EP10 俺、吸血鬼と遭遇する。その7
「うお、ここはどこだ!? あ、あああ、お前はウサエル!」
「フォッフォッフォ、久し振りじゃのう、グリーネ。わしのことを覚えているとは嬉しいのう、嬉しいのう。」
「むう、知ってるのか、この吸血鬼を?」
「無論じゃ、此奴はわしとフレイの両親がハイドラベルデ城に閉じ込めたからな。彼是、六十年か、それくらい前の話かのう?」
「そんなに経ったのか!? むう、あの時……チ~ッと目を覚ましてハイドラベルデ城の外に出張ったら、コイツとニョルズとスカディだったか、そんな夫婦に捕まってしまってなぁ……。」
吸血鬼ことグリーネと老師ウサエルの間には、何かしらの因縁があるようだ。
「へえ、あのニョルズおじさんって実はすげぇんだな、フレイ!」
「う、うん、いつもお酒ばっかり飲んでるけどね……。」
「ニョルズおじさん?」
「ああ、フレイのお父さんだよ。お酒好きだけど、凄腕ギャンブラーでさぁ!」
「フレイヤ、それは言わないでっ!」
「ハハハ、悪い悪い。だけど、ニョルズおじさんのおかげで俺は歌姫の道を歩むことができたんだし、そりゃもうありがたく思っているんだぜ。」
へ、へえ、フレイのお父さんはギャンブラーなのか……っと、俺も人のことを言えないな。
この世界に来る前は仕事で稼いだ金のほとんどを競馬に注ぎ込んでいたしねぇ……。
「どうでもいいが、この縄を解け! 私、お前達に何もしないって……ん、この匂いは!? ぐぬぬぬ、この中にマックール王の子孫がいるだろう!」
何もしないと言った矢先なのに、ギランッ――と、吸血鬼ことグリーネの双眸に殺気が宿る。
ん、そのマックール王の子孫って……。
「あ、私のことですかー?」
ビッとグラーニアが右手をあげる……あ、ああ、そういえば、グラーニアはマックール王の直系の子孫だったな。
グラーニアの真名はリリス、そしてマーテル王国の現国王アルゴニウス七世の娘のひとりだしな。
あ、肉体を失い魂だけとなった状態で、この世界へ来た時に宿った仮初のこの身体は、彼女の妹のエリス姫だったなぁ、そういえば――。
だから、俺もマックール王の子孫になるワケだな。
「うぐぐぐ、子孫に恨みはないが、あのジジイのことが頭の中を過ると正気を保てなくなりそうだ!」
「ヒイイイッ! そんなおっかない顔で私を見つめないでくださいィィ!」
「ま、まあ、これを食べて落ち着くっす!」
「ふ、ふぐぅ……あ、中々、美味いなぁ、これ!」
「ちょ、また俺のクッキーを奪ったな、ヤス!」
「ああいう輩を落ち着かせるには食べ物が一番っすよ、兄貴。」
兄貴は常のクッキーを隠し持っているようだ。
と、それはともかく、ヤスの言う通りだ。
グリーネはヤスが口の中のクッキーを突っ込んだ途端、大人しくなる。
「さてと、大人しくなったところで訊きたい。アンタはランシュロとマックール王に復讐するために自ら吸血鬼になったのかってことを――。」
「何を今さら! そんなことはわかりきっているだろう? お前達がよく知る伝説の通りだよ!」
「そ、そうなんだ……。」
「へえ、伝説は真実だったのね。」
「ま、ご本人が、そう言ってるんだし、間違いないかな?」
「お、お前ら、緊張感がないなぁ……。」
「そりゃそうですよ。私達が聞いていたグリーネ姫の姿は、この世のモノとは思えない異形で物々しい冒涜的な姿ですし……。」
「そういえば、グリーネさんの絵だと言われている物々しい絵画がマーテル王国の首都ケルティアにある聖ランシュロ教会というラーティアナ教の宗教施設内に飾ってあります。」
「そんなワケで意外すぎて……拍子抜けしたって感じです。」
「ムムムム、後世において私は一体、どんな扱いに……。」
グリーネは異形で物々しく、そして冒涜的な姿をした悪鬼羅刹として語り継がれているっぽいなぁ。
だけど、仕方がないよなぁ、自分を裏切ったランシュロ、そしてマックール王に復讐するために、自ら吸血鬼になったワケだしね。
「大変だ! 今度は吸血鬼ハンターと名乗る一団がやって来たぞ!」
と、鎧兜を身につけた茶色い毛色の兎獣人が、大声を張りあげながら、ドタバタと俺達がいる老師ウサエルの家の中に忙しなく駆け込んでくる。
やれやれ、またまた面倒くさい輩がエフェポスの村にやって来たようだ。




