11. コンカフェで働いてたら船を沈めた話
仕事を終えたロニーと砂浜に並んで座る。光の道が満月へとまっすぐに伸びている。周りには人影がなく、さざ波の音だけが聞こえていた。
「マホロ、いろいろとありがとうな。村が助かったのはマホロのおかげだ」
ロニーが少し照れくさそうにお礼を言った。
「あのまま海賊の言いなりになっていたら、俺もかあちゃんも殺されてたかもしれない。村に海賊が現れたとき――」
ロニーは夜空を見上げると、海賊が来たときのことを語り始めた。
「俺のとうちゃんは必死に戦った。けど、やられちまった。俺も殺されるかと思ったけど、なぜか海賊は帰っていった。奴らが帰ってほっとしたけど、それから村の連中が少しおかしくなったんだ」
父親を失って、母親の様子もおかしくなって……ロニーの気持ちを考えると胸が苦しくなってくる。
「実は、マホロが来る前に、かあちゃんが女の人をウチに泊めたことがあったんだ。でも、朝にはいなくなってた。だから俺は夜中にマホロの様子を見に行ったんだ。マホロもいなくなるんじゃないかと思って」
あのとき来てくれたのはそういうことだったんだ。
私のことを心配して……。
「けど、マホロはいなくならなかった。俺はほっとしたよ」
「うん」
「だけど次の日の朝、マホロはいなくなってた。そしてあの騒ぎがおきた。俺は偶然広場にいて、走っていくマホロを見たんだ」
ロニー、あのときやっぱり気づいてたんだ。
こっちを見てたのは気のせいじゃなかった。
「村の連中はマホロ達を追いかけていくし、浜の方には炎が見えるし、俺は何が起こっているのかわからなかった。そしてたくさんの兵士がやってきて、みんな捕まっちまった」
村はそんなことになってたんだ。
私は逃げるのに必死だったから……。
「俺たち子どもは一か所にまとめられて、外に出ないように言われた。小さい子供たちは泣いてた」
「うん」
「けど、優しい女の兵士がずっとついていてくれて、泣いてた子供たちも泣き止んだんだ。俺もほっとした」
カールラさん、あんな状況でも子供たちに配慮してたんだ。
「それから何日かして、また海賊どもが来た。けど、前のように誰かが殺されるわけじゃなくて、やつらは飯を食って上機嫌で帰っていった」
あの作戦のときだよね。
私は必死だったから、ロニーがいたことに気づかなかった。
「それからまた何日かして、なんか偉い人がやってきた。それで、かあちゃん達は島から出ることを禁止された」
「……詳しい話は聞いたの?」
「聞いた。俺からお願いして聞かせてもらった。俺のかあちゃんは悪いことをしてた。何が理由でもそれはダメなことだ。悪いことは絶対にダメだって、とうちゃんも言ってたからな」
「そっか。いいお父さんだね」
「だろ?」
誇らしげな表情のロニー。
「で、偉い人が俺に『これからどうしたい?』って聞いてきた。そのまま村に住むこともできるし、どこかの施設に行くこともできるって。だから、俺は料理人になることにした」
「料理人? どうして?」
「俺、あのとき料理を作ってるマホロをずっと見てたんだ。スゲーかっこよかった! それで決めたんだ! 俺もマホロみたいな料理人になるって!」
ロニーの言葉で光の道がぼやける。
「ん? どうしたマホロ?」
「う、うん、大丈夫」
ちょっと顔をそむける。
「それであのレストランを紹介してもらって、住み込みで働けることになったんだ。まだ下働きだけどな。へへ、さっきはかっこ悪いところ見られちまった」
「そんなことないよ! 頑張ってる姿、かっこよかったよ!」
「そうか? へへっ」
照れくさそうなロニー。
「そうだ! いつか俺の作った料理を食べに来てくれよ! あ、でもあの店、高級だからなー。マホロに払えるか?」
「まかせてよ! ロニーの作る料理ならいくらでも払うよ!」
私たちは大きな声で笑った。
◇
翌朝。私は宿の部屋で荷物をまとめていた。
「もっと泳ぎたかったなー」
「泳いでる時間よりも飛んでいる時間の方が長かったかもな」
ステッキが珍しく冗談を言う。
「泳ぎだしてすぐにタコに捕まっちゃったからね……」
私は苦笑いで言葉を返した。
そして、水着を両手で広げる。
「水着だけはずっと着てたんだけどねー」
私は水着を畳んで鞄へ入れた。
宿泊代を清算し、宿を後にする。
宿の前の海水浴場はたくさんのお客さんで賑わっていた。巨大タコがいなくなり、お客さんが戻ってきたみたい。
真っ白な砂浜を、太陽が強烈に照らす。私は強い日差しに思わず手をかざした。
「おーい! おーい!」
かざした手の先に、ロニーが走ってくるのが見えた。
肩で息をするロニー。
「これ、弁当、食ってくれ!」
ロニーが私に包みを渡してきた。
「え? いいの?」
「ああ、俺が初めて作った弁当だ。うまくないかもしれないけど」
えっ? なにそれ!? うれしい!
「ありがとう! とってもうれしい! 絶対おいしい!」
「へへ、まだ食ってないだろ?」
私は包みを大切に鞄にしまった。
「昨日の約束、覚えてるよな?」
ロニーがにニヤリとした笑みで聞いてくる。
「もちろん! ロニーの料理、必ず食べにくるよ! 言っておくけど、私は味にうるさいよ!」
「まかせろ! 必ず旨いって言わせるからな!」
そうだ!
鞄を探り、一本の調理用ナイフを取り出す。野宿のときに使おうと思って買っておいたやつ。ちょっと高級品。
「これ、お弁当のお礼」
調理用ナイフをロニーに差し出す。
「え!? いいのか?」
「いいのいいの! これで私のためにおいしい料理を作ってね!」
ロニーは鞘からナイフを抜くと、太陽にかざした。刀身がキラリと光る。
「やった! 大切なナイフが2本になった!」
ロニーはナイフをキラキラさせながらニカッと笑った。
いつまでも手を振るロニー。
私も歩きながら手を振り返す。
港町の門を抜けたところで、その姿が見えなくなった。
「いろいろ大変だったね」
ちょっと日焼けした腕を見ながらつぶやく。
「そうだな」
海水浴場があるって知って、軽い気持ちで立ち寄ったんだけどな。まさかここまで大変なことになるとはね。
「けど、うれしいこともいっぱいあったな。それに、貴重な情報も得られたしね」
「ああ。王都の状況はまったくわからなかったからな。少しでも状況がわかるのは助かるな」
あ、話の流れで思い出した。
「そういえばさ、何でカールラさんに私のこと全部話しちゃったの?」
「ああ、その話か。あのときは仕方なかった。あの女、俺がすぐに魔道具だと気づいたからな。隠しようがなかったんだ。お前に変な嫌疑がかかるより、正直に話した方が安全だと判断した」
「そっか。私のことを考えてのことなんだね。なら仕方ないか」
結局、秘密にしておいてもらえたしね。
なんだかんだでいい人だったな、カールラさん。
「カールラさんにもお別れ言いたかったなー」
彼女は昨日のうちに町を発ったんだよね。急いで次の現場に行かなくちゃいけないんだって。
カールラさんもロニーも頑張ってるな。私も負けてられないな。
「よし!」
変に気合が入る私。鞄から地図を取り出し、勢いよく広げた。
最初の町で買った地図。
この地図が手に入ったおかげで、王都に向けて順調に(?)進めている。
「あの山を越えなくちゃいけないんだよね?」
地図と遠くの景色を見比べる。
道の遥か先に、山々が連なっているのが見える。
「今回の旅で一番の難所かもな。だが山にたどり着くまでにはもう少しかかりそうだ」
地図を鞄にしまう。
「行こう!」
次に何が起こるのか、ちょっとわくわくしている私がいた。
~「コンカフェで働いてたら船を沈めた話」おしまい~
【次回予告】
王都を目指す旅の途中、カールラさんから調査依頼が舞い込んだ。
その依頼というのが、〝廃墟に住み着いた魔女の調査〟。
しかも、廃墟を訪れた者はまるで魂を抜かれたようになるらしい。
張り切って調査を進める私。だけど、何か違和感が⋯⋯。
次回「コンカフェで働いてたら魔女に出会った話」




