ワンワン
ワンワン
うっすらと月明かりに照らされた住宅街に
一匹の鳴き声が響く
時刻は夜の十一時
まだ家の明かりがぽつぽつと消えていく時間帯に
一匹は我関せずと吠え続ける
まったく…俺は残業続きで疲れているってのに
どこの誰の犬か知らないが
迷惑にもほどがあるだろ
そんなことを思いながら
俺は自宅へと足を進める
ワンワン
ワンワン
絶えず一匹の声が耳に入り込む
俺が進んだ分と同じだけ
その声量を増しながら
ワンワン
ワんワン
次第に大きくなる声に
俺は少しづつイライラし始めた
俺を怒鳴る上司と同じ
ただ怒りに任せて言葉を浴びせてくるだけ
わんワン
わンわン
あそこかーー
おそらく声の主が飼われている家
大きな塀と鉄製の門で囲まれた大きな家
その門を激しく揺らす小さな一匹が
騒音の原因なんだ
わんわスン
ワんケわん
近づいて門でも蹴ってやろう
こんな夜中にギャンギャン鳴きやがって
わタんわんケ
わんわスん
ん?
犬の声に交じって
人の
男の声が聞こえる
わんスケわん
わテんわタスん
聞こえる
確かにはっきりと
俺は恐る恐る
門を除こうと首を伸ばした
わんわんた
わすんわけん
俺の目に飛び込んできた光景は
幻覚を疑うような信じられない生物
いや、生物と呼んでいいのだろうか
一匹の体に
一人の顔をつけたソレを
あのあと、俺はどうやって家に帰ったのかはわからない
あの生物が何だったのかもわからない
でも俺はあの日から
犬に近づけなくなった
ワンワン
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