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ブレイクタイム4

 カウンター前で青ざめて萎縮しているのはロイだ。


 刃が途中でポキリと折れてしまっていて、申し訳なさやら鍛冶師たちに怒られてしまうのではという恐怖からとにかく縮こまってしまっている。


 特に今回はいつものあの街外れのやる気がなさそうに見える鍛冶師の店ではないから余計に。


 鍛冶屋をしばらく休業するということで、なにかあったらこの店に行けと連絡があったので言われた通り来てみたわけだ。


 何の因果かがロイが店に入ろうしていた時、またも客と職人の言い争いが聞こえてきた。あの鍛冶師の時も平和的とはいえなかったが、こちらは互いにヒートアップしてることもあって入るのを躊躇ってしまう。


 しかも内容が雑に扱うから壊れるんだとかでタイミングが悪いとしか思えない。


 そこに背後から店の職人に声をかけられ事情を説明して今に至る。


 あの鍛冶師に任されているウォルバーグが対応にあたる。


「ああ、お前がロイか。ルーグとなかよくやってるらしいな」

「え、と、はい。街のことをよく教えてもらってます」


 突然ルーグのことを言われて戸惑いながらロイが話せばウォルバーグはルーグの父親だと名乗った。

 黙っていても良かったのだがロイは少しでも緊張をほぐしてからじゃないと会話が上手くいかない気がしたウォルバーグはそうすることにした。


 少し世間話を挟んでからロイが持ってきた折れた剣を持ち上げて状態を確認する。


「手入れが行き届いてることを見ると、大方モンスターの攻撃の衝撃でやられたか」

「は、はい。そうです」


 ロイが頷いて、その時のことをウォルバーグに伝え始める。盾が弾き飛ばされしまい、拾いに行く暇もなかったので剣で防御もしていたと。


「これくらいならすぐに直せる。それまではこれでも使え」

「ありがとうございます」


 渡されたのは木剣だった。

 なんだか見覚えがある。ロイがウォルバーグを見ると木剣に憎らしげな視線を送りながら、それはあの鍛冶師が渡してきたものだと教えてくれる。


 冒険者を始めた頃のサイクロンウッドから作った頑丈なだけの剣と言って渡されたあの木剣だった。もっともウォルバーグも同じことを言っているので、丈夫さが取り柄だけの素材なのだろう。


 話はまとまりロイは宿に帰り、ウォルバーグはさっそく修理に取り掛かる。


 鍛冶師から渡されたロイの癖などのメモをを見ながら、ウォルバーグは自分でも持ち主のクセなど剣から読めるところを把握していく。


「こりゃ相当力任せにいったな」


 折れた先端からウォルバーグはそう推測を出した。

 剣術の心得はあるようだが、攻撃をいなすのは苦手らしい。まぁそれ自体は技術がいるものなので仕方がない。


 ネームドグリフォンの討伐の一員だったと言えど、ロイは駆け足で色々すっ飛ばして来たのでまだまだ足りないものも多いのだ。


「久々に外に出るか」


 ウォルバーグは炉の前で1人そう呟いた。


 剣の修理も終えロイが取りに来た当日、ウォルバーグはロイに時間があるならちょっと付き合えと、ロイを街の外に連れ出した。


「お前さんに防御の剣術を教えてやろうと思ってな」

「防御の剣術……」


 ウォルバーグも鍛冶師と名乗っちゃいるが、そこそこ冒険者としてやっていけるだけの実力は一流の鍛冶師ならば持ち合わせている。

 自分が作り出すものを使いこなせないなど一流の名折れだ。短所も長所も理解して性能()を引き出してやれずして名乗ることもできない。


「おう。あんだけ丁寧に扱ってくれるには長生きしてもらいてぇと思うからな」


 ルーグの友達なのもあるが、それを差し引いてもこれほどまっすぐな奴がいなくなるのは惜しいとウォルバーグは感じている。

 だからこそ、そういった(生き延びる)術を教えておきたいと思ったのだ。


「よろしくお願いします」


 ロイはまっすぐにウォルバーグを見つめてそう返した。


 強く、少しでも強くならなければ祖父の剣を修理するなど不可能だ。教えてくれる人がいるのなら拒む理由などどこにもない。


「そうこねぇとな」


 にっと笑ったウォルバーグは一振の長剣をマジックバックから取り出すと鞘から抜いて側面に触れると、弱点をざっくりと説明するとそれをロイに持たせてもう一振の長剣を取り出しわざと目の前で折って見せた。


 それからロイに持たせた長剣の角度を調整させて言った通りに動かせと指示をして何度か打ち合いをする。

 指示のように振るうことに手こずってはいたが、それでもロイも感覚は分かってきたようだった。


「よし、実践と行くか」

「は、はい」


 1匹の一角兎を相手に長剣での攻撃受け流しの練習を始める。しっかりできるようになるためにもまずは弱い相手でちょっとずつやっていく。


 完璧とまではいかずとも日暮れの頃にはロイもある程度できるようになっていた。下地がある分覚えも早いのだろう。


 この日、ウォルバーグは妻がルーグと鍛冶師がいないことで料理作りの張り合いがないと嘆いていることを知っていたので、ロイを夕飯に招いた。

ルーグの母


優しく穏やかな女性。ウォルバーグの妻でもある。

料理を作るのが趣味で、家にキッチンがないナナシの食事も作っている。


ウォルバーグと違い、ナナシに懐くルーグに複雑な感情は抱いていない。むしろ、好ましく思っている。



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