ブレイクタイム7
コネリー子爵の事件も無事に片付いた翌日の昼過ぎ。
ギルベルトは正装に着替え、出かける準備をしていた。
彼の正装姿は、彼の持つ優雅さ溢れる雰囲気と美しい所作も相まって貴族然としている。
「そういや、らしいってか貴族だったな」
「ふむ、生まれは隠せぬものか」
自分の服装を確認したギルベルトはなにやら不満げだ。
商人らしさを目指していたらしいのだが、ギルベルトの持つあふれ出るオーラのせいで、どう足掻いても貴族にしか見えない。
「仕方あるまい。これで行くとしよう」
「なんかあったら言ってくれ」
「もちろん、そのつもりだ」
ギルベルトは小さな荷物を持つと鍛冶屋から出かけて行った。
今日は職人街の領主に昨日のことについて話すのだ。
店のことは全てナナシに任せてはいるが、ギルベルトの店なので責任はある。それに相手が貴族ならばギルベルトが対応した方がいい。もちろん、真実を全て話すことはしないが。
急に訪れたにも関わらず領主はすぐに時間をとってくれた。ギルベルトからと聞けば不要な話はしないはずなのですぐに対応はする。
「話とはなんだ?」
応接間に通され席に座るとすぐに領主はそう言った。知った間柄というのもあるが、なにより領主は長い前置きなどが好きではない。
「なに、昨日起きた騒ぎについてだよ。原因を作ってしまったの私の店なのでね」
「そうか。あの鍛冶師か」
領主は驚くこともせず淡々とギルベルトに返事を返すと、すぐに近くにいた使用人に原因調査を取りやめる旨を伝える。
あの鍛冶師はこの街で騒ぎが起きた時に原因ではないにしろよく名前が上がるので不思議でもなんでもない。それに規格外だとウォルバークなど幾人かが愚痴のようにこぼしている。
「ああ。原因は彼の作った魔道具だ」
「作り方は似ているという話だったな」
「その辺は君の方が詳しいだろう」
そう言ってギルベルトは持ってきた荷物を机の間に置くと、包みの結び目を解いて中を取り出す。
「これが此度の原因だ」
机上に置かれたのはギルベルトの手のひらより一回りは大きな球体に近いものだった。色は様々な色がマダラに混じり合っているのだが、うっすらと妙な輝きを放っている。
一目みただけでもかなりのエネルギーが詰まっていることを感じさせる。昨日、街中に広がったあれに近しいものを領主は感じた。
「なんだこれは?」
「彼が見つけた古代の遺産を真似て作ったものだ」
怪訝な顔をする領主にギルベルト持ってきたものの正体を伝える。
結局、昨日の話し合いで古代の遺産を真似ようとして失敗したということに決まった。
古代の遺産が稼働しているとなると国に渡さなければならず、かと言って他に誤魔化しようもなかったからだ。
これでも苦しい言い訳に近いものではあるのだが、ドラゴンともなると打てる手が限られてくる。
「少々制御が出来ず、昨日の状態になってしまったと言っていた」
「そうか。それで効果は?」
真似て作ったのであればどうこうする必要もないので領主は次の問題に移る。大事なのは民に被害が出ないことだ。
「モンスター避けだと」
「確かにあれなら多くモンスターが近寄らないだろうな。しかし、そこまで必要なものとも思えないが」
疑ってかかられるのは仕方がない。
これほど強力にしなくてもモンスター避けは十分機能する。危険な魔道具だと勘ぐってしまうのも頷ける。
「彼が言うには大災時代のドラゴン避けではないかという話だ」
「大災か。可能性がないとは言いきれないな」
大災とは大昔に世界中でドラゴンが大暴れをした災害のことだ。
世界が滅びる直前まで荒廃し、その時代前の文明などはほぼ失われている。現代よりも魔法技術など高かったとされているが詳しいことは誰にも分からない。
「ギルベルト、この件はオレの責任とさせてもらう」
「ありがたい話だが、処罰なしとはならないのではないかい」
街全体を巻き込む騒ぎを起こしたのだ。さすがに何もなしということには出来ないだろう。
領主との取引だけで済ませてもらえるというだけでも温情ではあるとおもうが。
「ああ、しばらくあの鍛冶師を借りたい」
「了解した。世話係も一緒で構わないかい?」
「懐いていたのだったか。いいだろう」
2人の関係性について耳にしているし、昨日の問題客のことも報告は来ているので許可をだす。
まだ幼いと言えど、物事の分別がつかないほど幼いわけではないので、邪魔になることもないだろう。
「都合のいい時に適当に呼んでくれて構わない。客人は滅多に訪れないようなのでね」
「腕はいいはずなのだがな」
腕の良さとは裏腹に開店休業状態の店というも珍しい。立地などもあるのだろうがそれにしてもである。
後日、領主が街の防衛システムの試作によって起きた事件だと声明を出し、街は再びいつもの活気を取り戻した。
そしてナナシは職人街の上空の防衛システムの強化のために度々領主に呼び出されては議論を交わしていた。
話についていけないルーグはその様子を大人しく眺めながら、時折執事などからお茶の淹れ方について教わっていた。
大災
ドラゴンが世界中で大暴れした原因不明の災害。
これにより1度人類の文明は滅んでおり、大災前のことはほぼ消失しているためほとんど知ることが出来ない。
残っている文献などから現代よりも高度な魔法技術などがあったようだ。




