金曜日の朝のこと
今日は、何となくぼんやりとした目覚めだった。
身体をむくりと起こし、しばらくぼーっとする。
カーテンの向こう側から聞こる雨音が、私の心を重くさせる。
けれど、今日は金曜日なのでその分心は軽くなり。
結局、相殺的に私の心はいつも通りとなった。
欠伸をしながら、制服を着て、下に降りる。
机に出されたパンを食べて、歯を磨く。
楓花は既に出発しているようだ。早い。
玄関に向かって──。
「あぁ。そっか」
靴箱の中に、見慣れないものがあると思ったら。
そうだそうだ。美結ちゃん家のスリッパだった。
「……ま、いっか」
傘を取り出し、そのスリッパに足を滑らせて。
私は学校に向かった。
※
「はぁぁ……」
学校の靴箱について、まず出るのはそんなクソでか溜息。
なぜかって。靴下がめっちゃ濡れたからです。
濡れないように意識していても濡れちゃうのなんなんだろう。
この現象に名前を付けた方がいいと思うんだけど。
それとも、もう名前付いていたりして。
……どうでもいいや。
カバンの中からタオルを取り出し、靴下を脱ぎ。
足を軽く吹いて、学校のスリッパの中に足を通す。
うん。スースーしていて、気持ちいい。
少なくとも、靴下が足に張り付いてる感覚より、百倍マシだった。
靴下はもうどうせ今日は履かないと思うので、靴箱の中に突っ込んだ。
教室へ向かう。
二年生の校舎に入った途端、少し視線を感じる。
まぁ、昨日の放送のせいだと思うけどさ。
それでも、集まる視線は少なかったので、気にしないことにした。
やがて、私のクラスに辿り着き、教室内に入ったところで、
「あ、古賀さん。おはようございます。ちょっと来てもらせませんか?」
前の方から、そんな声が飛んできた。
担任の柳先生だ。
私の苗字、そういえば古賀だったか。
忘れたわけじゃないけど、最近『伊奈』って呼ばれることが多かったからな。
古賀伊奈。二文字と二文字で構成された私の名前。
ごめん、お母さん。お父さん。ちょっと言いにくいよ。
なんて、意味わかんないことを思いながら。
「あ、はーい」
説教は昨日で終わったので、怒られるわけでもないだろう。
ので、私は普通に受け答える。
私は先生の近くに寄る。
「じゃあ、ちょっと職員室まで」
「え。はい」
何をされるのかは不明のままだったが、私は先生の背中に付いて行った。
心音が私の方を見ていたので、軽く手を振ってみた。
けれど。向こうは無表情のままだ。
別に驚きはしないけど、確かに少し寂しいものがある。
※
私は、応接室的な場所へと連れてこられた。というより、恐らく応接室。
何か聞かれたくない話でもしようというのだろうか。
分かんないけど、少し怖い。
ちょっと豪華そうなソファーもある。
そこに腰をかけたところで、先生は口を開く。
「えっとですね。これは古賀さんに話をしておくべきだと思ったのですが」
「はい」
「昨日。あの後、職員室で話をした後に。本当はそこで昨日は終わりの予定だったのですが。……やっぱり、早めにと思って、一年E組の谷川先生と、その、白河美結さんを悪く言ったという生徒の家へと向かったのですけどね」
「あ。はい」
そうなんだーと思った。
確かに。早めにやって悪いことなんて。多分ない。
割といい先生じゃないか。うんうん。
「それで、一人目の生徒に会いに行って。そしたら、案外あっさりと自白してくれたんですよね。あの、白河さんのことを悪く言ったっていうことをですね」
「あ。そうなんですね。なら良かったじゃないですか」
あの柄の悪い感じからして、そういうのを認めない性格かと思ったが。
そういうことなら、良かったんじゃないかって思う。
「はい。『怒らないから言ってみてください』と言ったら、怒られるのが怖かったらしくて、悪口を言ったことをEクラス全体に口止めをしていたってことを自白してくれました。他クラスには、白河さんを認知している存在はいなかったので、その必要はEクラス内で済んだらしいですけど。あ、もちろん怒りましたが」
「あ。そこはちゃんと怒ったんですね」
つまり。
昨日、昼休みに美結ちゃんの教室に行った時、あの人たちから『誰ですか、その人』と言われたのはそういうことなのか。
楓花は認知していると思うけど、流石に情報がAクラスまでは届かなかったらしい。
結果的に、向こうが自白してくれたのなら良かった。
こうやって事実を自白をして、自分の非を……認めたのかな?
向こうも、罪悪感みたいなものがあったのかもしれない。
と言っても、悪いのは百パーセント向こうだ。
けれど、認めただけ。まだマシな部類の人たちなのかもしれない。
「先生という職業ですからね。そういえばですが、一人目の生徒はともかく、二、三人目の生徒は結構態度悪かったですね……」
「ふむふむ」
そっか。そういえばあの人たちは三人組だった。
その中に、一人。割と汚れきっていない心の持ち主がいたってことかな。
一番最初に聞きに行ったのが、その人で良かった。
その人じゃなかったら、口裏合わせとかもあったかもしれない。
「はい。それでですね、その人たちには、白河さんに謝らせに行くのと、学校側から罰を下すのと、両方をして。……まぁそういうことを伝えたかったんですよ。それと、昨日はごめんなさいね。色々と、迷惑をかけてしまいましたね」
「あーいやいや。私たちが学校に迷惑かけたのは事実なんで。……あ、じゃあ、反省文は書かなくていいですかね?」
柳先生がそう思ってくれているのなら、書かなくてもいいだろう。
そういう思考で、私は問うてみた。
「ごめんなさい。一応、書いて持ってきてください。内容は、そんなに書かなくていいので。こういうことをした動機とか、そういうのでいいので!」
「……りょーかいでーす」
……。
学校の決まりというやつだろうか。
だるいけど。美結ちゃんのことが解決に向かっている。
今は、その事実に満足しておくことにした。
「じゃあ、ホームルーム始めますよ。教室に戻りましょう」
「はーい」




