14 らしさはねぇな
「ルーグは無事か!?」
店に勢いよく入ってきたのはウォルバークだ。
その後ろにはギルベルトがいて息を切らしながら静かに扉を閉めた。
「まだ寝ているはずだと思うが。途中であったので連れてきた」
「黙っとくのもよくねぇわな」
衛兵にコネリー子爵たちを引渡しに向かった帰りにウォルバークに会ったらしい。
それでルーグというか、今日鍛冶屋であったことを説明しウォルバークが急いでナナシのこの鍛冶屋に向かい今に至る。
ルーグは無事であるとはしっかり伝えていたのだが、親としては顔を見るまで安心は出来ないのだろう。まして、現場にいたわけなのだから。
「ルーグは?」
「寝てるよ」
そう言ってナナシは自分に視線を向ける。
ウォルバークが覗き込むとナナシの膝枕でルーグはすやすやと寝息を立てて眠っていた。膝枕なのはルーグの身体全体をソファに置くためだ。
「少なくとも怪我はねぇ。精神面はわかんねぇけどな」
「それは俺たちがしっかりケアするしかないだろう」
精神面は分からないというナナシの言葉にウォルバークは納得はしている。人質として首に刃物を向けられていたのだ、そんなことをされたら誰だって怖いはずだ。
しかし、ウォルバークは不安もあるが心配しなくてもいいとも感じていた。
「まぁ、お前なら問題ねぇとは思ってはいるけどな」
「確かに眠るまでの彼の対応に異常は感じ取れなかったが」
人質に取られ怖い思いをしたのも事実、しかし不安材料はそれではない。
ルーグはナナシを信頼しきっているのでナナシの圧は大丈夫だったようだが、先程知らされた後天的なドラゴンというのには戸惑いを隠せないようだった。
「どーだかな。知り合いんとこの奴は目も合わせてくれなくなったかんな」
ポスとソフトの背もたれに寄りかかったナナシがケラケラと笑いながら言う。
今回ほどキレたわけでもないし、ルーグほど色々と関わっていたわけでもないのだが、ナナシが帰るまでずっと親の影に隠れてしまっていた。
「分からなくもない、と言うのがまた」
「さっきのあれはお前らが原因か?」
「彼のみだ」
街に広がった畏怖を覚えるなにかのことは伝えていなかったためにウォルバークは疑い、ナナシだけが原因だとギルベルトは自分の関わりを否定した。
ウォルバークの方も何かがあれば大抵ナナシだろうと予測しているだけに大して驚きはしない。ただ何かというのは気になるが。
「何をやったんだ?尋常じゃねぇぞ、あれは」
「それは――」
ナナシがなにか言いかけたところでルーグが目を覚まして上体を起こした。
「あれ、父さんがいる」
「ギルのやつが呼んできた」
「先程外に出たら偶然あったのでね」
寝起きの働かない頭でそうなんだと言ったルーグは、少し混乱しているようで眠ってしまう前に何が起きたのか思い出そうとしている。
ルーグが起きたことで話は中断され、ナナシは何か飲み物を持ってくると席を立った。ギルベルトに任せても良かったのだがそうすると時間がかかりすぎるので却下だ。
「今日はこれがいいだろ」
ナナシが淹れてきたのは昔、獣人から教わったというハーブティーだった。リラックス効果もあるらしい。
「美味い茶だな」
「ふむ、一般的なものとは違うようだ」
それぞれの感想を聞いたナナシは自慢げに笑う。
そうしたくなるほどにこのハーブティーは美味しいのだ。
「俺は1度戻るがルーグはどうする?」
ハーブティーを飲み終え、自分が何も言わずに仕事を抜け出して来ていることを思い出したウォルバークは1度店に戻ると言って、ルーグにどうするかと聞いた。
ルーグはしばらく悩んで小さく首を横に降って呟いた。
「今日はもう外に出たくない」
「そうか」
ウォルバークは分かったとルーグに言うとナナシの方に向いた。
「頼んでいいか?」
「いいぞ。ルーグがいたところで困ることもねぇし」
二つ返事でナナシは了承をし、明日またくるとウォルバークは帰っていった。
ルーグのことを心配そうにしていたが、ルーグが不安がっていないのは見て取れたので何も言わなかった。
空部屋はいつものようにギルベルトが使うことにして、ルーグはナナシの部屋でベッドを追加して一緒に寝ることにする。
ベッドの中に入ったルーグは躊躇いがちにナナシを呼んだ。
「……ナナシ」
「どした?」
返事をしたナナシは気楽そのものでいつもと変わらない。それが安心出来るのに何故か不安にも感じてしまう。
「あ、いや、なんか……」
「また遠い人に感じたとか?」
なかなか言葉に出来なかったものをナナシは容易く口にし、ルーグが静かに頷くとナナシはケタケタと笑ってみせる。
「いっそ羽でも生えりゃそれっぽくなんだけどな」
「……ナナシに羽」
羽の生えたナナシがそれを自慢してくるのを想像してしまったルーグは思わず笑いをこぼす。どうやってもナナシが大人しくしてるイメージが湧かない。
「俺にゃせいぜい同族を呼ぶ咆哮くらいしかできねぇよ」
「他にもある気がするんだけど」
ドラゴンになったと言ってもそれっぽいのは1つくらいだと言うナナシをルーグは冷めた目で見つめる。
威圧とか人間というよりドラゴン寄りのなのだと思うし、あとは元魔力欠乏症仲間として妙な違いを感じている。
「あいつらはドラゴンだとか言うけどな、どう見ても人間だと俺は思うぞ」
「うーん、それは確かにそうなんだけど」
納得しきれない部分もあるせいで、見た目だけなら人間みたいに感じてしまうところもある。
ルーグは考えたところでナナシのことなので無駄だと考えることを放棄すると目をつむり、すやすやをすぐに寝息をたてはじめた。
後天的なドラゴン
おそらくというか、後にも先にもナナシしかいないだろう。
ドラゴンはドラゴンもどき(下位ドラゴン)を1人で倒せて1人前と認められ巣立ちを認められる。
それまでは親元から離れると迷子とみなされ、ドラゴンの種族に見つかると親元に帰される。
そのためそこそこと旅をするのが面倒になったナナシはドラゴンのルールで1人前と認めさせることにした結果、なぜかドラゴンという種族名まで手に入れることに。