14 自由時間
職人街を訪れる客の中には獣人たちに対し忌避する者もいなくはないが、職人街の住民たちはかなり受け入れていた。
高みを目指す向上心を前に人間も亜人もないのだろう。
お互い職人という人種として、それ以外に気にもとめてなかったようだ。
これだけでも連合国との技術交流は成功と言えるだろう。
「なーんで貴重な最終日にここにくるかね」
「冒険者がうるさいから、とか?」
ナナシの呆れたような疑問に対しガルムにお茶を出しながらルーグが答える。
今日は技術交流の最終日。
今日までの街の様子から各人の自由行動の許可が出され、レオンたちはそれぞれ自由に行動している。
一応、衛兵はいつもより多く配置しているが問題はなさそうである。ついでにミックも街を徘徊している。
そ
この間のような亜人排他主義がいたとしても、獣人たちと打ち解けた住民や冒険者が味方してくれるだろう。
そうして、それぞれが自由に街を見て回れる中でガルムはナナシの店にやってきた。
特に何をする訳でもなく、かといってとりあえず来たというか、なんとなく逃げてきたという感じである。
「………………」
ガルムは何も言わない。
つまり図星。無言の肯定。
まぁ確かにココル伯爵の件以降、声をかけてくる冒険者も多い。
しかもガルムの人間嫌いも理解した上で話しかけてくる。
冒険者からすれば攻撃を伴わない敵意なんて敵意でもなんでもなく、威嚇してくるくらいの感覚なのだろう。
ガルムも嫌いと態度には出るし拒絶することはあるが、無視することはなく話しかけられればちゃんと最低限でも会話はする。
「お前も筋金入りってことだな」
「うるさい」
反撃する言葉が見つからないガルムはそれだけ言い返すとルーグが淹れたお茶を一気に煽った。
元々、騒がしいのは好まないガルムなのであちこちから声をかけられる人気者というのは耐えきれないのだろう。
ナナシとしては自由時間にガルムが何をしようといいのだが、せっかくの技術最高峰の街だ。護衛だけで見て回らないのはもったいない。
「ルーグ、出かけるぞ」
「え?」
「ガルム連れて観光」
急なナナシの言葉が理解できず思わず聞き直したルーグにナナシは観光と言うと、ルーグのお出かけ用肩がけカバンを手にとって渡した。
「ガルムさん、嫌じゃないの?」
「だろうな。けど、この街の住民は人間であって人間じゃねぇ!」
じゃあ何とルーグが問いかければ、ナナシからは職人という種族だと答えが返ってきた。
全く訳の分からないことをとも思うが、なんとなくルーグも分かるのでそれ以上のツッコミはできない。
乱暴に言うなら同じ道を志すのであれば相手の姿形なんてものはどうだっていいのが職人たちだ。
ミックの受け入れが早かったのもそこら辺も起因しているだろう。
「さてと、行くか」
問答無用とガルムを連れたナナシは街の方へとルーグを連れて向かった。
街中はいつもよりもちょっと騒がしいかなといった感じで、おそらく獣人たちの自由行動によるところが大きいのだろう。
今日が技術交流最終日で、しっかり話せるのは今日が最後なだけに色々と声をかけてくる。
「お、ナナシ。最後の1人連れてきたのか?!」
「んにゃ、ちょっくら観光。ついでにルーグのお守にな」
ガルムがナナシに抗議しようとするが、声をかけてきた中年の男に遮られた。
「おーそうか。そりゃいい」
「だろ」
「はぐれると大変だからな。しっかり頼むよ、兄ちゃん」
男はガルムの肩を軽く叩くと去っていった。
「はぐれた時はお前の鼻が頼りだかんな」
「えーと、その時はよろしくお願いします」
ナナシに対し何かを言いかけるガルムに被せるようにルーグが頭を下げた。
ルーグもナナシとガルムのやり取りから、なんとなくガルムの性格もわかってきたのでそうした。
たぶん、ガルムはやらないと口で言いつつもその時には助けてくれるのだろうけど。
観念したようにため息をついたガルムは人の多い大通りに視線を向けてどこに行くんだと口を開いた。
「そーだな、まずは武器屋街が妥当か」
ガルムには無難なところだと武器屋が多い通りに向かう。
ナナシとルーグがいることもあってかガルムに対して皆、挨拶だけに留まっていた。
店の中まで入らずとも、通りに見えるように置かれたショーケースに並べられた武器や防具があるのでガルムもそこそこ楽しめているようだ。
仲間を守る強さを求めることもあるが、器用さなら軍配が上がる人間の、しかも世界レベルでも上位の作品が並ぶ。
連合国軍ではまず見ることのできないものだ。
「ま、オルトに勝てる人間はいねぇだろうけどな」
「ナナシが次元が違うって言うくらいだもんね」
そんな会話をしているとガルムも認めたくはないがオルトが手直ししたのは一切邪魔にならない防具だと絶賛する。
「お前でも認めざるを得ないか」
「さすがにな」
つけているだけも分かるが、冒険者も戦って余計に分かる。オルトが手直しした防具は実力以上の力が出せたから。
認めないわけにはいかない。
そうして武器屋通りを抜けると、ガルムの友人は土産を期待しているだろうからとお土産になりそうなものが多く売っているエリアに向かった。
ガルムはあまり気が向かなそうではあったが。
売っているものは高い技術を駆使した工芸品が多く、安いといっても少々値が張るものが多く並ぶ。
安価なものと言うと、菓子職人が作った日持ちするお菓子がメインだ。
「どの道リジーのやつはうるせぇだろうかんな」
「あいつも、だな」
好奇心旺盛な友人もであるが、交流会の護衛として行きたがっていたリジーも戻った時にとてもうるさいことだろう。
静かにさせるためにもアメは必須かとガルムはいくつかの棒付きキャンディーを買うと、友人用の土産になりそうなものを探し始めた。
「ペンなんかはどこだ?」
「それならもっと高くなるけど、隣の通りの方がいいかな」
「だろうな」
今いる通りは1人前になりたての職人たちのものが多く並ぶので、職人街流に言うのであれば二流の作品だ。
しっかりしたものを贈るのなら、1人前の職人の中でも認められてる職人の方がいいだろう。
珍しく嫌な顔せずそれに乗ったガルムを連れて、ナナシたちは店に向かった。
お土産屋
用事もなく個々の店に入るのはちょっとという人たちのために作られた職人街を手軽に楽しめる場所。
今回ナナシが向かったのは1人前と認められた職人の品が並ぶ店だが、職人から許可を出された見習いのも売っている。
職人にとっては新規お客の開拓にもなっている重要な場でもある。




