カナンと引っ越し
翌朝。
カナンはいつもより爽快な気分で目を覚ました。
何だかいつもより身体が軽い気がした。
不思議に思っていると、ラトの問う声が聞こえた。
「気分はどうだ?」
「すごく良いよ」
「そうか。もう竜珠が身体に馴染んだんだな」
「は? 竜珠?」
「昨夜、竜珠を飲ませたんだ」
「……何で勝手に飲ませるの!」
「おまえが俺のものだということを、人間たちにも知らしめる必要があるからな」
「知らしめるって……まさか言いふらす気!?」
カナンは顔色を変えた。
彼女は誰にも知られないように、こっそりと引っ越すつもりだった。
村の者に知られて、噂話をされるのが嫌だったのだ。
「私は、誰にも知られずにここを出て行きたい」
「……竜族の伴侶となったのを知られるのが嫌なのか?」
「違う。私の噂話をされるのが嫌なだけ」
「そんなもの、気にしなければいいだろう」
「気になるんだから、仕方ないでしょ」
「……分かった。それなら、誰にも気付かれないうちにここを出よう」
「……明日まで待つって約束は?」
「早く出て行かないと気付かれるぞ」
「……」
カナンは悩んだ。
誰にも知られずに出て行きたいが、もう少しこの家にも居たい。
「……またここに戻ってくることはあるの?」
「おまえが望むなら、たまには連れて来てやるぞ」
そう言われて決心がついた。
「分かった。今日中に引っ越す」
「そうか」
ラトは嬉しそうに笑った。
それを見て、結構いい男だよなと、カナンは思った。




