」


「随分と古そうじゃな」


賽銭箱の前まで来た夏来たちは、その酷く朽ち果てた外見に思わず声を漏らす。

相当昔からこの地に建っていたのだろう。

一撃でも強い衝撃を与えてしまったら、一瞬にして壊れてしまいそうな位にボロボロだ。


「ここが始祖の神がいた場所だとすれば、この神社は闇籠神社って呼ぶみたいだな」


スマホの画面を見つめながら、炎条寺は1人歩き出す。

木で出来た階段に足をかけると、ギシギシと鈍い音がする。


「おっ……やば……壊れねぇだろうな?」


歴史的建造物であるだろうこの神社を、自分が壊してしまわないか。

そう考えつつ恐る恐る足を動かし、なんとか本殿の前へと辿り着く。

一呼吸を置き、炎条寺は立て付けの悪い戸を力一杯横へと引いた。


「えい……」


「のわっ!?」


その瞬間、何者かの声が聞こえたと同時に、炎条寺の身体が木の階段を転げ落ちる。

幸い、右腕を少し擦りむいただけで大事には至らずに済んだ。


「え、炎条寺くんっ……! だ、大丈夫…」


「いってぇな……なんだってんだ!?」


心配そうに身体を起こしてくれた夏来を払いのけ、炎条寺は本殿の中を凝視する。

暗闇の中から白い手が伸びてきたかと思うと、肩までかかるグレー色の髪を持った少女が顔を覗かせる。


「……誰でしょうか?」


「人のこと突き飛ばしておいて、始めのセリフはそれかっ!?」


「……違いました?」


炎条寺の怒声に、一切怯む様子を見せずに返答をする。

その時の少女は、頭の上に?マークが浮かび上がるほどにキョトンとした表情をしていた。


「あ……こんにちわ……なのですね」


「あぁこれはご丁寧にどうも───って違うわっ!!」


夏来たちの目の前に歩いてきた少女は、手を前にして深々とお辞儀をする。

そのおっとりとした口調にペースを持っていかれそうになり、炎条寺は堪らず後退りする。


「珍しいですね……何時も泥棒さんしか来ないものですから」


「おいおい、サラッと物騒な事を言うな」


「立ち話もなんですし……どうぞ、中へお入りください。少々、そちらの方にお話ししたいことがありますので」


仙座に目線を向けた少女は、踵を返して夏来たちを本殿の中へと招き入れる。

一歩手前を歩く少女の背がやっと見えるか見えないかと言った暗さに、夏来と仙座は怯えながらゆっくりと歩く。


「今、明るくしますね」


その声と同時にマッチを擦る音が聞こえ、本殿内に明かりが灯る。

辺りを見渡すと、床には大量の木箱が落ちていた。

今歩いてきたところを除き、足の踏み場がないほどに散らかっている。

さながら、物置小屋と呼んでもおかしくない光景ではあった。


「す、凄いわね……ん?」


ユラユラと揺れ動く自身の影の先を追った幻花は、壁一面にお札のようなものが貼ってあるのを発見する。

近付いて見てみると、血で殴り書きされた様な跡が残っていた。


「きったない字ね……もっと丁寧に書けないの?」


「当時はこれでも綺麗な文字ではあったのですよ」


「わっ!? び、ビックリした……いきなり背後から声かけないでよ」


「それはすみませんでした。お話がありますので彼方にお集まりください」


少女が掌を向けた方向には、手招きをする夏来たち。

その小さな背中を見つめながら歩く中、幻花はとある事を考えていた。


この少女は何故ここに居るのか?

自分たちに何を話したいというのか?

そして少女は一体何者なのか───


聞きたいことは山ほどあるが、それは少女の話を聞いた後からでも遅くはない。


「んで、何だよ話ってのは?」


靴を脱いで畳に上がると、炎条寺が嫌悪の篭った目を向け言い放つ。


「はい。何故、純粋な能力者である者と共に行動をしているのかと思いまして。只でさえ混血の能力者を恐れる人間でありましょう?そこが不思議でならないのです」


「………は?」


一瞬、何を言ったのか理解出来なかった。

純粋な能力者、混血の能力者。

その少女の口から出た異様な言葉に、夏来たちは目を丸くして互いに見つめあう。


「えっと……あの……」


「私は【大橋 享奈(おおはし ゆきな)】と申します。是非、享奈とお呼びください」


名前が分からず、どう呼べばいいか頭の中で試行錯誤を繰り返している夏来。

その姿に少女は、まだ自己紹介をしていないことに気付く。


「あ、はい。享奈さん……その、もしかして君って……」


「ご察しの通り、私も能力者です。まぁ……混血ですが」


衝撃の事実に、夏来たちは思わず「えっ」と声を漏らす。

特に炎条寺は、一般市民の敵とも言われている能力者をとても恐れていた分、他の4人よりも驚き具合が大きかった。

初めてニッ怪と仙座の正体を知った時の様な取り乱し方はしなかったが、それでも恐怖感は多少なり感じているようだ。


「………なんで一緒に行動しているのか、か。そうね……」


炎条寺とは違い、落ち着いた口調で話し出した幻花は顎に手を当てて考え込む。


「ほっとけないから、かな? そうでしょ夏来」


「え、あ、うん!」


確認するかのように夏来の顔を覗き込む幻花。

不意に来るその美しさに、顔を赤らめて目を逸らしてしまう。


「ほっとけない……ですか。ふふふ……面白い方々ですね」


「お前、笑った顔の方が似合ってるぞ」


初めて見せるその笑顔に、炎条寺は肩にかかる力を和らげる。

こうして普通に会話をしていると、能力者というだけで忌み嫌われている事に悲しみさえ覚えてくる。

───こんな思いになるのも、ニッ怪と仙座に出会ったからなのだろうか………


「ぽっ……それは嬉しい言葉です」


頰に手を当て、されども表情をあまり変えずに喜ぶ享奈。

その2人の会話に、仙座はムッと頬を膨らませて不機嫌そうにしている。


「所で享奈殿。お主、何故このような場所におるのじゃ? 仙座殿のように身寄りを亡くしたとでも?」


そんな中、それまでずっと黙っていたニッ怪が口を開く。

夏来たちが最も気になっていたことだけあって、その場は一瞬にして静まり返った。


「私の両親は機動隊に殺されたんです」


そう小さく呟いた享奈は、俯いたまま身体を震わせていた。

しかしそれでも自分の過去を知ってもらいたいのか、震える身体を押さえつけて話を進める。


「───あれは、今から2年ほど前のことでした」


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