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34 無事に

「おかえりなさい!」


 ルーグは元気よく嬉しそうに彼らを出迎えた。

 討伐が成功したと聞いていても、やはり実際に元気に動く姿を見ると安心する。


「ただいま、ルーグ」


 晴れやかな顔をしてロイはルーグに返す。

 故郷を守れたことでつかえが取れたのだろう。生まれた時からずっとあった不安から解き放たれたわけなのだから。


「おかえり。あとはまぁ、おつかれさん」

「うん、ただいま!」


 壁際の箱に腰掛けていた鍛冶師も帰ってきたロイやフィリーたちに声をかける。

 心なしか鍛冶師からも安心しているような雰囲気を感じた。ルーグのように態度にこそ出さないが鍛冶師も心配だったのだろう。


「今回の戦果はって、聞くまでもねぇよな」

「グリフォン討伐と決まっておりましたから」


 フィリーたちと一緒に戻ってきたオーウェンが言い、続けて鍛冶師が疑問に思っているであろうことの答えを口にした。


治療師(ヒーラー)の方が派遣されておりましたゆえ、こうしてすぐに帰ってくることが出来ましたぞ」

治療師(ヒーラー)?」

「たぶんっつーか、ギル(あいつ)が頼んだろ」


 ルーグは不思議そうに首を傾げたが、鍛冶師は見当がついているようで派遣したの(犯人)はギルベルトだと確信しているようだ。


「よくわかりましたな、鍛冶師殿。ギル殿が手配をしていたようですぞ」


 何も言わずとも正解をすぐに導き出した鍛冶師にオーウェンが感嘆の声をあげ、鍛冶師は顔を思い切りしかめた。

 本人は否定しているがさすが友人関係にあるだけあって、相手のやりそうなことはわかるらしい。


「やはりギルベルトさんは大変参考になります」

「べた褒めしすぎだってば」


 商人としてギルベルトに憧れを持つアルゼルは、その先見の明に感激しているがずっと道中話を聞かされてきたシーナはゲンナリしている。

 それに関してフィリーは純粋に話を聞いていたし、ガラドは苦笑しながらも静かに話を聞いていた。


「そのギルから伝言」


 その様子を黙って見ていた鍛冶師は、話を進めるために口を開き全員が自分に注目したところで続けた。


「月影亭に予約を入れて置いた。私からの討伐祝いだ。皆で楽しんでくるといいだってよ」

「場所はここからだと……」


 伝言の言葉をそのまま鍛冶師が伝え、ルーグが場所の説明をする。

 職人街で有名な店であるのだが住宅地の方にあるので詳しい場所までフィリーたちも知らないはずだ。住宅地の方は地元民以外はあまり近づかないから。


「高級店じゃない」

「緊張するな」


 出された店の名前に驚くシーナたち、職人街新参者のロイは何も分からず戸惑うがガラドがどういう店かロイに教える。

 職人街でも超がつくほどの高級店だと。


 冒険者組がそんな店をと驚き戸惑う中、オーウェンは笑い出し、鍛冶師とルーグは顔を見合わせてロイやシーナの幻想を打ち砕いた。


「表向きはそう見えっけどな」

「あの店、全然高級店なんかじゃないよ。まぁ、珍しいお店ではあるんだけど」


 どういうことだとフィリーたちが首を傾げ、話は月影亭に向かいながらと鍛冶師が言って全員で鍛冶屋を出た。


「元冒険者がやってる店なんだよ。月影亭は」

「けっこうお店が閉まってることも多いから、いつの間にか高級店とか言われるようなったって父さんは言ってた」


 なかなか店が開いていないことから希少性が高いといつしか言われるようになって、今では高級店などと言われるようだ。


「ここが月影亭ですぞ」

「へぇ、寂れた感じね」


 外観は今にも崩れてしまいそうな建物だが、よくよく見ればそれは見た目だけだということが分かる。職人街の職人たちの技術なのだろう。

 店の入口かけられた提灯が寂れた雰囲気に拍車をかける。


 鍛冶師は老舗っぽいだろと笑って入口の扉を開けた。


「お、やっときたか」

「主役の到着ですね〜」


 店の中にはウォルバークなど、魔道具の開発に携わった長たちがいた。彼らも立役者の1人だとギルベルトが鍛冶師に声をかけるように伝えていたためだ。


「それじゃ、グリフォン討伐についての話を聞きますか」


 それぞれが席に座ると鍛冶師はさっそくと、今回のグリフォン戦の話をするように頼んだ。長たちも技術の向上のためにと話を聞きたがっている。


 誰かが話し出す前にロイはイスから勢いよく立ち上がると、大きく息を吸い込んで頭を下げながら全員に対して礼を言った。


「ありがとうございました。皆さんがいなければ僕は……」


 言葉に詰まるロイはそこから先が上手く続けられない。言わなければならないことはたくさんあるはずなのに、感謝の気持ちが言葉にならない。


「気持ちは充分伝わったわ。せやからグリフォンの話してもろてもええか」

「急かすようで申し訳ない。ですが、我々も話を聞くのが楽しみでして」


 滅多にない機会だからこそであり、自分たちの技術がどこまで通用したのか知りたいと同時に、彼らは冒険者たちの冒険譚を聞くのも意外にも好きなのである。本にある英雄譚より余程面白いと。


「あ、と、はい」

「よく勝てたと思いましたよ。あれはネームドでも殊更強いモンスターだったはずです」


 オーウェンからの事前情報と魔道具のおかげでフィリーたちもなんとかグリフォンと戦えたが後半になるにつれて厳しい戦いになったと言う。

 魔道具がなければフィリーたちも勝てたかどうかと言ったレベルだったらしい。


 店主が次々と出してくる料理を減らしながらグリフォン戦の話をロイやフィリーたちはしていった。けっして楽な戦いではなかったというのは伝わってきた。


 そうしてグリフォン戦の話から店主を交え戦略や武器などの話まで広がりをみせ、途中でルーグがうつらうつらし始め、今日はお開きになった。


 今日は討伐祝いなので後日また集まって話をすることに決まった。後から送られてくるグリフォンの素材のことなど詰めることも色々と多いからだ。



月影亭


元上級冒険者が開いた隠れ家的な飲食店。


店主自ら材料集めに向かっているためいつ開いているか分からないが、予約さえしておけばちゃんとその日に店を開けてもらえる。


元冒険者だけあって酔っ払いなどマナーの悪い客にしっかり対応可能。

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