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EP10 俺、吸血鬼と遭遇する。その3

 吸血鬼に襲われたというエフェポスの村の住人っていうのは、あの虎獣人のボリスを筆頭とした集会中の猛獣型獣人達である。


 虎獣人のボリスといえばメリッサがゾンビになるきっかけをつくった――と、なんだかんだと、猛々しい猛獣型獣人達だったので、吸血鬼の襲撃に遭っても軽い怪我で済んだようだけど、仮に襲われた対象が小さな兎獣人や人間だった場合、被害は拡大していただろうなぁ。


 と、それはさておき。


「物語の舞台は、今からさかのぼること七百五十年ほど前になります。」


「そういえば、マーテル王国は建国八百周年を迎えていたなぁ。」


「はい、そんなワケで建国五十周年を数えた頃のお話です。で、ありていに説明すると、兎天原の覇者に登り詰めたあたりの時代です。」


「七百五十年前? はう、私が生まれた頃ですね!」


「うお、マジかよ、エイラ……な、長生きだなぁ。」


「はい、巨人族の寿命は人間の十倍以上です!」


 きょ、巨人族の寿命ってどんだけ~~~!


 今は物体縮小魔石のおかげで身長二十メートルはある某ロボット並みのデカさを誇る巨人から、二メートル弱の大きさまで縮小したとはいえ、エイラは〝人間〟では大柄な部類に入るんだよなぁ。


「ハッハッハ、わらわは眠り続けていたが三千年以上生きているぞ!」


「うう、ピルケの場合は論外だな……。」


 と、それはさておき、ランシュロとグリーネの物語は、今からさかのぼること七百五十年ほど昔の物語のようだ。


 そういえば、兎天原はかつてマーテル王国を含めたいくつもの国が存在し、度々、支配権をめぐって戦争を引き起こしていたって歴史の本に書いてあったな。


 ちなみにだけど、兎天原の規模は、俺が本来いるべき世界の故郷である日本より広いようだ。


「で、物語の発端は若き英雄ランシュロが、当時のマーテル王国の国王マックール王の新たなる王妃として迎え入れる予定であったグリーネ姫の住まいであったハイドラベルデ城へやって来るところから始まります。」


「ハイドラベルデ城って吸血鬼が住んでいるってウワサの……。」


「ガウガウ……偶然じゃないかぁ?」


 むう、エフェポスの村を襲撃したという吸血鬼が住まうというハイドラベルデ城は、ランシュロとグリーネの物語という悲劇的伝説の始まり――発端の地となった場所のようだ。


「さてさて、ハイドラベルデ城へとやって来たランシュロは、何を思ったのかグリーネ姫を拉致し、逃亡を謀るのでした!」


「おお、大胆だなガウ!」


「でも、ありきたりな展開のような気がするぜ。」


「確かになぁ、もう少し捻りが欲しいところだ。」


「フレイヤはラブフォの新作を毎回楽しみにしていたわね、そういえば。」


「ラブフォ?」


「ラブフォーエバーズという恋愛小説の略よ。ちなみに作者のデメテルさんは、エフェポスの村に住んでいるわ。」


「なんですとー! 私も何気にファンなんですよ! 今度、作者のデメテルさんに逢いに行ってみたいです!」


「へ、へえ、そうなんだ。つーか、フレイヤが恋愛小説を読んでいるなんて意外かも……。」


「う、イイじゃないか! 俺が恋愛小説を読むのが趣味だってさぁ……。」


 むう、恋愛小説を読むのが趣味なのか、意外だ……。


 態度は悪いし、オマケに口も悪いけど、なんだかんだとフレイヤの趣味は乙女チックだな。


「さてさて、ランシュロとグリーネ姫の逃避行ですが、ある時、突然、悲劇に変わるんです!」


「あ、ある時、突然、悲劇に変わる!?」


 キッとグラーニアの声色が変わる。


 ランシュロとグリーネ姫の逃避行が、どんな風に悲劇に変わるんだ……き、気になるなぁ!

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