EP5 俺、ゾンビを使い魔にします。
ケモニア大陸にも当然、俺が元いた世界と同じく、いくつもの宗教が存在する。
その中でも特に信者数が多いのが、ラーティアナ教とゼノビアス教だ。
で、前者は万物は天の神母ラーティアナによって創造されたと説く一神教。
そして後者は万物のすべての神が宿ると説く多神教だ。
ああ、そうそう、前者のラーティアナ教は、最近、落ち目な様子らしい。
とまあ、そんな理由もあるのかは知らんけど、教団がかつて修行の場としていたディアナスの樹海周辺にあるエフェポスの村を中心に新しい信者を獲得しようと目論んでいるのが、あのミカエル司祭だとか――。
しかし、エフェポスの村の周辺には、あまり人間が住んでいないし、オマケに兄貴やヤスのような兎獣人を筆頭とした獣人達は、人間と違って宗教に対し、興味を示す連中が少ないと聞く。
高い知能を有するとはいえ、連中はなんだかんだと、弱肉強食がモットーの獣なんだろなぁ。
さて。
「私はエフェポスの村の村長だし、事態の収拾をしなくちゃいけないわ。」
と、フレイは迎えに来たミカエル司祭と一緒にアジトから立ち去るのだった。
彼女はなんだかんだと、ゾンビ問題が勃発し、お祭り騒ぎが起きているエフェポスの村長だ。
そんなお祭り騒ぎを鎮静化させる義務があるしね。
「ふえー、ミネルさん達、騒ぎすぎです! たかがゾンビが一体出ただけなんでしょう?」
「そのゾンビはアンタだよ。理解してる?」
「まったく、私のどこがゾンビなんです! いい加減にしてくださ……わあ、いつの間にか、左手の甲に縫い針がたくさん刺さっている!」
「悪いなぁ、ブックスにやれって言われたんでなぁ……。」
「右に同じくっす!」
メリッサの奴、いい加減、自分がゾンビだってことに気づけよ。
その前に流石はゾンビだぜ。
頸椎が折れていることにも気づいていないし……。
それはともかく、ブックスが兄貴とヤスに命令してメリッサの左手の甲に、ブスブス――と、何本もの縫い針を突き刺している。
一体、何が目的で……。
「縫い針が刺さっていることに気づかなかったのは痛覚が麻痺しているからだ。」
「な、なんですってー!」
なるほど、痛覚が麻痺していることを教えるためにやったのね。
「さてと、これでキョウとのリンクが完了した。彼女が生きている限り、君の身体は腐ることがなくなったぞ。ありがたく思って欲しい。」
「ちょ、勝手に何やってんの、ブックス!」
「そうですよ! うあ、今、一瞬ですが、おヘソの下にお湯を零したような感覚が……。」
「ふむ、上手く君の身体に使い魔として契約の証である印が浮き出したようだ。」
「は、はううっ! ヘンテコリンな幾何学模様が、私の下っ腹にィィ!」
ブックスの奴、勝手なことを!
さて、そんなブックスの言う通りのようだ。
はううう、と悲鳴を張りあげるメリッサは、着ている軽装鎧を脱ぎ、上着を捲り、ヘソの下あたりに視線を向けると、そこには奇妙な幾何学模様がズギュウウンと浮き上がっているしね。




