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ホワイトマン  作者: 水見 あさや
5.デート
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5-6


 前のめりになって催促すると、ホワイトマンはひどく嬉しそうな顔をして、さっきよりも語る声に力を込めた。



「それでは、麦の村とは違う場所のお話です。

ある夏の日にふらりと立ち寄ったのは、大きな太陽に睨みつけられた灼熱の町でした。

その年、私が住んでいる地域では記録的な冷夏となり、夏場でも上着が必要な程だったのですが、そこでは今までに体感したことのない、息苦しくなる程の蒸し暑さがありました。

早朝から夜が始まるほんの手前まで太陽が照り続けるその町には、古くからのしきたりがありました。

さて、また一つあなたにお伺いします。

歴史あるその町の指標となっていたのは、一体どんな人物だったのでしょう」

「わかったわ、王様よ」

「いいえ。ヒントを差し上げましょう。その町は、活発な女性が多いところでした」

「じゃあ女王様かしら」



 思い通りの答えが出たのが嬉しいのか、ホワイトマンは得意げな笑みを浮かべ、首を横に振った。



「その町を導いていたのは、女性の占い師なんです」

「占い師? そんな人が町の代表を務めてるの?」

「正確に言えば、代表というべき人は他にいました。

あなたが言うように、王や王妃、貴族たちが。

しかしその町の王というのは民を動かす権力があるだけで、様々な物事の決定権は占い師にありました。

生まれながらにして神の声を受け取ることができる、神聖なる女性。

王は、その占い師が代弁する神の言葉に従い、国を治めてきたのです」



 まるでおとぎ話を聞いているようだった。

そんな神秘的な形を保つ国が、この世界のどこかに存在しているのか。



「昔話でも聞いたことのない、不思議な町ね。そこに住む人たちは、自分の国があまり現実的じゃないやり方をしてることを知ってるのかしら。こう言ったらなんだけど、そんな不安定なことに町の行く末を委ねるなんて、いくらなんでも平和すぎるというか」

「私も同じように思い、それとなく聞いてみました。

しかしいくらたずねても、そのやり方に意義を唱える者はありませんでした。

おまけに、隣り合う国々と自分の国が異なる在り方をしていることを、誰もが知っているようでした。

それはあくまで自分たちに関わりのない遠い世界のもので、この町にはそぐわないと言って。

私はそれを聞いて、納得できない気持ちを顔に出してしまったのでしょう。

しまいには、占い師様が国の未来を見てくださることに何の不自由も感じないのに、どうして変える必要がある? と、いぶかしまれたくらいでした」



 へぇ、と感心したそぶりはしても、納得がいったわけじゃない。

でも、そんな見ず知らずの国のことを議論しても仕方がないから、一種の理想郷の話なのだと割り切ることにした。



「その占い師様が、王を動かしているというわけ?」

「結果としてはそうなのかもしれませんが、それは意図的なものではないのだと思います。

代々占い師は、王の近くで、王が与えた家に住み、王に選ばれた者に身の回りの世話をされることで、片時も休むことなく神託に耳を傾けられるのだと聞きました。

いついかなる時に天啓がもたらされるか、それは予測のできないこと。

占い師は、時に静かに、時に激しく下りてくる神の言葉を聞き分ける耳を持つ、類まれなる人物として、王にまで神聖視されていました」



 決まった神様を信仰していないあたしにとって、そんな夢物語はにわかには信じがたいものだ。

でもホワイトマンが語るその世界は、あたしを内側から清めるように、すんなりと胸に入ってきた。



「異文化を貫くその町には魅力的な品がいくつもあったのですが、中でも特に気に入ったのが、薄いヴェールでした。

神聖な占い師を穢れから守るために王が授けたことに始まり、今では悪を退けるお守りのようなものとして、あの町では男性も女性も薄い布を頭からかぶっていました。

そのヴェールは、基本的に外へ働きに出ることのない女性たちが、時間をかけて丁寧に家で織り上げるものでした。

色合いや柄は家によって異なるうえに、性別や年代によっても細分化され、町には色とりどりのヴェールがたなびいていました。

例えば、生まれたばかりの赤ん坊のために織られたものはとびきりやわらかく淡い色合いで、年配者のものは生の歴史を感じさせる抽象的な色柄と模様、といった具合に。

中でもとりわけ美しいのが、成人したばかりの男女がまとうヴェールでした。

男性のものには光沢が出る程に磨いた石が、女性のものには小指の爪程もないほんの小さな鈴が、それぞれ裾にくくりつけられていました。

ヴェールはわずかな風にも翻り、その度にちりちりと音が鳴るのです。

涼やかなその音は、熱された町の空気を静かに冷ますようでした。

乾いた土地で鮮やかな布がはためくその光景は、暑さを忘れてうっとり見入ってしまう程に現実離れしたものでした」



 エキゾチックな町角が、鈴や石がぶつかる軽やかな音と共に脳裏に広がっていく。

乾いた風に舞い上がる砂を避けようと薄い布で口元を覆う住人は、あたしとは異なる顔立ちをしている。

耳をすませば、理解できない言語の会話まで聞こえるような気がした。



「素敵。なんて鮮やかな町なのかしら。話を聞いてたら、あたしもそのヴェールを見てみたくなったわ。どうしたら手に入れることができるの?」



 ホワイトマンは遠慮がちに肩をすくめた。



「そのヴェールを世に出す許可をもらった時、町から提示された条件の中に、大量には生産しない、というものがありました。

時間に追われて作ろうとすると、どうしても仕上がりが粗くなる。

王や占い師様がお許しになったにせよ、金に欲を出すと良いことにはならない。

欲にまみれて織ったヴェールでは、穢れを遠ざけるどころか引き寄せてしまう、ということでした。

そのため価値が更に高まり、その見事なヴェールは購入できるまで何年もかかる代物となってしまったのです。

私としても、あのヴェールをまとってステージに上がるあなたをぜひ拝見したいのですが」

「それなら、支配人にお願いして予約を入れてもらおうかしら。支配人もマージも、今の話を聞いたらそのヴェールを欲しがるはずよ。衣装係のイルだって興味を惹かれるに決まってるわ」



 ふわりと空気に膨らむ布をまとい、ステージに上がることを想像する。

それは強いライトの光を遮ることはできないかもしれないけれど、照らされた肌がうっすらと透けて、より魅力的に見えるに違いない。

考えただけでうっとりとした。



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