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26 ギルベルトの朗報

 鍛冶師は相変わらず露骨な顔をしたが、それも相手が気の置けない相手だからこそである。


 今日も閑古鳥が鳴く店にギルベルトがやってきた。


「今日は私自ら朗報を持ってきたのだがね」

「そーかよ。で、何の朗報だよ」


 優雅な立ち居振る舞いをするギルベルトとは反対に鍛冶師は行儀悪くソファに腰掛けて、興味無さそうにギルベルトの相手をする。


 ルーグはギルベルトがきたのでお茶の淹れ直しと茶菓子の用意のために奥に引っ込む。


「時に、君はロイ君の手助けはするのかね」

「ここで出来ることならな。向こうまで行く気はねぇよ」


 質問に質問で返すなと言いたいところだが、そんなことは時間の無駄だと鍛冶師はさっさと話を進める。いちいちツッコミをいれていたらのらりくらりとかわされてキリがない。


「ふむ、であれば少々人手は少なすぎると言うべきだろうか。改善書を提出する前に少々ロイ君の故郷について調べたのだが」


 間を置いたギルベルトが口を開く。

 ロイの故郷に封印されたグリフォンはネームドの可能性が高いと。


「オーウェンから聞いた。ま、こっちでも手は打っとくけど。動いてくれるかは分からんが」

「彼もその結論に至ったのならば間違いではないのだろう」


 ただのグリフォンではない知ったところでギルベルトは臆することも動じることもない。自分に縁遠い話だからではなく、ギルベルトは自分が出来ることをやるだけだ。

 本人は優雅さに欠ける行為はしないだけと言っているが。


「それで朗報なのだが、国から兵を2人ほど派遣してもらえることとなった」

「2人ね。後方支援か。しゃーねぇか」


 被害が起きる前からともなればかなり異例の支援となる。周囲からの反発なども思えば待遇としては上等だ。それに冒険者と兵では性質が違うこともあって即時連携も難しいこともある。それなら、互いが邪魔にならないラインでの共闘が望ましい。


 と、そこにお茶を淹れたルーグが戻ってくる。

 鍛冶師はすぐにギルベルトから聞いた話をルーグに伝える。


「ルーグ、ロイの村国王が支援してくれるってよ」

「え、それじゃあ――」

「兵が2人」


 期待より大幅に少ない支援に、輝かしい想像は一瞬にして崩れさる。

 そうだった、ロイが来た時に鍛冶師が言っていたはずだ。誰にも見向きされないような村に大きな支援が来るはずがないのだから兵が2人だとしてもかなり破格のはずなのだ。


「討伐にかかる費用の1部は負担してくださるようだ。なのでしっかり領収書は作っておいてくれたまえ」

「へいへい。しっかしちょー大盤振る舞いじゃねぇか」

「陛下のお心だろう」


 聞いてショックをうけるような支援内容でも国も組織という形がある以上、膨大な時間も周囲の許可も必要でたった1人の意見ですぐにどうこうできるものではない。

 それを数ヶ月で可決させたのだからギルベルトのお心という言葉も頷ける。


「あのさ、もし職人街(ここ)がそんなふうになってたとしたらどうなってたの?」

「そりゃお前、すぐに大量の兵と冒険者が送られてくんだろうよ」

「おそらく帝国も動くだろうね」


 ルーグの疑問に返ってきた答えはすぐに対策が取られるというものだった。ただし職人街を所有する王国だけでなく、敵外している帝国も同じように動くだろうと言う。

 国の重要な場所であり、それは王国侵略を企んでいる帝国にとっても同じで、出来れば無傷で手に入れたい街なのだ。


「差がすごいね」

「平等に出来ればいいのだがね」


 そうこぼしたギルベルトはカップに口をつけて困ったように笑った。


「出来るやつでどーにかするのが現状だな。戻ってきたら伝えとくわ」

「よろしく頼むよ」


 朗報を伝え終わりすぐに帰るかと思われたギルベルトだが、時間はあると鍛冶屋に居座る気満々だった。

 まあ2階の居住スペースの空き部屋はほぼギルベルトの部屋のようになってしまっているが、鍛冶師同様自由すぎる。これも遠慮のない相手同士だからかもしれないが。


「ときに、そのロイ君の調子はどうだい?」

「対グリフォンの対策中」


 時間もあまり残されていない状況で少しでも勝つための行動を起こすのならその方がいいだろうとギルベルトはすぐに理解をして、ロイたちが向かったあろう地名をつぶやく。

 オーウェンとも親しい間柄なので、そこそこモンスターの出現地域にも詳しい。


「ふむ、道中もいい修行の場になりそうだ」

「そうなの?」

「あの辺は虫系も多くて飛ぶんだよ。経験値積むにゃもってこいって感じだよな」


 そう言って鍛冶師とギルベルトはロイたちの向かう道について教えてくれる。

 冒険者などの物好きでなければまず通ることもない道で、とにかく気の荒いモンスターが多いと言う。獣のモンスターにばかり気を取られていると虫系モンスターに気がつかず危険らしい。


「植物系とかも言えっけど擬態と気配が薄いのは厄介。それでパーティー全滅とかあんだよ」

「とくに森の中のような隠れる場所が多い地形ではね」


 さらに解毒するにも全てに効く万能薬などないわけで、毒持ちの多い虫系モンスターには手を焼かされると言う。できるだけ攻撃を喰らわないで倒すのがベストだ。


「ロイ、大丈夫かな」

「ま、フィーたちいるし大丈夫だろ。アルゼルはけっこうなんでも持ってるし」

「油断するような冒険者ではないからね」


 あとはロイがどこまで食らいつけるかだけが問題だと鍛冶師は言う。普通のグリフォンを念頭に置いたとしても、そのための対策となれば中級冒険者でさえ気が抜けるものでないのだ。

状態異常(毒)


麻痺や混乱など様々な状態異常があるが特に厄介なのが毒。

一言に毒と言っても、毒の種類によって解毒法が異なるためだ。


そのため冒険者はパーティー内でそれぞれ違う解毒魔法を覚えていることが多いよう。

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