28 休息日より
鳥がけたたましく鳴いて、つんざくような鳴き声が耳にこだまする。
美しいさえずりで目を覚ますなどありえないとでも言いたげなそれは、目覚まし時計のベルの音よりも不快な音で確実に目を覚ませる音量だった。
不愉快な鳴き声が聞こえなくなったと思えば、今度は窓ガラスがガタガタと揺れ始め鍛冶師は慌てて音を立てる窓まで向かった。
このままじゃ窓が割れかねないし自分の身の危険だ。せっかく人が気持ちよく寝ていたというのに。
「あーうるせぇ。朝っぱちから」
鍛冶屋2階の居住スペースの廊下の窓、1羽の地味な灰色した鳥が窓ガラスをつついていた。鍛冶師の姿を認めるとそのスピードは早くなり、同じ場所がつつかれていくのでそろそろガラスに穴が開きそうだ。
「ちょっと待てっつーの」
つつくのをやめてくれる気配がないので鍛冶師はそのまま鳥がいる側の窓を開け、鳥が家の中に転がり落ちる。
そいつは起き上がると何が起きたのかは分からないとでも言いたげに周囲をキョロキョロとして届け先の人物である鍛冶師を見つけるとブローチのように鍛冶師の胸に止まった。
「主人に似なくてもいいのになぁ、ったく」
ペットは飼い主に似ると言うが、この性格はそっくりだ。熱中すると周りが見えなくなる感じは。
鳥の背負うリュックから手紙を抜き取った鍛冶師は、1階に向かいひとまず水を用意してやるとオーウェンが忘れていったひまわりの種の存在を思い出したのでそれも出しておく。前に食べるとか聞いたし。
「さーてと、オーウェンからはなんだ?」
無事にロイの故郷にたどり着いたのでその報告でもあるが、周囲の地形やモンスターなどがかなりまとめられている。ついでに村の規模なども書かれていた。
パンを齧りながらメモように残していた紙に使えそうなものを書き出していく鍛冶師は、頭の中で組み立ては首を横に振って書いたものを却下だと線を引いた。
「威力が高すぎ。で、こっちは扱いに困んだろ、かと言って……」
机をコツコツと叩いて悩んでいると、今度は鍛冶屋の出入口から声が聞こえてくる。ルーグが来るにはまだ早いので放置できず、鍛冶師は来客の対応に向かった。
「デイブか」
「はい、デイブです」
店の前の階段を一気に駆け上がって来たのかゼーゼーと息切れをしているデイブにソファを勧め、すぐに用意できるものとして水を出しておく。
ソファに腰掛けたデイブは手のひらに乗る意匠が施された小さな箱を机に置くと水を一気に飲んでから口を開いた。
「お約束のジュエルフィッシュの素材です」
「意外と早かったな。つーか思ったより多くないか、これ?」
箱をとって中を確認した鍛冶師が驚いた風に言う。素材の量や部位の指定はしていなかったが、ウロコの1枚くらいだろうと鍛冶師は思っていた。
王国と帝国の仲の悪さなどを考えれば最低限になるはずだ。
「はい、説明するとですね。そのほとんどは皇帝からになります」
鍛冶師の作ったものをひどく気に入った皇帝は作った人間に報奨を出すと言い、鍛冶師が料金の代わりに要求したジュエルフィッシュの素材を報奨として受け取ったきたとデイブ。
他にも報奨は言われたのらしいのだが理由をなんだかんだつけて断ってきたという。
「殺されるかと思いましたよ。ですが、打診の話にもなってしまいますからね、必要なものだけを頂いてきました」
要求以外を受け取るのは付け入る隙を作ってしまうことになるので鍛冶師としても遠慮はしたい。断るにしても権力者相手は面倒が多い。
「助かる。お前もそーいう話はあったんじゃねぇのか」
「今後とも王国との商売を続けさせてもらうということでまとまりました」
「うわ、傲慢」
王国と帝国の仲の悪さを考えればかなり図々しい願いなのは確かである。それらを踏まえると釣り合いの取れた報奨になるのは間違いないが危ない橋を渡ったものである。
「とはいえ、王国に行けなくなるのは死活問題ですし、来月の会談次第ではまた出国制限がかかるかもしれませんから」
「毎回ケンカになるやつか。戦争にならないだけマシだけどな」
「ええ。なので不興を承知でそうさせて頂きました」
先を見据えて動くのは商人としての基本なのでデイブの行動は正しい。毎回トラブルを持ち込んでくるだけの厄介者かと思えばそうでもないようだ。
「正直この店に来れなくなるのは困りますからね。無理難題も引き受けくださる貴方と癒しのルーグ君、どちらが欠けても仕事に関わります」
「そーか」
デイブの褒め言葉を軽く流した鍛冶師はジュエルフィッシュのウロコを手に取って魔力を流し始め、宝石のような輝きを持つそれは光を放って眩しくなる。
そこに鍛冶師の食事を持ったルーグがやってくる。
「ご飯持ってき……なにそれ?」
「ジュエルフィッシュ。ルーグもやるか?」
「うん!」
子供らしい好奇心で目を輝かせるルーグは鍛冶師に駆け寄って受け取ったウロコに魔力を流し光らせる。チカチカと点滅させて楽しんでいる。
「すごいね、これ。あ!」
ジュエルフィッシュに気を取られてデイブがいるのに今気がついたルーグは顔を真っ赤にして俯いた。お客が来ているのに気付かずはしゃいだことを不覚だとでも言うように。
「お茶!お茶いれてくる!」
「頼んだ」
「お願いします」
ルーグが奥の部屋に引っ込むとデイブは笑いをこぼした。子供らしいルーグも愛らしいが本人は恥ずかしいだろうと堪えていたのだ。
「ああいった面を見ると安心しますね」
「まぁな」
デイブの言葉に鍛冶師は奥の部屋に続く扉に視線を向けながら同意をした。
ルーグも鍛冶長の子供だとか、まあ色々とあって息を抜ける時間があるに越したことはない。知らずのうちにそれらに苦しめられることもないわけじゃないのだから。
「次に来る時は帝国で流行ってるおもちゃでも持ってきましょうか。……いや、また危ない橋を渡るのは、1つだけなら大丈夫……」
「なはは。でも俺も興味あんな、なーんか面白そうだし」
「では、何かあった際は件の鍛冶師さんの要望と言うことで」
お前なぁと鍛冶師がデイブの頬をつねっているところにルーグがお茶を運んできて、鍛冶師はルーグに怒られるがケタケタと笑いデイブから帝国のおもちゃについて話を聞くことにした。
王国と帝国の会談
数年に1度大規模な会談が行われるのだが大抵大荒れになり、そのためしばらく両国間の行き来が通常よりも厳しくなる。
歴史の中では会談が戦争の火種になったこともあるとか。




