本屋
私の通う本屋には
他とは違う、あるモノが飾られています
私の通っていた本屋は
見た目こそ古いが
元気な老夫婦が経営していました
子供のころから通っていましたが
流行にもしっかりと乗っていたと思います
入り口の近くにはみんなが知っている漫画や小説や
奥に進めば難しそうな本がずらりと並んでいて
朝はサラリーマンが新聞を
昼は老人が小説を
夕方には学生が学校帰りに漫画を買いに来る
そんな、本屋でした
でも、経営はそんなにうまくいってなかったようです
面白い本を仕入れて
流行りの本を仕入れて
隠れた名作を仕入れて
そして売り続けて
……それでも老夫婦の生活は貧相だった
本は売れているのに
お客さんはいるのに
ならどうして?
それは、人不足による…
万引き
近くの、決して評判がいいとは言えない高校の生徒たちが
その店の本を盗んでいく
監視カメラがないことをいいことに
老夫婦の視線がないことをいいことに
毎日、毎日
何冊も
何十冊も
目撃してお客さんが止めることもあったけど
帰ってくるのは暴言・暴力
学校に連絡する人もいましたが
教師たちの説教を聞くような子達ではなかったそうです
いつしか注意する人もいなくなりました
あんなにおじいさんがきれいに磨いていた看板は
いつしか汚れが目立つようになり
毎日、本のほこりを払っていたおばあさんは
いつしか店の奥から出てこなくなりました
そうして被害が止まることなく
ある日、おばあさんが亡くなりました
葬式には何人もの人が参列しましたが
あの子供たちは姿を見せません
本屋は一か月の休業の後
おじいさんが一人でお店を運営しました
ニコニコしていたおじいさんは
黒く、淀んだ眼をしていました
そして、お店に来るお客さんを一人一人
その目で睨みつけていました
何日か時間が過ぎたころ、お店が再開したと知ったあの高校生たちが
再びお店に訪れ始めました
下品な笑みを浮かべ
バレずにどれだけ盗み出せるか
そんな会話をしていたと思います
一人、また一人と本を抱えて店を出てくるのですが
最後の一人がつまずいてしまい、お腹に隠していた本がおじいさんの目に留まりました
本を拾い上げたおじいさんは
そのまま高校生の襟首をつかみ
強引に店の奥に連れていきます
他の連れたちは、最初は面白がってその子を待っていましたが
やがて飽きたのか、その子を残してその店を去りました
私も用事があり、すぐに帰ったのですが
その子がどうなったのか
何をされたのか
それだけが気になりました
次の週
私は再びお店を訪れたのですが
そこで信じられないものを見ました
お店のカウンターの上
以前まで、商売繁盛の神棚が置かれていた場所に
白い石?のようなものが
四つ、置かれていました
ボコボコとして、先端は少し赤く染まっているソレは
ガラスケースの中でどこか異様な雰囲気を漂わせていました
私がそれをじっと眺めていると
ごめんはさい
店の入り口から
嗚咽交じりに聞こえてくる謝罪の言葉
おじいさんに捕まっていたあの生徒が
顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら
おじいさんのまえで膝をついていました
ごめんはさい
もうひません
許ひてくだはい
返ひてくだはい
そんな言葉を並べていました
目から大粒の涙を流し
どこか歯抜けた声で
おじいさんは腰を落とし
その子に顔を近づけながらにっこりと笑い
もうしたらあかんで?
そういうと店の裏へと歩いていきました
許されたのかな?
そう、思ったのですがーー
まって!!
かえしてください!!
おねがいです!!!!
少年の叫びが店の中にこだましたとこで
ようやく私は気づけました
あぁ、あの石は
あの子の歯なんだ
それから今日にいたるまで
あの歯は飾られ続けています
あるときには爪が
あるときには髪が
あるときには指が
あるときには耳が
あのカウンターの上に飾られています
もちろんあれから万引きは起きず
店の売り上げは回復してきたらしいです
おばあさんはもう帰ってこないけど
おじいさんが元気そうで何よりです
一度警察がこの店に来たけど
事情を聴くと特に何もせず帰っていきました
店の利用者もあのおじいさんの対応を絶賛しています
あのじいさん。やるときはやるんだな
あの高校生たちも少しは懲りただろ
スカッとしたわ
そんな声があちらこちらから聞こえてきます
だって、万引きする方が悪い
だって、注意しても治らない
なら、どうするか
あなたなら、どうしたか
少なくとも、これが私たちの答えです
私の通う本屋には
他とは違う、あるモノが飾られています
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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