↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神と共に、相談を!  作者: 沢谷 暖日
相談部にお任せを!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/83

復讐の時

 昇る時に比べれば、降りる脚立は結構怖い。

 風が吹いて肌を撫でられるたびに、そういう恐怖が私を襲う。

 まぁ結局、何事もなく降りてこられて、私は脚立を両手で押さえて、美結ちゃんに「降りてきて」と指示をした。


 美結ちゃんは裸足で、脚立を降りながら。


「あ。靴ないや……」


 ハッとしたようにそう漏らす。


「私の靴、片方かしてあげよっか?」


 そんな訳のわからない問いかけをしてみる。


「なんでよ。けんけんしろってこと?」

「人っていうのは歩く時、ほぼ片足だけで重心を動かしているの。だから片足でも大丈夫。知らんけど」


「『知らんけど』が付くだけで、一気に信用が消えるんだけど。……あ、待って。外に確か、スリッパがあったはず」


 言いながら美結ちゃんは、脚立を降り終え。

 裸足のまま地面へと足をつける。

 テコテコと、痒くなりそうな芝の地面をちょっと歩いて。

 姿を消したと思えば、すぐにスリッパを履いて出てきた。

 色あせたピンクの、花柄のある、ちょっと古臭い感じのスリッパだ。


「えっと。そんなのでいいの?」

「いいや。伊奈ちゃんのその靴と変えてもらう」


「なぜに!」

「だってこのスリッパ。少しおばさん臭いし。伊奈ちゃんなら似合うはず」


「私のことをなんだと思ってるのかな。それに先輩を付けなさい。私は先輩なのです」

「いや。『伊奈ちゃん』の方がしっくりくるから。これで」


「なるほど……?」


 私は頼まれた通りに靴を脱ぎ。芝の上へ、自分の足を置く。

 思った通り、少し痒い。

 美結ちゃんも同様にスリッパを自身の足から取る。

 なぜ私がこのスリッパを……なんて思いつつも自分の足をスリッパへと滑り込ませた。


「これでよし」

「うわー。伊奈ちゃん、めっちゃおばさんや」


 横から飛んでくる煩い声。

 私は「はーい」とテキトーな返事をして、ポケットからスマホを取り出した。


 美結ちゃんに対してできること。

 それは、あの柄の悪い奴らへの復讐。

 これをすれば、美結ちゃんの心は少しでも軽くなるんじゃないかと、そう思ったのだ。

 というか、これくらいしか私に出来そうな事はない。

 絶対、あんな態度からして、美結ちゃんに対してやったことを、反省なんてしていないはずだ。

 朱里(あかり)ちゃんが部室に来てくれたのは、勇気を持って、あいつらを恐れながらも、美結ちゃんのことを伝えに来てくれていたんだと思う。

 それを、口止めされてしまって。

 だから朱里ちゃんもあの時、『何もしらない』とそう答えていたのだ。

 Eクラスは、あいつらの支配下に置かれているんだと思う。

 うん。完璧な推理力。頭いいね。私。

 これが当たってるかは分かんないけど。


 それで。私が決行することと言うのは。

 校内放送での、事実暴露だ。

 全校生徒に、全先生にそれを届ける。

 ほとんどの生徒が部活のこの時間。

 最適な案じゃないかと、我ながら思った。

 けど。少しダサいやり方な気もする。

 

 こんなことをして、あいつらに恨まれたってしょうがない。

 先輩なんだから。私は堂々とすべきなんだ。


 私は。心音にラインを送った。


『心音。まだトイレ?』

『はい。そうですよ。どうでした? 美結さんは』


『無事だったよ。今から、ちょっと怖いことをしないといけなそうなの』

『本当ですか? すでに美結さんという、盗聴器を仕掛けた立派な犯罪者様がいるので、とっくに危険な気がしていたのですが……』


『そんな細かいことは今は気にしないで! あのね。心音には、職員室で放送室の鍵を借りて欲しいの』

『はい。ですが、放送室って放送を担当する人しか入っちゃいけないんでしたよね』


『そこは心音の人望で、なんとか言い訳をして鍵を借りて、んで。放送室の中にいて!』

『私にそんな期待をしないで欲しいですが。まぁ、伊奈さんのためなら。いいですよ』


『よし! よく言いました!』

『じゃあ。私、行きますから』


『了解! 私もすぐ向かう!』


 スマホの電源を切り、ポケットにしまう。

 と同時に見えたのは、こっちを訝しげに覗く美結ちゃんの顔。


「あの女?」

「……うん。放送室の鍵を空けてくれと頼んだの。今からそこに行くから。──てなわけでダッシュで行こう! みんなの部活が終わるその前までに!」


 私は、美結ちゃんの手を引いて、その場から駆け出した。

 スリッパがパコパコと変な音を鳴らして、しかも少し走りにくい。


「ちょ、伊奈ちゃん。手を引かれなくても、私、走ることくらいできるから!」


 声を荒げられ、せっかくの手が強引にも引き剥がされてしまう。

 私的にもそっちの方が走りやすいので別にいいけど。


「わかった。じゃあ、今度こそ行こう!」

「……うん」


 家の敷地外へと出る。

 さっきも走ったこの道を、走り返す。

 一応私は、元陸上部で結構足も早かった。

 ──という過去の栄光がある。

 今はすっかりそんなことも無くなったが。

 だって、こんな距離でも直ぐに疲れ果ててしまう。


 道の脇を一列に走る私たち。

 後ろを見れば、美結ちゃんはまだ結構余裕そうな表情だった。


 私は。

 美結ちゃんが、悪口を言われたということをどこか自分に重ねてしまっている。

 なぜって、思い出したくもないけど、それは私も、中学の頃、同年代の人達から陰口を言われていたから。

 今いる女子校を選んだのも、陰口を言っていた奴らが行かない高校だったから。

 結局あの時は何もできなくて、結構悲しい思いをしたものだ。

 今でも結構憎んではいる。


 こういう気持ちを抱くのは私だけなのかもしれない。けど、今私がこうしているのは、美結ちゃんにこのことを引きずって欲しくない。そういう気持ちも含まれているんだと思う。


 ここで決着をつけさせたい。

 このことを思い返しても、美結ちゃんが辛くならないように。


「もう少しだ。……もう少しで」


 少しペースを落として、中くらいのスピードで走り続ける。

 正門をくぐって、けれど靴箱には行かず。

 私は近い正面玄関の方へと向かう。

 こっちからの方が放送室には圧倒的に近いからだ。

 後ろを確認。美結ちゃんはちゃんといる。

 汗を額から結構出していた。


「さぁ。学校ついたー!」


 嬉々として声に出しながらも、正面玄関に入り、そこでスリッパを雑に脱ぎ捨てる。

 美結ちゃんも同様に私の靴を荒っぽく脱ぎ、悪びれもなく私の後ろにまた来る。


 廊下。

 本来は走るなと言われているこの場所を、罪悪感すら抱かずに真っ直ぐと走った。

 あまり人はいない。から大丈夫だろう。

 そして見える『放送室』と書かれた部屋。

 その部屋の前へと立ち、ドアノブを回せば、ちゃんと鍵は空いていた。


 中に入れば、待っていたかのように、椅子をこちら側に向けて座る心音。

 後ろから息の切れる音を耳にし、チラと振り返って、美結ちゃんがいることも確認。


「ぐっじょぶ。心音!」


 親指を立てて、それを心音に見せつける。

 そして振り返り、走って若干赤く染った美結ちゃんに対して、


「そして、復讐だ! 美結ちゃん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。