EP9 俺、巨人族の少女と出逢う。その8
「ねえねえ、死霊使いってどんな魔術師なの?」
「ん、そうだなぁ……墓を荒らして持ち出した遺体を物言わぬ奴隷に変えて使役したりする禍々しい魔術師って感じかな?」
「ちょ、それは極端すぎな考えでは?」
「ま、とにかく、死者を操る禁忌の魔術を使うことに長けたているのは確かね。」
「あ、そういえば、自分がゾンビだってことをすっかり忘れていました。」
「自意識を失うことなく、さらにキョウ様の側にいれば、私達の身体は腐ることがないので、その実感が湧かないが実情です。」
むう、俺も忘れたいたよ……。
メリッサとミネルは、自意識があり、オマケに身体が腐ることはないけど、間違いなく生ける屍ことゾンビだってことを――。
「ハハハ、俺は骨だけの状態だが、この通り元気だぞ!」
「わらわは水さえあれば乾燥遺体になることはないぞ、ワッハッハ!」
肉がその身に一切、残っていない骨だけの状態で自立活動をするアシュトン、それに定期的に大量の水を摂取しないと干乾びた乾燥遺体のような形状になってしまうピルケも同じ不死者である。
「考えれみりゃ、キョウ姐さんの周りには不死者だらけだな。」
「はうー、メリッサ達がゾンビだって気づきませんでしたわ!」
「う、ハニエルとヤス、それに北極熊のサキも実は……。」
「「「そんなワケあるかー!」」」
「ま、なんだかんだと、三日はあっと言う間に過ぎ去ったわね。」
確かに、あっと言う間の三日間だった気がする。
そうあの死神のような黒ずくめに身を包む怪しい仮面の人物と交わした決闘当日がやって来たワケだ……ってか、俺には、その気はないんだがなぁ。
「そういえば、聞いたことがある! 死霊使いは魔族だったり、そんな死霊使いご本人も不死者の場合があるってね。」
と、デュオニスが言い出す。
それはないぞ、それは……と、否定できない気がする。
なんだかんだと、俺はエリス姫の遺体を再利用しているしなぁ……。
「ところで月の宮殿遺跡ってところは、ディアナスの樹海のどこら辺にあるんだ?」
なんだかんだと、月の宮殿遺跡とやらの場所がわからなくちゃ意味がないよな。
「あの遺跡なら、確かセレネーの泉の近くにあったはずだ。」
「セレネーの泉といえば、俺達が今いるアジトの庭のプールの水は、そこから引いたモノだったな。」
「お、じゃあ、割とアジトの近場だな。」
セレネーの泉はアジトの近場だったな。
「そういえば、ディアナスの森のあっちこっちに、何かしらの神殿の跡って感じの遺跡がたくさんあったな。
「ハニエルは何も知らないみたいね。ここら辺には、今は廃れてしまっているけど、かつてはケモニア大陸一の信者数を誇っていた頃のラーティアナ教の人達が使用していた教団施設跡の他に、さらに古い時代の遺跡があることを――。」
「え、そうなのか? し、知らなかった、そんなの……。」
「兄貴、俺も一応、知ってたっす!」
「俺も知ってた。ひょっとして知らなかったのは兄貴だけかも……。」
ハニエルとは兄貴の本名である――と、それはともかく、ディアナスの森の中は、神秘的な効果を及ぼす泉の他、何かしらの古代遺跡では!?
なんて思える柱っぽいモノや環状石柱が、意外にもたくさん見受けられる。
月の神殿遺跡っていうのも、そんな遺跡群のひとつでセレネー泉の側にある遺跡のようだ。
「ま、とりあえず行ってみましょう。この私も一緒だから大船に乗った気分で!」
「うーん、やっぱり、その流れになるのね……。」
ふう、何故そうなる!
俺として決闘なんて絶対に嫌なんだけどなぁ……。
ま、まあ、先輩魔女であるウェスタも一緒だし、なんとかなるかなぁ……。




