【アイネリアの去りし後(のち)壱】
その後のお話。
本作初のアイネリア以外から見たお話。
カオリーナ視点です。
春は名のみの立春の日に、現世での姉、アイネリアが旅立った。
享年117歳……
この世界でも最高齢だったのではないかと思う。
私の名はカオリーナ・フォン・ヘイゼンベルグ。
この世界に生まれて109年の年月がたつ、前世の記憶持ちだ。
私の前世の名前は関谷香織。
今回の未来世界への魂魄召喚転生を含めると3度の異世界召喚や転生を経験している。
1度目は勇者として異世界へ召喚された。
このとき私を召喚した国は、勇者を戦争の道具と考えていたクソのような国だった。
聖女として召喚された別の異世界の女性の力を借り、なんとかこの悪夢のような世界から21世紀の日本に帰ることができた。
2度目はクラスメイトの勇者召喚に巻き込まれて別の異世界にクラス全員で飛ばされた。
このとき一緒に召喚された担任のカスミ先生は、現世の姉、アイネリアの親友、カスミ・レム・ワットマンが日本に帰った姿だった。
そしてカスミ先生が助けを求め、その異世界へと呼び寄せたのが、この未来世界から帰還した我が姉アイネリアの未来の姿(いや時間軸的には過去の姿か……)、宮川藍音さんその人だった。
私はカスミ先生と藍音さん、そして将来を誓うことになるヒロこと霞寺時祐と4人で、召喚された異世界を救い21世紀の日本に帰った。
そして3度目……
トキヒロとの婚約が結ばれた直後に、普通に夜に就寝したはずが、いつの間にかこの世界に召喚されていた。
召喚直後の記憶は曖昧だ。
姉のアイネリアは生まれたときから日本の記憶がはっきりいていたと言うが、私はその辺がかなりあやふやで、魔力暴走によるポルターガイスト現象を引き起こしたりしていたらしいが、アイネリアと会ったことで徐々に記憶を取り戻していく。
カスミさんは穴に落ちた衝撃で一気に思い出したと言うが、私は本当に少しずつしか思い出せず、完全に関谷香織の記憶を取り戻すまでに1年以上かかった。
しかし、この記憶があることを言ってはいけないという意識はかなり早くからあったようで、私が21世紀の記憶を持っていることは姉のアイネリアも知らない。
なぜ私が日本人だったときの記憶を姉に話さなかったのかと言えば、私が召喚されたのは姉が宮川藍音に戻ってから数年後の時間軸の世界からだということが大きい。
うっかり、私が日本での思い出を話してしまえば、それは宮川藍音にとっては未来の話、これから起こる話となってしまい、タイムパラドックスを引き起こしやすくなってしまうという事態を恐れたのだ。
結果、私は姉やカスミさんに対して、21世紀の記憶を思い出さなかったと言い通した。
そして、この記憶を話さなかったのには、もう一つ小さい理由がある。
それは私の1度目と2度目の召喚に関わることだ。
この未来世界では、厳密な意味での魔法は存在しない。
この未来世界の人々が魔法と認識している現象は、すべてESP、超能力で説明される現象だ。サイコキネシスしかり。パイロキネシスしかりだ。
しかし私には、それ以外の力がある。
1度目と2度目の召喚で身につけた本物の魔法とスキルだ。
その中には老化耐性や毒耐性、変身魔法など、ESPでは代替できない、この世界に存在しないものも含まれている。
これらの力を隠すため、私はこれまで慎重に行動してきた。
しかし、唯一残った身内の姉が逝った今、もうこの城にとどまり力を隠し続ける必要はないだろう。
「テレポート」
私は姉が作った青い月の月面都市へと移動する。
姉が再現した21世紀型マンションの部屋は、今もしっかりと機能し続けている。
「変身解除」
私は老婆の装いを解く。
鏡に映る私の姿は20代の白人女性のものだ。
老化耐性は今日もしっかり仕事をしているようだ。
私は姉が残した月面の恐竜自然保護区にエネルギーを供給し、この日の仕事を終える。
「それにしても、私が日本に帰れるのはいつになるのかしら」
今日も思わず、鏡の中の若い私に向かってため息交じりの独り言を吐いてしまった。
老化耐性がしっかり仕事をしている限り、私がヒロのところへ帰る日は遠い……
カオリーナさんの隠し設定を明かしたその後のお話でした。
カオリーナさんは、本作の続編、巻き込まれ召喚の登場人物でもあったわけです。
アイネリアやカスミが『胎児転生』→『巻き込まれ召喚』であるのに対し、
カオリーナは『巻き込まれ召喚』→『胎児転生』という時間軸で生きているという設定でした。
カオリーナが初めて雷魔法を使うのは、実はこの設定があったためなのですが、そのお話は機会があれば書きたいと思います。
まあ、本編からすると蛇足ですね……
ちなみにカオリーナの1度目の異世界召喚で彼女を助けた女性というのは、別作品の主人公のあの人なのですが、それはまた別のお話……