1 強くなったから
「そろそろいいと思うんだけど」
誰かがそう言った。
新人の指導もやったし、ネームドを一応倒すことも出来た。冒険者としては1人前になれているはずだと彼女たちは口にする。
鍛冶師は黙ってフィリーたちの話を聞いていて、何も言ってこないことはどこか異様だった。
隣にいたルーグは鍛冶師が小声で覚えていたかと言っていたのが聞こえた。舌打ちまでしていなかったがなんとなく面倒そうにしていた。
「強くなったし、そろそろ連れて行ってほしい」
「あんたを強くしたって人のところに」
頬をかいた鍛冶師はうーんと小さく唸ってから、はぁとため息をつく。
確かにそれなりに強くなったらなとは言った。
鍛冶師からすると所詮口約束レベルであって、そこまで真面目な話でもなかったのだがフィリーたちからするとそうでもなかったようだ。
「あーまぁいいか」
フィリーたち4人の視線を受けた鍛冶師はかったるそうにそう言った。
元々、行かせるつもりがなかったわけでもないので別に構わないし、自分の過去について隠したいとかそんなことはなかったので行くのはいい。ただ道中が面倒なだけだ、ちょっとだけ。
「強くなったてんならたどり着けるはずだしな」
「やった」
「頑張らないと」
鍛冶師の言葉で喜ぶフィリーたちを見ながら、ルーグがキュッと唇を結ぶ。分かってるから、その資格がないことくらい。
それでも――。
「オレも行きたい!」
思わず出てしまったとルーグは自分でも驚いた顔をして、無理だよねと顔を伏せた。
フィリーたちと違って、ルーグは目的地もそこに何がいるのかも知っている。だから、そこにたどり着くまでの道も鍛冶師から聞いて知っている。フィリーたちでも苦労する道のりだ。
知っているから余計にそんな場所に何も出来ない子供が行けるはずもないと理解はしている。だからこれは単なるワガママ。無理だって分かってるから。
しかし、鍛冶師は――。
「いいぞ」
「え、いいの?」
フィリーたちに了承した時よりも簡単に許可を出す。
あまりにも簡単に出された許可にルーグは戸惑いを隠せない。
その対応の違いにシーナは冷ややかな視線を鍛冶師に向けるが、鍛冶師は4人のお守りはさすがに無理と返すとルーグの前に1本の指を立てた。
「ただし、1個条件」
「う、うん」
「両親の許可をとること」
それだけかと全員が拍子抜けした。
どんな難しい条件が出されるかと思えば両親の許可をとることだなんて、許可をとるのは決して楽ではないだろうけどそれにしてもである。
「遠出すんだし当たり前だろ。街の外に連れ出そうってんだ」
「いや、確かにそうですが。それ以外にももっと」
アルゼルが言うが鍛冶師はそれ以外は特に考えていないらしい。というか、それさえクリアしてしまえばあとはどうにでもなるとすら思っている様子だ。
「装備も俺が作れるし、ルーグ1人なら守るのも十分可能だしな」
実際、過去にオーウェンを連れて行ったこともあるようで大きな問題はないと言う。それに今回はフィリーたちがいるのなら戦力はあるだろうと鍛冶師は彼らに発破をかける。
「うん。やる、頑張る」
「そうよね。出来なきゃ途中で帰るしかないものね」
鍛冶師の言葉に気合いを入れるフィリーたち。
頼りにされるのならそれだけ力を認められていると思えるから気合いも入る。強い相手に実力を認めてもらえるのは嬉しいものだし。
しかし、鍛冶師の言葉に向かう先のモンスターはそこまで強くないのではと油断が出てきたようなアルゼルたちに対し、鍛冶師は珍しく真面目な声を出した。
「お前らフル装備で行けよ。少しでも舐めてかかったら一瞬でやられっからな」
目的地をしっかり知っているルーグだけがこの瞬間その言葉の意味を理解出来た。鍛冶師の言葉は事実だと。
なんとなくまだフィリーたちの実力では難しいということも。
「……それはしっかり。そういえば場所を聞いてなかったな」
「どこなんです?」
ガラドたちの問いかけに鍛冶師はこともなげに言ってみせる。
「幻影の森」
それを聞いたフィリーたちの顔色が変わる。
先程の鍛冶師の言葉も当然だと。
王国と帝国に跨り位置するそこは危険な場所として、どんなに近道だったとしても誰もがかならず避けて遠回りする。戦争時でさえ使われることのない道だ。
「嘘でしょ」
「人が住めるようなところでは……」
「やめるか?」
鍛冶師の問いかけにフィリーが首を横に振った。
約束していたのだから絶対に行くのだとフィリーからは強い意思が見える。シーナたちもそれは同じようで気を引き締めている。
それを見た鍛冶師はしょうがねぇと頭をガシガシとかいてたまには帰るかとこぼすのだった。
幻影の森
幻影と強いモンスターのダブルパンチ。
迷いの森よりも何倍も恐ろしい森であり、危険すぎる場所なので誰も立入ることがない。
近くを通る時は基本全速力で駆け抜けられる。




