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EP9 俺、巨人族の少女と出逢う。その11

「へっくしっ……風邪を引いてしまったようじゃ。濡れた水着から着替えれば良かったかのう?」


「え、ピルケも風邪を引くの?」


「うむ、当然じゃ!」


「そ、そうなのか……。」


 ピルケの身体は定期的に大量の水を摂取しないと、砂漠で野垂れ死んだ人間や獣が、地面の熱砂、天空の太陽の熱によって水分を奪われ自然乾燥してしまった遺体のような形状になってしまう呪いがかけられているようだ。


 と、そんなワケでアジトの庭にあるプールの中に常にいるので、当然、水着姿でいることが多いので、プールから離れる際も水着姿だったりするんだよなぁ――って、不死者なのに風邪を引くなんて意外だ!


 まあ、それはともかく。


「しかし、どこで……どこで入手したんだ! 失われてしまった生前の姿を保ったままのゾンビを作成する秘術を――。」


「え、そうなの、ブックス?」


「うむ、昔、〝とある悲劇〟があってな。死んで間もない新鮮な遺体をゾンビ化させる秘薬の作成法は、現在には伝わっていないのだ。」


「じゃあ、私やミネルさんは極めて稀なゾンビというワケなんですね?」


「なんだか嬉しいような嬉しくないような複雑な気分です……」


「むふー! 俺は骨だけの状態で生き返ったけど、同じ方法で蘇ったのかな?」


「す、凄い! 私もいつか同じ方法でゾンビをつくりたいです!」


 その〝とある悲劇〟ってなんだよ!?


 まあ、でも、何かしらの事件があり、それ以降、封印されてしまい伝承者がいなくなってしまった方法で、俺はメリッサとミネルをゾンビとして蘇らせたことになるワケだな。


 おっと、忘れちゃいけない。


 アシュトンの場合、蘇らせる際、新鮮な死体をゾンビ化させる秘薬の材料がひとつ増えたけってことを――。


「わあ、なんだ、その本!? 鳥のように空を飛んで……は、まさか、魔道書(グリモア)の一冊!?」


「ほう、私が魔道書の一種だと一目でわかるとは流石だな。」


「当然だ! 私も魔道書を所持しているからな!」


「え、お前も!?」


「フフフ、見て驚くな! これが私が所持する魔道書――悪霊行使の絵本だ!」


 悪霊行使の絵本!? うへー、そのまんまの内容の絵本かもないぁ、あれは――。


 むう、マルスはモゾモゾと可愛い絵が表紙に描かれた一冊の本を懐から左手で取り出すと、そんな本をジャーンと自慢するかのように頭上に掲げるのだった。


「あ、その本は死霊魔術(ネクロマンシー)がケモニア大陸内で忌避されるきっかけとなった本じゃん! まさか現存していたとは……。」


「あ、デュオニス! いつの間に!」


「キョウ姐さん、そんなことはともかく、あの本のせいで〝とある悲劇〟が起きたんだ。」


「むう、気になるなぁ……。」


「じゃあ、話そう。あの絵本に載っている作法に従い亡くなった母親をゾンビとして生き返らせた七歳の男のコが、ゾンビとして蘇った母親に食べられちゃったんだよ……。」


「ふ、ふえええ、マジかよ!」


「マジで!? 知らなかった、そんなこと……。」


「お、お前もかーっ!」


 いつに間にか、俺の背後には、マルスが持ってる魔道書こと死霊行使の絵本について語るキュッと右手の中指で銀縁の眼鏡のズレを直すデュオニスの姿が――ちょ、持ち主のマルスご本人も本にまつわる曰くを知らなかったようだ。

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