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29 職人街の力

 鍛冶師はルーグが淹れてくれたお茶を飲みながら、難しい顔をして文字の上に線をいれていく。


「魔剣の組み合わせ?」

「んにゃ、今回は魔道具(マジックアイテム)グリフォンのな」


 どうやらロイの故郷にいるあのネームドグリフォン対策を考えているらしい。


 鍛冶師は朝届いたばかりのオーウェンからの手紙をルーグを見せる。


「村の人たちも戦う気なんだ」

「ロイ1人にはさせねぇってな。ま、オーウェンが止めてるよ、やる気だけで勝てるわけでもねぇかんな」


 そこまで強いモンスターが出るような場所でもなく、村を出るような人間も少ないのではどう考えても実力が足りない。無駄死にになるだけである。

 全員が超人的な力を持つなら別だが、非現実的な話だ。


「で、そんなにやる気があるなら事前仕込みを手伝ってもらおうって話でな。オーウェンのやつ、こっちに丸投げしやがった」

「あーうん。専門分野じゃないもんね」


 そんなわけで頭を悩ませているらしい。

 組み合わせ次第では魔道具だけでグリフォンを倒せるようだが、そうすると辺り一面もろともとかでアウト。かと言って被害が出ないようにすると魔力の問題などが出てくる。

 他にも予算や扱えきれるかどうかなど、考えるものは多い。


「いっそ倒しに行った方が早いんじゃないの」

「考えなかったわけじゃねぇよ。俺がやると二次被害がでかいだろ」

「なるほど。納得」


 フィリーが言っていたとルーグは思い出す。

 鍛冶師がモンスターと対峙すると、モンスターがパニックになったりやたら暴れ回るとかで周囲の被害の方がでかい。ついでに1匹倒すと群れに襲われることも多いとかなんとか。

 強敵直後にそんなことされたら手のうちようがないのは確かだ。鞭打って動ければマシなほうだろうし。


「ま、そんなわけで試行錯誤よ」

「そっか。いい案が出るといいけど」


 結局この日はいい案が出ず、ルーグも夕方には家にかえって行った。


 ――翌日、ルーグが家でそのことを話すとウォルバーグも一緒に鍛冶屋にやってきた。あと冒険者が使う道具を作ることの多い長たちを引き連れて。


「まー確かに行き詰まっちゃいたけどな。あんたらが揃って出向いてくるとはね」

ムカつく剣(この間)の礼がある」

「お祭りのこともありますからね。お手伝いしますよ〜」


 困った時はお互い様ということらしい。

 中には鍛冶師が困っている珍しい状況をちょっと楽しんでいるやつもいるけれど、手は貸してくれるようだ。


「すぐに追い返そうとせんといてな」

「話くらいはお聞かせ願えませんかねぇ」

「わーったよ」


 そう言われて追い返すのは難しそうだ。彼らが頑固なのも分かっている。鍛冶師は負けたと降参のポーズをする。


「ル――あー、ルーグは机の拡張しといてくれ」

「え、あ、うん。この間とおなじでいいんだよね」

「おう。それとオーウェンからの手紙持って来といてくれ」


 ウォルバーグ(ルーグの父)がいるのにいつも通りはさすがに良くないと判断した鍛冶師は、飲み物の用意をルーグに頼まずに自分で行うことにして簡単な作業をルーグに頼んだ。


 鍛冶師の指示を受けテキパキと動くルーグに長たちは優しい笑みを浮かべてから、ウォルバーグに向けてからかうような笑いをみせる。


 ウォルバーグがルーグを鍛冶師に取られたと酒の席で零していたが、なるほど確かに鍛冶師にとても懐いているようだ。


 イスを用意したところでルーグの手が一瞬止まる。


鍛冶師(あいつ)、変な淹れ方してなきゃいいけど……心配になってきた」


 基本鍛冶師はお湯を注いで淹れただけが常である。ルーグはそれでも別に構わないし、なんならウォルバーグ()だけならそれでいいとも思っているが今日は長たちがいるわけで――。


 ルーグは机を用意する前にオーウェンの手紙(資料)を取りに行くついでに鍛冶師の様子を窺いに行った。今日はなんとか大丈夫そうだとわかりルーグは手紙と鍛冶師のメモを持って戻り机代わりの木箱を運ぶ。


「――ふむふむ、これはかなりの難題ですねー」

「魔道具を渡しても使いこなすは時間がかかりそうですねぇ」

「ようこんな思いつくもんやなぁ」

「あいつの頭ん中はどうなってんだ」


 長たちが資料を読みながらそれぞれの感想をこぼす。彼らからしても難しい問題のようだ。


「どうよ?」

「難しそうですがどうにかなりそうな気もしますよー」

「知っちまった以上はやってやるさ。出来なきゃ職人街の名折れになっちまう」


 どうやらやる気だ。長い作戦会議が始まった。

 とにかく1個ずつ穴を埋めていく。それぞれが各分野の専門家なので出来る出来ないの決断も早く、説明すればすぐに皆理解するので進むのは早い。


「こんな感じでいいだろ」

「今考えうる最良は、ですけどね〜」


 結論としてはあまり高威力のものを作っても使い慣れてないと危険も多いので初心者向けの低威力の魔道具を大量生産することで決まった。傷を負わせるというよりか動きをにぶらせるタイプの。


 対グリフォンにだけ絞り、彼らが設計すれば全く効果がないと言ったことも避けられるので低威力でも問題ない。


 運搬に関しては技術の必要なところだけ職人街(こっち)で組み立て、残りはマイルズの村(ロイの故郷)で組み立ててもらうことにする。


 これは魔道具の仕組みを理解してもらうためと扱いに慣れてもらうためである。

 これは村の今後の自衛を考えてのものでもある。出来るだけ簡略化してあるので、アレンジを加えれば逃げる時間くらいは稼げるようになるだろう。


「残る問題は素材の工面やな」

「代用で作ることも出来ますし、かき集めればなんとかなるかもしれません」

「時間も少ないようですし、急ぎましょう」


 すぐさま職人街全体に連絡が行き渡り、職人たちによる魔道具作りが始まった。なるべく簡単な作りにしたこともあってとにかく出来上がるの早かった。


職人街の長たち


各分野ごとに街の中で1番の実力を持つ人物につけられる。まとめ役兼責任者としてとしての役割を持つ。

最近は若いと言っても中年だが、前任から若くして長に指名されることもあるようだ。


ちなみに癖の強い人も多いらしいが完全実力社会なので腕は超一流である。

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