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ホワイトマン  作者: 水見 あさや
5.デート
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5-4


「それは、あなたの誘いには、やましい気配が漂っていたからです」

「やましいって……、そんなもの漂わせてなんかないわよ」



 実際にはやましさしかなかったことを棚に上げて都合よく否定すると、ホワイトマンは自分が言った言葉にも照れて「すみません」と身体を縮めた。



「お恥ずかしい話ですが、私はそういった話題や駆け引きがあまり得意ではありません。

そういうことをほのめかされる度、そそくさと逃げ出す人生でしたから。

刺激の強い街に自分で踏み込んでおきながら何を、と思われるかもしれません。

私も、我ながらそう思います。

それでも、長きにわたって身体に染み付いた反射的な癖は、そう簡単に治るものではありませんでした。

あなたと目が合う度、もう少し長くお話ししたいと思うのですが、臆病な心が勝手に逃げの姿勢をとってしまう。本当に情けない話です」



 あたしの誘いが、まさかそんな風に捉えられていたとは思わなかった。

確かに最初の夜の短いドライブでも、ホワイトマンが色恋話を得意としないことは感じ取っていた。

けれど、ここまで徹底しているとは思わなかった。

男は誰でもそういう話が好きなものだと思っていたし、現にあたしが声をかける男たちはそれを望んだから、積極的に餌に使ってきた。

そのことがホワイトマンを遠ざけていたとは思いもしなかった。



「夜の社交界のことを、私は何も知りません。歓楽街が賑わう時間にそこを歩いたこともろくにありません。そんな世間知らずな男が、スポットライトを浴びて輝くあなたに目を向けてもらえたことは、身に余る光栄でした。どれだけ夢見心地になったことか」

「そんなに喜んでいただけていたなんて知らなかったわ。あなたは慣れた様子で、スマートにエスコートをしてくれたから」

「あの夜のことですか? 正直なところ、自分が何を口走ったか、あとになって思い出せないくらいに緊張していました。けれどあなたが口にしたことは覚えています。見せてくれた表情も」

「あたしもよく覚えてるわ。あなたが見せた、少年のような反応をね。あたし、知らないうちにあなたを何度もおびやかしていたのね。だから誘いに乗ってもらえなかった。納得したわ」



 なぁんだ、そうだったのか。

互いに心を隠して接していたせいで、あたしたちは根本的なところからすれ違っていたというわけか。

ああでもないこうでもないと作戦を立てたりイライラしていたことが、途端にばからしく感じられた。



 視線を交わし、どちらともなく微笑む。



「少し遠回りをしたけど、また話ができて嬉しいわ。あたしはひねくれ者で意地っ張りで負けず嫌いだから、今日誘ってもらえなかったら昨晩が本当に最後になっていたかもしれない。ねぇ、せっかくこうして向かい合えているんだもの、何か面白い話をしましょうよ」

「面白い話、というと」

「うーん、そうね、この間の夜はあたしが話したから、今度はあなたのことを聞かせてもらおうかしら」



 そう言うと、ホワイトマンはたちまち不安そうな顔になった。



「あなたを楽しませられる話を、私はできるでしょうか。退屈させてしまうかもしれません」

「話をする前からそんなこと言わないでよ。ぜひ聞かせてちょうだい。これは予想だけど、きっとあたし、最後まで退屈しないわ」



 新しい物語をせがむ子供のような気持ちで見つめるうちに、ホワイトマンは困り顔を見せながらも出だしの言葉を考え始めたようだった。

あたしは無視されるのが嫌いだけれど、相手が黙っているからといってすぐに面白くない気持ちになることはない。

今満ちているこの沈黙は、そういうものじゃない。

ホワイトマンは、あたしという目の前の観客の期待に少しでも応えようと、言葉を組み立ててくれている。

唐突に投げかけた無茶な提案にも誠実に対応しようという姿が、じんわりと胸に染みた。



 ホワイトマンが考える時間を長引かせられるように、タイミングよく料理が運ばれてきた。

愛想のいい女性店員が、あたしの前に魚料理を、ホワイトマンの前に肉料理を置いた。

朗らかに「ごゆっくり」と言い残して去る女性を見送ってから、口の中で小さく笑った。



「あいにく、肉食獣はこっちなのよね」



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