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23 さらなる脅威

「――あの辺りは凶悪なモンスターがいたと話がありますゆえに」


 不穏と言えば不穏なのだが、オーウェンからもそれを言われた鍛冶師からもそんな空気は感じ取れない。


「おーそうか。つーことは――」

「「ネームド!」」


 オーウェンと鍛冶師は声を揃えてそういった。

 気楽に言う2人とは裏腹に他の全員はネームドと言う言葉に息を飲んだ。


 ネームドとは非常に強力なモンスターだ。

 周囲にもらたす被害はとてつもなく、ネームドの出現によって地図から消えた町や国も人類の長い歴史の中では少なくない。

 討伐の際は国の騎士団と複数の上級冒険者パーティーが手を組んでと言うことも多い。ネームドは動く災害と言って差し支えない。


「なっんで楽しそうなのよ!」

「好奇心が勝っちゃうんだ……」


 シーナが勢いよく突っ込み、ルーグは呆れたように呟いた。この動じなさは恐ろしくもあり頼もしくもあるが、ネームドと知って楽しみに満ちている2人には驚きが隠せない。


「いやー、モンスター学者としての好奇心ですな。ネームドなど滅多にお目にかかることはできません故に」

「なはは、宝の宝庫だかんな。それに美味い」


 オーウェンの意見はいい。モンスター学者である彼からすればそうそう巡り会えない研修対象に出会えたということだ。しかも封印がされているということは、封印が解けるまでは安全に調べ放題と言うことである。こんなにチャンス喜ばずしてどうするんだ。


 鍛冶師の言うことも前者は分からなくはない。

 ネームドは他の同種の素材と比べ、やはりその強さ故に強力な素材だ。倒すのには苦労するがその分恩恵も多い。

 しかし後者の美味いというのには誰もが開いた口が塞がらなかった。


「食べるの?」

「不味いと言う話ですよ」


 アルゼルの言う通り、ネームドを食べたという話は歴史上ほぼない。ネームドに食せるところがあるかはさておき大抵は必要なところを取ったら燃やされる。


 しかし鍛冶師は違ったらしい。

 普通は食べないと聞いて首を傾げ、自分の知識が当たり前ではなかったことをしりそのズレに頭をかいた。


「大抵美味いんだけどな、ネームドっつーか強いモンスターは」

「そう言われると食べてみたくもなるけど、解体してる間に腐るからね。防御力(硬さ)生きてる時とほとんど変わらないし」


 ゾンビ化を防ぐためも理由の1つだが、強いモンスターほどより強い武器や防具のための素材として重宝されるため解体され、燃やされる。

 なかなか武器が通らないモンスターの身体なので、わざわざ切るのも一苦労な硬い肉を食べる気にもなれないのだろう。あとは昔の冒険者が残した手記にネームドを食べたという記録があるのだが、味は不味かったと書かれているのも理由だろう。


「調べてみる価値はありそうですな。鍛冶師殿、ありがとうございます。新しい道がひらけそうですぞ」

「おー。やるときゃ言ってくれ、解体道具(専用道具)作っから」

「お願いしますぞ」


 鍛冶師とオーウェンのテンションがおかしいのはずなのにそれすら分からなくなってきたが、ロイの村に封印されたグリフォンがネームドだと分かりフィリーたちも自分たちも戦わなければと決意をする。


「私たちも戦わなきゃ」

「そうね」


 故郷をモンスターに奪われたフィリーは力強い決意にシーナは頷く。滞在先の町が為す術なくもなく壊されていく様を見たことのあるシーナもやる気をだす。

 ガラドもアルゼルも逃げるつもりはないらしく戦うつもりのようだ。


「なんとも心強い。では拙者は封印を確認して参りますぞ。有利な状況が作れるかも知れませんゆえ」

「必要なもんがあったら言ってくれ」


 ネームドだからと言ってロイやフィリーたちのやることは変わらない。もちろん鍛冶師もだ。自分たちの出来ることをやることしか出来やしないのだからそれをやるだけだ。


 空気を入れ替えるように鍛冶師はパンと手を叩いた。


「この話はここまで。羽は伸ばせるうちに伸ばしとけ」


 不安に駆られるロイだけに向けられたような言葉にフィリーたちは頷いた。最大限の力を発揮するには心も身体と健康でなければならない。

 対策などは考えなければならないが、不安になるのは対峙した一瞬だけでいい。


「切り分けるのにナイフ持ってくる。お茶のリクエストがあればそれも持ってくるけど」

「じゃ今日はグリーンズのにすっか。俺も行く」


 すぐに切り替えるフィリーたちと違い、ロイは故郷近くに封印されたグリフォンがネームドということに戸惑いが隠せず水すらも喉を通らないようだ。

 そんなふうにロイの額にシーナは指を突きつける。


「諦めるつもりがないならそんな顔するんじゃないわよ。情報だって手に入ったわけだし、進む方向が明確になっただけじゃない」

「ええ、そうですとも。未知のモンスターではない訳ですからね」

「そう、ですよね」


 ロイは手のひらをぎゅっと握りしめる。

 絶対に勝てないわけじゃないのならどうにかなるとそれほど楽観的にはなれないが、それでも1人で戦ってるわけじゃないから心強い。


「うん。オーウェンさんもいるから、より対策は取りやすくなってる」

「絶対大丈夫」


 フィリーたちはネームドを前に微塵も負けるとは考えていないようだ。

 ただ真っ直ぐにロイを見る。決して怯えなどなく、その目に映るのは覚悟だけである。


「茶入ったぞ」

「新しいコップはこっちに置いておくね」


 鍛冶師とルーグは戻ってくるとさっそくケーキに切り分けてお皿に置いていく。鍛冶師が用意したナイフで切ると無駄に断面が綺麗だった。


 それ専用に開発したとか鍛冶師が言ってフィリーはすごいと褒めたたえたが、ほかは皆呆れていた。

モンスター学者


この世界においてモンスター学者の役割は非常に大きい。生態調査など危険なフィールドワークが多いのだが、どういう訳か戦える学者が少ない。


どちらにせよ、オーウェンのように護衛もつけず生態調査を行うタイプはそうそういない。


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