12. 魔物が現れた話
「魔物が現れました!」
「えっ!?」
次の襲来までまだ日にちがあるって話だったよね!? なんで!?
「さあ、これを!」
奥さんは私の右腕をつかむと、手に冷たい感触のものを無理やり握らせた。
これは、魔物除けのアミュレット!?
「それを身に着けて、この部屋に隠れていてください」
「えっ!? そんな、部外者の私なんかに!」
アミュレットを首からかけるのをためらっていると、奥さんが手からアミュレットを奪い取り、私の首に無理やりかけた。
「あなたを守るよう夫から言われています! 早く隠れてください!」
「村長さんは!?」
「夫は広場へ向かいました……。さあ、早く隠れて」
奥さんは絞り出した声でそう言うと、勢いよく扉を閉めた。
「村長さんっ!」
私は広場に面した窓から身を乗り出して外を見た。
村の人たちは全員避難して、誰ひとりいない。
広場の中心に立っている、村長さん以外は。
村長さん、本当にひとりで戦う気だ!
魔物は!?
村を見渡す――いたっ!!
広場の先、村の入り口の付近にそれらしき姿が見える。
熊のような巨体に、猪の頭がくっついているようなおぞましい姿。
魔物たちはぬかるみに足を取られて、思うように進めていないようだった。
数は――4匹。
って、4匹!? 今までは2匹だったって言ってたのに! 倍になってる!
今のところぬかるみ作戦は成功しているけど、広場のぬかるみは未完成。
もし魔物が広場に到達したら……。
嫌な汗が全身を伝う。
そのとき、風を切るような音とともに、先頭の魔物の頭に一本の矢が突き刺さった。
魔物の巨体がゆっくりと背後へと倒れる。
えっ? 何が!?
矢が飛んできた方を見ると、村長さんが次の矢をつがえていた。
そうか! 村長さんが矢を放って魔物を仕留めたんだ! すごい!
村長さんが再び矢を放つ。
矢は弧を描いて飛び、魔物の肩あたりに刺さった。
けど、さっきのように魔物は倒れない。矢が当たったところを気にしてはいるものの、構わずぬかるみを進もうともがいている。
村長さんはさらに矢を放ち、放たれた矢は魔物に向かって飛んでいく。
「当たれ!」
思わず声が出る。
って、避けた!?
なんと、魔物が矢を避けた!
村長さんの存在に気付いた魔物は、その後も飛んでくる矢を体をひねって器用に避け、ときに手で払いのけた。
これって、村長さんの攻撃を理解して回避してるってこと!?
「熊や猪なんかじゃない。やっぱり魔物なんだ……」
はじめから怖かったけど、私の中でさらに恐怖が増した。
魔物はぬかるみにもがきながらも、時折雄たけびをあげながら、確実に村長さんに向かって進んでいる。
その後も魔物に向けて矢を放つも、やっぱり当たらない。
村長さんが弓を放り投げる。
そして腰の剣を抜くと、魔物へ向かって一直線に駆け出した!
入り口から広場までの道はそこまで広くない。体が大きい魔物は縦に並んで進んできている。
そうか! 今なら先頭の1匹だけを相手にできる!
村長さんと先頭の魔物がぶつかる。
走った勢いを利用した鋭い一撃で魔物を切りつける村長さん。
その一撃を左手でなぎ払った魔物、そのまま体勢をひねって右手の爪を村長さんへ振り下ろす。
魔物の繰り出したカウンター攻撃を、村長さんはバク転のような動きでギリギリで回避。
魔物の爪が村長さんをかすめ、地面の泥をはね上げる。
村長さん、しゃがみ込んだ低い姿勢のまま、魔物に向けて突進。
向かってきた村長さんに魔物は左手を振り下ろす。
瞬間、その攻撃をかわして魔物の懐へ飛び込んだ!
村長さんと魔物の動きが止まる。
一瞬の静けさのあと、ゆっくりと後ろへと倒れる魔物。
その胸には深く剣が突き立てられていた。
「倒した……すごい……」
息を止めて戦いを見守っていた私から、呼吸と同時に言葉が漏れた。
「あの男、かなり戦い慣れているな」
一緒に戦闘を見守っていたステッキが唸った。
けど、まだ戦闘は終わっていない。
魔物はあと2匹。
矢が刺さっている1匹と、無傷のもう1匹。
村長さんが魔物から剣を引き抜こうとするも、魔物に深く突き刺さっていてなかなか抜けない。
倒れた魔物の後ろに次の魔物が迫る。
剣を諦めて広場まで下がった村長さんが、腰のあたりからもう一本の剣を取り出す。
けど、明らかにさっきの剣よりも短い。
その間に、後ろにいた魔物が倒れた魔物を乗り超えた。
広場のぬかるみは不完全で、魔物の足止めにはなっていない。
そして――村長さんと2匹の魔物が広場で対峙する状態となった。
◇
にらみ合いの状態が続いていた。
時折雄たけびをあげる魔物。
剣を構え、微動だにしない村長。
お互い、相手の出方を探っているみたいだった。
膠着状態を打ち破ったのは、矢が刺さっている魔物だった。
雄たけびとともに村長さんへ向けて突進を開始、もう1匹もそれに続いた。
村長さんが冷静に先頭の魔物の体当たりをかわす。
そこへ、後ろにいたもう1匹がタイミングを合わせて爪を振り下ろした。
素早くかがみ、その爪をギリギリで回避する村長さん。
「魔物たち……連携してる、よね?」
「おそらくな。ただやみくもに攻撃しているわけではなさそうだ」
魔物と戦ったことがない私でも見ていればわかる。
間違いなく2匹がタイミングを合わせて攻撃している。
数的に不利なのに、連携までするなんて。
魔物の攻撃を受け流し、ときに弾き返す。
防御に徹している村長さんが隙を見て反撃に出るも、連携した魔物の攻撃をかわしながらでは攻撃は当たらない。
お互いの距離が離れ、再びの膠着状態。
少しの沈黙のあと、今度は村長さんが魔物に向けて駆け出す。
そして、矢が刺さった魔物の顔に向けて左手に握っていた土を投げつけた。
土の塊を顔面にもろに受けた魔物が両手で顔を覆う。
その腕に、村長さんが短剣を突き立てた!
入った!!
けど、魔物はそのまま顔の泥をぬぐっている。
効いてない!?
魔物は泥を拭う手を止めると、短剣を握りしめている村長さんをなぎ払った!
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる村長さん。
「村長さん!!」
転がりながらなんとか受け身をとった村長さん、ゆっくりと立ち上がり、体勢を整える。
けど表情がかなり険しい。
右手で短剣を構えてはいるものの、左手で腰のあたりを押さえ、肩で大きく息をしている。
魔物の方は!
見ると、短剣が抜けた腕からは血がしたたっている。
けど、あまり気にしている様子はない。
「剣が短すぎて、ダメージを与えられてないんだ……」
やがて、短剣を構える村長さんの前に、2匹の魔物がゆっくりと立ちふさがった。
矢と短剣の攻撃を受けたのにあまりダメージになっていない魔物と、無傷の魔物。
かたや、なぎ払いの直撃を受けた村長さん。
まずいよ!
このままじゃ村長さんが!!
「ねえ! なんとかできないの! 私が魔力を込めたらさ! 炎とか! 雷とか! 転送のときみたいに! 私の魔力を使ってどうのこうのってやつ!!」
私はステッキをぶんぶん振りながら叫んだ。
「転送魔法は元から俺に備わっているから使えるんだ。俺は魔道具だからな。だが、それ以外の魔法は術者の能力次第だ」
私に振り回されながらも、冷静に答えるステッキ。
レベルゼロってやつ。
知ってる。
前に聞いた。
……けど……だけどっ!!
ステッキを両手で握り直し、魔物に向ける。
そして、渾身の力を込めて思いっきり叫んだ!
「ファイアッ!!」
私の呪文に反応したステッキの先端が赤色に輝きだす。
やがてその光が巨大な火球へと姿を変え、魔物へ向けて勢いよく放たれた。
火球は一直線に飛び、魔物を直撃!
魔物は炎につつまれた!!




