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6 まずは捜査か

 少々危なかったがなんとかリジーが獣人とバレずにアズライトの中に入ることができた。

 むしろ身分証(ライセンス)のないナナシの方が中に入るのに手こずったほどだ。


 アサヒもリジーもギルドは違えど身分証は持っていたのですんなり許可は出たのだが、どこにも所属してない中途半端なナナシは身分証がないため審査を受けた。

 結局、アサヒの同行者いうことで事なきを得た。


 アズライトの印象を一言で言い表すのであれば、青を基調とした薄暗い町である。


 背の高い建物が密集しているせいで狭い通路は常に日が差さず、チカチカとするカラフルなライトが薄暗い通路を照らしている。


「陰気臭いっつーか、怪しいっつーか」

「変わった町だよね」


 普通の町なら怪しい取り引きが行われそうな、近づき難さがこの町全体の雰囲気で、そこをごく普通に歩く住人たちがいて妙な感じである。


「まずは拠点かな」

「宿屋でありますね?」

「うん。ちょっと古いけどあそこがいいかな」


 そう言ったアサヒが案内した宿屋は、路地裏のおそらくアズライトでも人の寄り付かないような場所に位置するボロい宿屋だった。


「見た目はちょっと古いけど、リジーちゃんのこと考えると安全だと思うよ」

「そうか。じゃここにすっか」


 つまりこの宿屋は裏稼業に使われるような宿ということだ。そういう場所はその場で見聞きしたことを口外しないという暗黙の了解があるので確かにリジーにも安全だろう。


 宿は外観と同じように中もあちこち老朽化が目立つが思ったよりはまともで、老夫婦が切り盛りしていた。宿泊客はいないらしかった。


「リジーちゃん、外套は脱いでもいいよ」

「この宿の中だけな。カーテンは出来るだけ開けるなよ」

「すぐに行かないでありますか?」


 すぐにレオン救出に向かう予定のリジーは動かないナナシとアサヒに首を傾げ、ナナシはまずは作戦会議(情報収集)だとリジーに言った。


「ここは慎重に動かないとね。レオン君がどこの店にいるのかとかさ」

「そうでありました!」


 アズライトには本来禁止されているはずの奴隷商など闇取り引きの店などが数多く存在している。

 なので下手に動いて目をつけられないようにしなければならない。標的にでもされると動くのが大変になる。


「だからリジーちゃんは宿(ここ)にいてくれる?」

「それなら自分も手伝うであります」


 このままでは引き下がりそうもなく、勝手に宿を出てしまいそうなリジーにナナシは大きなため息を吐いた。


「リジー」

「なんでありますか」

「お前、どうしてレオンが捕まったか分かってんのか?」


 ナナシはとっくに気がついていたし、おそらくアサヒのこの短い時間でも理解はしているだろう。


「それは獣人だとバレたからであります」


 珍しすぎる獣人との出会いに誘拐という衝撃で今まで誰も触れてこなかったが、獣人だと知られないよう慎重に行動していただろうレオンが獣人だとバレるはずがないし、そうなった時の対策もレオンは出来るやつだ。


 ――なら、どうして獣人だと知られたのか。


お前(リジー)の迂闊な行動の結果だろ」


 アサヒは直球すぎないかと言うがナナシは優しく言うつもりはなかった。


 もちろん、これから一緒に行動する上で空気を悪くするのはやるべきではないことは百も承知だが、しっかりと理解してもらわないとならない。

 それにリジーはこんなことでへこたれるような性格はしてない。


「…………そうかもしれないであります」


 自分の行動を思い返せばレオンに窘められることが多かった。

 その時、口を酸っぱくして言われたのは肌を隠して目立たないようにだ。服がめくれたりして、よくレオンが直してくれていた。


「あわわわ、自分のせいであったであります。助けに行くであります!」

「落ち着け」


 勢いよく立ち上がったリジーの腕を掴んで下に引いたナナシは、リジーを座らせる。


「そーいうわけだから、お前は外に出るなよ」

「わ、わかったであります」


 真面目なトーンでナナシに言われたリジーは大人しく従うことにする。


 まぁ、探すにしてもナナシも勝手がわかるわけではないので大部分アサヒに任せる形になってしまうが。疑われて罠にかけられるなんてことは遠慮したい。


「いくつか回ってみるよ。知り合いの情報屋もいるからさ」

「わかった。俺はちょっと飯の調達に行ってくるわ」


 食事は1食だけついているが、どのみち1人前じゃ足りないので買い足しておくのだ。宿に向かう道中で飲食店へ確認済みなのですぐに買いに行ける。


「自分は、自分は何をしたらいいでありますか?!」


 外に出るなと言われ、けれどやる気だけは十分でなにか動きたいのだが、今できることが自分では思い浮かばないリジーはナナシとアサヒに判断を仰ぐ。


「宿からでなければ何をしててもいいんだけど……」

「いつでも動けるよう準備」


 的確な指示ではないのだがナナシはそう言った。

 とりあえず何か指示があればいいのだ。それでリジーが外に出ないようならなんだっていい。


「了解であります!」


 ビシッと敬礼をしたリジーは準備運動を始める。

 それを見たナナシはリジーが外に出ないようにもう1つ仕掛けておくことにする。

 リジーが職人街で気に入っていた棒付きキャンディーを数本渡しておいた。これで少しは時間が稼げるはずだ。


「それじゃ行ってくるね」

「お気をつけてであります」


 大通りまで出るとアサヒは怪しい路地へと向かって行った。その姿は違和感がない。


 多めに食事を買い込んだナナシは野菜を売っている露店を見かけたのでついでにキャベツとニンジンも買っておいた。

 リジーの好物なのでこれでまた時間が稼げることだろう。

アズライト


取り引きの町として有名。

古臭い怪しい町と認識されているが、実際裏では怪しい取り引きも多い。


王国では禁止されている奴隷なども多いのだが、町自体がそういう場所なだけに取り締まりも難しいようだ。


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