第二話
決めた時間と違いますが投稿。
理由という名の言い訳は後書きにあります。
『おはようございます。長官殿。では、そこに正座なされよ。』
日本を陰で守っていると自負する情報庁長官、葛葉 智晴にとって自らの職務室の扉を開けた瞬間に飛んできたその言葉は、ある意味若いころから聞きなれたセリフであった。
「おはよう、リンドウ。はて、正座というがいったい何故だね?2か月くらい後なら新入職員からのクレームがあるかもしれないが、今は皆のヘイト管理はきちんと出来ていると我ながら自負しているのだがね」
『そもそも拙者に正座と言われて、すぐさま自らの言動に間する事かと思うあたりに色々と言いたいがあるが、今回はそうではない。」
リンドウからの返しに、葛葉は困惑した。
自分の言動以外にリンドウから文句をもらう心当たりが全くなかったのだ。
「となると私には全く心当たりがないのだが。もしかして何かの重要書類の決済を忘れたか?いや、ここ最近は書類は溜めていなかったからそれはないはず・・・」
『分からぬか。長官殿、おぬしは昨日紫乃宮殿と藤堂殿に「報告は明日でいい」と言っておったな?』
「言ったね。それがなにか?」
全く関係ないと思っていたことに話が飛んだため、葛葉はいよいよリンドウに完全な自意識と感情が発生したか?と考え始めた。あの二人のことは、葛葉を含む情報庁系列職員は皆何かと気にかけている。リンドウの本体たる『竜胆』も当然そのことを学習しており、もしかすればそれでリンドウが暴走しているのかもしれない。と。
『何時来ればよいのだ?』
「え?」
だがどうやら違うらしい。
『だから来る時間のことだ。彼らは表向き外部委託者だ。そうでなくとも一応目上の者に目通りをするのだ。アポイントメントは常識として必要だろう。確かに昨日の時に聞かなかった彼らも悪かろう。だが、彼らは今朝それに気付き拙者に確認をしてきた。それに対しておぬしはなんだ!彼らと会う時間どころか今日の予定にすらそのことを書いておらぬではないか!」
「それは昨日の今日だし、別に二人にはいつ来てもらっても問題なんかないからいいかなと・・・」
『昨日の報告だけならそれでもよかろう。予定ぐらいには書いていてもよいと思うが。』
「電子精霊とはいえ機械が『思う』って」
『そこはどうでもよかろう。報告だけならともかく、新たな任務の交付もするのでござろう?ならばその任務に関する資料は?本体にはその任務の概要しかないのが?』
「それは今日、総務に頼もうと」
『ならば尚更時刻まで決めよ!確かに資料の作成は2~30分もあれば終わるが、だからこそ期限が今日中とすると彼らは別の仕事を優先する。となれば、彼らが来た時に資料がないということにもなりかねん。』
自身の考えを述べるも、その全て切って捨てられ葛葉は自らの不利を悟っていた。
元々、葛葉は何事もその言動で相手をイラつかせペースを崩し、そこを衝くことで自分のペースに持っていく人間だ。
しかしイラつくということがない機械や、ペースを崩さない真性の天然やマイペースな人間は特に舌戦において天敵であった。
故に葛葉は「わかったわかった」と後退を始めた。わざわざ説教を長くする意味はない。
「で?リンドウのことだ。もう対処してくれたんだろう?」
『0930に彼らには長官室に来るように言ってある。総務のほうにも急ぎの案件ということで資料作成を頼んだ。』
「さすがリンドウ!頼りになるね。それじゃ私は少し飯田君に用があるからっ」
長官室から逃走するべく扉を開こうとする葛葉。
しかし扉はびくともしなかった。リンドウによって当にロックされていたのだ。
『限定霊機すら持っていない今のおぬしが逃げられるわけなかろう』
その言葉にすぐに逃げればよかったかと肩を落とす葛葉へ『もっとも』とリンドウからの追い打ちがかかる。
『逃げたところでこの建物からは出さぬし、その場合館内放送で続けることになるが』
『どうなさる?長官殿』という降伏勧告に葛葉は諦めて両手を上げるしかなかった。
悠希と天音がやってくる、1時間前のことである。
「ユキ、何見てるんだ?」
庁舎へ向かう電車の中、僕がARの映像を見ていることに気付いた天音が声をかけてきた。
「梅西さんたちが作った『真説・第三次世界大戦とその後』てやつ。なんか今度売って資金源の一つにするつもりだから、情報庁職員で何人かに見てもらっておかしなところがないかチェックしているんだって。」
「んなもん金になるか?その手のものなんて今日日結構あるだろ」
天音が言う通り、この手のものはありふれている。
内容もそれ自体は教科書を少し詳しくした感じだ。
だが、映像と音声で半催眠状態に誘導することで無意識に知識を植え付けるようになっているこれは、受験生などには有難いんじゃないかな。
けどこれ、調査部あたりの催眠洗脳技術を流用してるよね。それでいいの?情報庁。
「まあ、見た感じそこそこ売れそうではあるかな。」
ふーんといった感じで興味を失ったらしく、仮想端末を弄り始める天音。
僕以上に勉強嫌いだから仕方ないけど、もう少し興味を持ってもいいんじゃないかな?近代史系は天音の一番苦手なところだし。
ってそうだ!天音みたいな人にこそ役立つじゃんこれ。
よし、早速見せよう。
「天音?」
「ん?」
「そういえば、これの感想を言えば梅西さんから報酬がでるんだって。」
報酬という単語が出た瞬間、天音がビクっとした。
今月、お小遣いがピンチなの僕が知らないと思った?
あと一週間ちょっととはいえ、よく買い食いする天音にとってこのタイミングでの臨時収入はできれば欲しいはず。
「・・・そうなのか?」
ヒット!いや~ちょろい。
後は釣り上げるだけだね。
「うん。どう?天音も見ない?見て感想言うだけで報酬なんて、結構おいしいと思うけど。」
この時に天音に見えないよう小さく別窓を展開し、梅西さんにメッセージを飛ばす。
報酬のことは本当だが、それは天音が望むようなものではないので根回しをしておくのだ。
直ぐに承諾の返信があり、準備は完了。天音の勉強しなさ加減には梅西さんたちも手を焼いていたのでちょうどよかったのかな。
「ね?一緒に見ようよ、ほら」
そしてこっちでは少し善意を暴走させた気味に、了承も取らず仮想端末を接続する。
「ちょっ、まっ」と天音が驚いているが「ダメ?」と少し期待した目で見つめればそれで勝ち確。
「しょーがねーな」と一緒に見る態勢に。うん、お互い好き同士なのはこういう時楽だね。だからハニートラップとか未だに無くならないんだろうけど。
閑話休題。
「それじゃ、再生するね。」
「おう」
お互いちょっと密着し、最初の動画プログラムを再生する。
全三章構成だけど、時間的にこの第一章しか見れないだろうな。
そしてロードが終わり、動画が流れ始めた。
本来はこの後庁舎に着いてからの話もこの回にしようとおもいました。
が、動画の部分を書いているうちに6000字を超えそうになり、分割したほうがいいかな?と思い始めどうせ分割するなら動画の部分も別の回にしてしまえ!と思いこんなに短くなりました。
動画文もほとんどできているのですぐに投稿できると思います。