17 王子
ナナシたちが職人街に帰ってきてからそれほど日を空けずに王子がやってきた。
獣人誘拐の話を聞いてから真っ直ぐに職人街を目指したからなのだろう。
もちろん王家だから出せる速さのあるだろうが、おそらくギルベルトの入れ知恵が大きくはずだ。
よくもまぁタイミングよくそこにいたものだと感心するし、話を聞けるだけの立ち位置にいるものだ。
元々個人的に王家とは仲が良かったらしいが、貴族ではなくなってもそれは変わっていないようだ。
でなければロイの時も王に掛け合うなんてことを個人で出来るわけもない。
王子がやってきたのでナナシとアサヒは領主から呼び出しをくらった。
当事者であり、レオンたち獣人を助けたということもあって呼ばれるのは当然とも言える。
ついでにローワンも連れてこいと言われたので一緒に向かう。
ルーグはオーウェンによるモンスター講習でも聞いていると、オーウェンが泊まっている宿に行った。
モンスターについて一度喋る出すと止まらなくなくものの、くどくどと説明するのではなく残念な生態系やすごいところなど小ネタを挟むので面白いのだ。
それに素材を加工したときに出る特徴なんかも教えてくれる。まぁオーウェンはそれほど見抜けるわけじゃなく知識だけのところも多いらしいけど。
領主の家ではすでにレオンが爽やかな青年と会話をしていた。横では書記なのかペンを走らせる男が1人いた。
一応レオンの隣にはリジーがいたが基本話す権利はないらしく、レオンの許可制で発言をしているのが見て取れた。
「お待たせしちゃったかな?」
アサヒは一応気を使ってそんなふうに王子に言いながら部屋に入り、ナナシは呼び出されたからきたというふうだったが王子は嫌な顔せずすぐに来てくれたことへの感謝を述べた。
どうやら見た目通り爽やかな感じらしい。
ギルベルトと比べると鬱陶しいオーラがないので目にも精神的にも優しい。
「そんで俺らは何を話すりゃいいんだ?」
王子相手にも自分のペースを崩さないナナシはポスっと柔らかな椅子に座りながら言った。
大体のことは今レオンとたまにリジーから聞いただろうし、他のことについてもおそらくアズライトに向かった兵から報告が行くはずだ。
「一連の流れをお話いただければ」
出来るだけ全員から話を聞いておきたいらしい。
いくら協力関係にあると言ってもエアリスも裏稼業だ、それに自分にとって都合の悪いことがあったりすると嘘をつかれることだってある。
つまり、互いの話を聞いて裏を取りたいのだろう。
「りょーかい」
「潜入したところからでいいかな」
馬鹿正直に全部話すつもりはナナシやアサヒにはない。ドラゴンのことなど伏せておくべきことある。
心配のタネのリジーはレオンが上手くやっているのでひとまずは安心していい。
先にローワンから話を聞いて、それからナナシとアサヒの順番になった。
アズライトにいた時のことをアサヒが中心になって王子に伝えていく。
アサヒの説明は簡潔で分かりやすく、それでいて余計なことは一切口に出さない。なんというか手馴れていた。
「で、ギル。ギルベルトから指示が来たからそれに従って今ってとこだな」
「そうでしたか」
一連の話を聞いた王子が国にとって大切な客人である獣人を助けたことへの感謝をと立ち上がろうとしてナナシがそれを制止した。
「俺は俺の知り合いを助けに行った。ただそれだけだ」
「先回りして申し訳ないけど、おじさんたちは余計な称号がつくのは避けたいんだよね。ひっそりと生きてく方が好きなもんでさ」
感謝も褒美も、ついでに謝罪もいらないのだと遠回しにナナシとアサヒは言う。
2人の気持ちは十分伝わって来たのだが、王子も内容が内容だけにすぐに引くわけにも行かず困った顔をする。あとは陛下の使いということもある。
リジーはなんでご褒美をもらわないのかと心底不思議そうにして口を開きかけたがレオンによって止められた。
「んじゃ、俺らのことは詮索しないでどうだ?」
「うんうん。それがいいかも」
ナナシの提案にアサヒがうんうんと頷く。
アサヒもナナシほどでもないが知られたくない過去を持つ1人だ。恥じることをした覚えはないが、それでも色々やっかいな問題でもある。
もっと困るかと思われた王子は堪えきれないようにふっと笑いこぼした。
「ギルベルトの言った通りだ」
「くっそ、褒賞願っときゃよかった」
言ったことを引っ込めるつもりはないが、ギルベルトの予測通りに自分が動いてしまったことがどうしようもなく悔しい。
「良い上司みたいだねぇ、ナナシ君」
「まさか、全部丸投げのとんでもねぇ上司だよ」
部下のことを理解して動いてくれるらしいギルベルトをアサヒは褒めるがナナシは嫌そうな顔をする。
仲はいいもののナナシは天然オーラをまとった動じないあの感じが苦手なのだ。自分も動じることが少ないあたりは同類のくせに。
ナナシの言葉に王子はクスクスと笑うと興味深げにしているリジーに負けたように、ここに来ることになった過程を話し始めた。
それから、ギルベルトから聞いたナナシのことも――。
王子
金髪碧眼の爽やか系の第1王子。王太子になる予定。
ギルベルト曰く仕事をこなすだけの能力はあるとのことだが、時々やらかすこともあるようだがしょうがねぇなとなんだかんだ許されているらしい。




