17 忘れてた
ハリツバメが空高く上空を旋回しながら甲高く鳴いた。
鳴き声に空を見上げればハリツバメは旋回していた中心に向かい足で掴んでいた荷物をパッと手放した。
まるでどれだけ安全であったとしてもこの森には近づきたくないとでも言うように。
「なんだ?」
「手紙みたいだけど」
シーナが風魔法を発動させてヒラヒラと舞い続けるそれがどこかに飛んでいかないようにしてキャッチする。
宛名はルーグと鍛冶師と書かれており、差出人はルーグの父ウォルバーグだった。
ここに無事に着いた際にナナシがその旨を伝える手紙を送っていたのでその返事のようだ。伝える術があるならその方がいいだろうとルーグの両親を安心させるためにもナナシが送っていたらしい。
ただでさえ危険な場所に向かっているのでそれくらいはしておいた方がいいだろう。あれでもウォルバークは心配症なのだ。
シーナから手紙を受け取ったナナシは封を開けずにルーグに渡した。
ホームシックになってはいないが、やはり家族は恋しいだろうと言うナナシの配慮な訳だが、それを意外そうにするアルゼルとシーナの視線に対しナナシは次はどんな機能をつけてやろうかと考えた。
フィリーはハリツバメがこんな場所でも配達してくれることに驚いていて、ガラドは手紙の開封などを手伝っている。
「えっとここまでがオレで……ここからは」
ルーグの隣で手紙の仕分けをガラドが手伝い、3つに分けられた手紙の残りはそれぞれナナシとレイン宛だった。
「ナナシ、すまぬが読んでくれまいか。我が持つと破けてしまいそうであるからな」
「わかった」
自分の手紙をポケットに突っ込んだナナシは、ルーグからレイン宛の手紙を受けとると声に出して読み始めた。
内容は間接的にはなるがルーグを救ってくれたことへの尽きない感謝と、ルーグがドラゴンの元へ滞在させて頂いているからのお礼の言葉だった。
それを一部、ナナシは内容を改ざんして読み上げた。
魔力欠乏症のことは伏せておくべきだろうと。フィリーたちなら大丈夫だとは思うが、治療法が人間にとっての禁忌に触れることであり話すのも面倒くさい。
魔力の循環異常になるのは他にもあるのでぼやかしておけばいいだろう。
「ふむ、思いはしかと受け取った。ナナシよ、楽しい時間を過ごさせてもらったと伝えおけ」
「りょーかい」
やる気のなさそうに返事をしたナナシはポケットに突っ込んで自分宛の手紙を取り出した。乱雑に突っ込んだためにシワだらけになっていて、失敗したという顔をしながら紙をピンと伸ばした。
そこにはでかでかとした字で一言だけ書かれていた。
『渡したか』
それだけしか書かれていなかったが、ナナシにはそれで通じたらしくマジックバックの中に手を突っ込んでごそごそと何かを探し始めた。
自前のはかなりの収納が出来るのはいいのだが、普段使わないものだと取り出すのも一苦労だ。なにせ自分がどういう形で入れたかも忘れてるからすっとは出てこない。
「あったあった。いやー、忘れることだった」
ナナシは筒状のものを取り出すと結んであった紐をほどき、広げてレインに見せる。
「ルーグの親父さんからお前に渡せってさ」
「ナナシの姿絵であるか」
滅多に会わないならとウォルバーグが無理やりナナシに持たせたものだと言う。
人間の風習のようなものに、旅や引越しなど遠くへ行く家族や恋人など大切な人の絵姿をお守りのように持つというのがある。本来はもっと小さいサイズのものだが、ドラゴンに合わせたようだ。
人間の風習を押し付けることになるのではなどと考えつつ、ウォルバーグはナナシが育ての親と言うレインに渡すようにしたのだ。
悠久の時を生きるドラゴンにとってほんの一瞬気まぐれで不要なものかもしれないが、子を持つ親としてナナシがレインの元で暮らしていた時の話を聞くと、どうにもドラゴンにも親のような情があるように思えて仕方ないと。
「行く前に父さんが店に来たのはこれのためだったんだ」
「親御さんならこれくらいしてやれってさ」
呆れたようにナナシは言った。
無理やり押し付けられたのもあるが、決して安くはない金額なのも容易に想像がつくから余計に。それに喜ぶともあまり思ってもない。
ナナシから姿絵を丁寧に持ち上げたレインはそれをまじまじと見つめ、ふっと笑いをこぼした。
少し不機嫌そうな顔つきがナナシそっくりで思わず吹き出したらしい。
「人の考えることも侮れぬな。宝物庫に……いや、それでは見ることができぬし、飾る場所を作らねば」
意外にも高評価だったようだ。後日ドワーフを呼んで長持ちするように加工してもらい、飾る場所も作ってもらおうと計画がなされ始める。
「気に入ったならまぁいいか」
「だね。嬉しそうにしてるから」
ひとまず安全な保管場所として宝物庫にナナシの姿絵は入れられる。
宝物庫と聞いてアルゼルとシーナが飛びついたので全員で見学に向かったが、宝物庫と言うよりガラクタ置き場と言った方が近かった。
金銀財宝が広がっているわけでもなく、巨大な鳥の羽や羊毛らしきもの、モンスターの核や素材に丸太、魔道具のようなもの。他には人間の――子供用らしき大きさの家具があった。
「宝物庫っていうより……」
「保管庫、かな」
そんな感想をもらすシーナたちに対してナナシはケタケタと笑う。
「そりゃ、レインにとっての宝だかんな」
「ああ、それは納得です」
「それでも人間からすっと宝物庫に近いんじゃねぇの。少なくとも換金すりゃ大金になるもんばっかだかんな」
宝物庫と聞いて想像する金銀財宝でもなく、適当に置かれただけもののせいでガラクタにしか見えないが、よく見ればAランク以上の素材がほとんどだ。
確かにナナシの言うように価値が分かれば人間にとっても宝物庫かもしれない。
レインはナナシの姿絵のお礼にこの中から少し適当に持っていけと言い出したが、ナナシはそれを断った。
鍛冶師としてもかなり価値のあるものだが、珍しい素材ばかりなのでウォルバーグが気絶しても困ると。
マジックバック
決められた容量内なら生き物など一部を除いて収納することが出来る優れもの。
誰も気づかないほどのわずかな魔力でその効果が維持されている。
バックの中は時間の流れが遅くなっているため、恩恵は収納力だけではない。
中に入れたものはリスト化して見ることが出来、取り出すにはそれを思い浮かべると早い。適当に放り込んでいると取り出すのに苦労する。
壊れると中身が周囲に散らばるので拾い集めるのは大変だそうだ。




