16 アサヒとレオン
身体が鈍っていけないとレオンは日々ナナシの店に向かっては庭で鍛錬をしていた。
ナナシは好きに使っていいとだけ言って、オーウェンからの依頼などを片付けるために工房に篭っている。
他にもレオンの武器などの整備もある。
店の掃除を終わらせたルーグは冷えた水やタオルを用意して庭に出ると壁に寄ってレオンの鍛錬を静かに見学していた。
ちなみにローワンは領主の家で読み書きなどの簡単な勉強とリジーの相手をしている。
教えてくれる人もいなかったのでほとんど読み書きも計算もできないらしい。
「こんにちは。お、ルーグ君もいたんだね」
「アサヒ殿か」
「おはようございます、アサヒさん」
そこにアサヒがやってきた。
音がしたので店に入る前に覗いてみたらしい。
「お邪魔しちゃったかな」
「いや、一息入れようと思っていたところだ」
「それならよかった」
ナナシは作業中だし、みんなが外にいるならとアサヒも中に入らないようなのでルーグはコップを取りに店の中に入っていった。
「そういえばレオン君ってお酒はいける口?」
「人に付き合う程度ならば」
「そっかそっか、それなら一度どう?同業者仲間ってことでさ」
アサヒは人差し指と親指で軽く輪を作り口元に運んだでグイッと傾けた。アサヒの故郷で酒を飲むというジェスチャーだ。
リジーが助けを求めにやってきたときにナナシがレオンは元護衛職だと言っていた。アサヒとしては同業者に会えたことが嬉しいらしい。
「動きからもしやとは思っていたが、アサヒ殿も護衛をされていたのか」
「若の――ここだと王子か、身辺警護をね」
「完全なる同業、であるな。異国の地でそのような者に出会えるとは」
ただの同業ではなく、互いに王家の護衛を請け負っていたとわかるとことさら親近感が湧いてくる。終身仕える者が多いことを考えるとこうして出会えるのもかなりの縁である。
「アサヒさんもどうぞ」
コップを持ってきたルーグはコップに水を注いで、レオンとアサヒに差し出した。
一息ついて休憩も終わりだと、再び鍛錬を始めようと立ち上がろうとしたレオンをアサヒが呼び止めた。
「手合わせお願いしてもいいかな?同じ護衛職っていうのもあるけど男の子だからさ、つい競争したくなっちゃうんだよね」
そう言ってアサヒは抱えていた刀を鞘ごと宙に掲げ、レオンはアサヒの男の子という発言に声を上げて笑いながら受けて立とうと斧を手に立ち上がった。
「男の子ときたか。しかし、あながち間違いでもないのであろうな。勝負となればつい熱中してしまうことはある」
「ふふ、お手柔らかに」
そうしてアサヒとレオンが向かい合って武器を構え、示し合わせたように間合いを詰めた2人が武器を振った。
ルーグの目には2人の打ち合いが速すぎて分からず、連続で鳴るキンッという金属がぶつかり合う音だけがアサヒとレオンが勝負していると思わせる。
ただルーグにわかったのは、自分の知るどの冒険者よりも2人が強いということだけだ。
よくフィリーたちが模擬戦で使う木製の武器と金属の武器とでは音も違うが、それでもフィリーたちよりもハイレベルだと感じ取れるほどだった。
やがて、音が止んだ。
決着が着いたのだとルーグはその場から動かずに2人を見た。
互いの首元に突きつけられた刃先に引き分けに終わったのだと分かる。
にっと笑ったアサヒとレオンは武器を下ろし、アサヒは疲れたとその場に座り込んだ。
「いやー、こんなに手を焼く相手は久しぶりだよ」
「アサヒ殿こそお強い。我が国にもこれ程強い者はそうおらぬ」
「この歳でも褒められると嬉しいものだね」
すごいと眺めていたルーグは我に返ると水をコップに入れて2人のところまで運んだ。
「ありがとうね」
「感謝する、ルーグ殿」
「いつもフィリーさんたちにもやってるから」
ルーグが言って、アサヒはあのべっぴんさんかとつぶやく。有名なこともあるが、前に別の街で見かけたことがあるらしい。フィリーの容姿から騒ぎになっていたとか。
「将来有望な子たちでね、最近じゃネームドの討伐に成功したって話だよ」
「ほう、それは確かに有望であるな」
アサヒはレオンにフィリーたちがどのくらいの強さかと簡単な説明をする。連合国には冒険者ギルドがないようなので世界共通で伝わるネームドを指標にする。
「アサヒさんとレオンさんは戦いたくない相手っているの?」
ナナシ曰くこの2人に勝てる相手はそういないとのことで、ナナシは自分が戦うことになったならさっさと棄権すると言う。
前にそう聞いていたし、今の手合わせで充分強さは理解出来たので戦いたくない相手をルーグは聞いてみる。
「うーん、そうだね。身近なとこならナナシ君かな」
「ナナシ?」
まさかナナシの名が出ると思わずルーグは驚くが、レオンもアサヒの言葉に同意していた。
「純粋な力ならば我らの方が強い。しかし、鍛冶師殿は多彩な技を持つゆえに攻略が難しい」
「それに隙をつくのが上手いからね。敵には回したくたいかな」
「えーと、卑怯な手ばっかりってこと?」
ルーグが確かめるように尋ね、アサヒもレオンもおかしそうに笑いながらそうだと頷いた。
「ナナシ君の名誉のために言っておくと、あそこまで極めてれば達人だね。あれだけ使いこなすのは生半可な努力じゃ出来ない」
「戦い方に好みはあれど称賛すべきものである」
それからレオンの鍛錬も終わったと店の中に入る。
ルーグがコップなどを片付けて戻ってくるとアサヒがレオンとは気が合うと大きな瓶をマジックバックから取り出していた。
中身はアサヒの故郷の酒の焼酎というもので、レオンは気に入ったようだった。
レオンが言うには連合国の酒は甘いものが中心らしく、ビールや焼酎のようなものは1部の種族の秘蔵の酒で滅多に口にすることはないらしい。
焼酎
アサヒの故郷で一般的に飲まれる酒で、消毒液にも利用されているとか。
キリッとした飲み口で基本辛口なものが多い。
ちなみにアサヒが今回開けたのは昔アサヒの故郷を知ったナナシがプレゼントしたもの。なぜナナシがそんなもの持ってたのかは不明。




