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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら村を救った話
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13/58

13. 結末の話

 なんて、そんな奇跡は起きなかった。

 マンガやアニメじゃないんだし、そんなに都合よく奇跡なんて起きるわけがない。


 私はステッキを魔物に向けたまま震えていた。

 なにもできない自分の無力さに絶望して。


「私なんて、変な格好をした偽物(にせもの)の魔法使いだ……」


 視界がぼやける。

 泣いてる場合じゃない。

 けど、そう考えれば考えるほど視界がぼやけていく。


 ……なんで……私が使える魔法は……たったひとつしかないんだろう……。


「レーナ……クシ……イオ……」


 無意識だった。

 声に出したつもりもなかった。

 ただ、震える唇からその呪文が漏れただけだった。


 次の瞬間、目の前が真っ白に染まった。


「えっ!?」


 ステッキの先端が激しく輝きだした!

 同時に、ステッキを握る手から腕を伝って全身に突き刺すような冷気が駆け抜ける!

 体中の魔力が、ステッキへと凄まじい勢いで流れ込んでいく!

 まるでステッキに全身を吸い取られるような感覚!


「くっ!」


 ステッキを握った手がジンジンと痛み、身震いするほどの寒気に襲われる。

 意識とは関係なく、ステッキを握る手に力が入る。


 私の身体が空っぽになっていく感覚と反比例して、光はさらに強く、さらに大きく拡張していく。

 やがて、その光が部屋を完全に飲み込んだ。

 

 真っ白で何も見えない。

 手足の感覚もよくわからない。


 朦朧(もうろう)とした意識の中で、鋭い声が聞こえた。


 光の、その中心から。

 

「いまだっ!」



 遠くに魔物の気配を感じる。

 真っ白で何も見えないはずなのに、その存在がはっきりとわかる。


 ――そこだっ!


「いっけえぇぇぇ!」


 私の悲鳴にも似た掛け声と同時に、ステッキの先端から光の奔流(ほんりゅう)が放たれた!

 凄まじい反動がステッキを跳ね上げる。

 その勢いに耐え切れず、私はステッキを両手で握ったままの姿勢で後ろへと弾き飛ばされた。


「いったぁ……魔法はっ!?」


 ステッキを放り出して立ち上がり、窓から身を乗り出して広場を見る。


 そこには、全身がぼんやりと光った魔物がいた。

 矢を受けている魔物だ。

 魔物は両腕、おなか、わきの下と、困惑した様子で全身を見渡している。

 やがて光が消え、少しツヤが出た。


 魔物は体に異変がないとわかると、再び村長さんのほうを向きなおし、両腕を高くあげて威嚇(いかく)を始めた。

 そして、じりじりと村長さんとの間合いを詰めていく。


「グオォォ!」


 もう片方、私の魔法が当たっていない無傷の魔物が、広場の空気が震えるほどの雄たけびを上げた。

 口から大量のヨダレを垂らしながら。


 2匹の魔物に威嚇され、村長さんが少しずつ後ずさりする。


「村長さんっ!」


 私の叫び声と同時に、ヨダレを垂らした魔物が飛び掛かった!


 ツヤの出た魔物に。



 突如(とつじょ)始まった魔物同士の激しい戦い。

 ヨダレを垂らした魔物が、ツヤの出た魔物の腕に牙を突き立てる。

 対する魔物も、鋭い爪を振り下ろして反撃した。


 血しぶきをあげながら、2匹はもつれ合い、広場を転げまわる。


 やはりダメージが蓄積していたせいか、ツヤの出た魔物の動きがわずかに鈍る。

 その一瞬を、ヨダレを垂らした魔物は見逃さなかった。喉笛(のどぶえ)めがけて、牙を突き立てる。


 最後の抵抗とばかりに、噛みつかれた魔物が相手の頭を何度も殴りつける。

 けど、深く刺さった牙は決して離れない。


 やがて、抵抗していた腕がだらりと力なく垂れ下がった。


 ヨダレを垂らした魔物はゆっくりと体を起こすと、動かなくなった魔物の腹に鼻を寄せた。

 クンクンと匂いを嗅いだかと思うと、次の瞬間――その腹に噛みついた!


 興奮した声をあげながら、肉を食いちぎる。

 喉を鳴らしてそれを飲み込むと、次は右腕にかぶりつく。

 骨をかみ砕く音が広場に響く。



 その様子を離れたところから見ていた村長さん。

 ゆっくりと短剣を構えると、魔物に向けて駆け出した。


 魔物は口のまわりを真っ赤にしながら、なおも肉を食らい続ける。


 村長さんが魔物の背後に回り込むと、高くジャンプして魔物の首元へと短剣を振り下ろした。

 魔物の首に短剣が深く突き刺さる。

 断末魔(だんまつま)のような叫び声をあげ、その場に倒れこむ魔物。

 その叫び声を最後に静まり返る広場。



「……何が……起こったの?」


「……旨くなったんだろうな」


「旨く?」


「お前の魔法で魔物が旨くなって、共食いを引き起こしたんだろう」


 私の……魔法で? 魔物が……おいしく? それで……共食い?


「え、え、え? ちょっと待って、どういう……え? ええええええええっ!?」


 何が、どうして、どうなったの!?

 頭の中を疑問符がぐるぐると空回りする。私はただ口をパクパクさせながら、目の前の光景とステッキを交互に見つめることしかできなくなっていた。



 そこへ、隠れていた村の人たちが歓声を上げながら飛び出してきた。


「やった!」

「村長が魔物を倒した!」

「さっすが村長だ!」


 みんなが口々に喜びの言葉を叫びながら、村長のもとへ集まっていく。

 その人垣(ひとがき)をかき分けるようにして、奥さんが村長さんのもとへと走り寄った。


「あなた……あなた!!」


 奥さんが叫びながら、村長さんの胸にすがりつく。 


「よかった……あなたが無事で……本当に……」


 震える奥さんの肩を、村長さんは力強く抱きしめた。


 その光景に、私の中でぐるぐるしていた疑問符がふっと消えた。

 村長さんが無事で、村の人たちが笑っている。

 今はそれだけでいいと思った。




 その後、村総出(むらそうで)で魔物の処理が始まった。

 こんなに恐ろしい魔物だけど、毛皮は使えるし肉も食用になるんだって。

 新鮮な肉はその日のうちに食べて、残った肉は干し肉に加工して保存食にするらしい。


 解体作業は私には手伝えないから、邪魔にならないように広場の端から作業を見ていた。

 村の人たちが慣れた手つきで魔物を解体していく。

 魔物を退治した喜びと久しぶりのお肉の高揚感(こうようかん)からか、みんな楽しそうに作業をしている。


 みんなが……笑顔になれる結果になって……本当によかったな……。


「……だめだ……ねむい……」


 まぶたが重い。

 あー、さっきの魔法で魔力を使い切ったからだ。

 だめ。起きていられない……。

 私はふらつく足で村長さんの家へと戻った。



    ◇



 魔物の肉と野菜を串に刺して、キャンプファイヤーのような炎で豪快に焼いていく。

 村中に肉の焼ける香ばしい匂いが漂う。


 その夜、広場では魔物退治を祝うバーベキュー大会が盛大に行われていた。


 大人たちは酒を()()わし、豪快に串焼きにかぶりつく。

 お祭りのような雰囲気に、子供たちも走り回っている。


 私は村長さんたちと一緒に串焼きをご馳走になっていた。


 正直、魔物の肉ってちょっと抵抗があったんだけど、食べてみると臭みもなくてとってもおいしかった。

 肉と一緒に串に刺さっている玉ねぎやピーマンみたいな野菜に肉汁が絡んで香ばしく焼かれている。これがまた最高においしい。


「魔物の肉は魔力の回復に有効だ」


 腰に装着したステッキが小声で教えてくれた。


「へー、そうなんだ!? おいしくて魔力も回復するなんて最高じゃない!」


 私は大きな口を開けて肉にかぶりついた。

 魔力を使い切った身体に染みわたる。

 串焼きのカロリーも魔力に変換されるはずだから大丈夫。だよね?


 私がむしゃむしゃと串焼きを食べていると、なにやら争う声が。


「おい、お前! そっちの肉ばっかり食ってないで、こっちのも食えよ!」

「2本も持っていきやがって! 俺にもよこせ!」


 大量に焼かれた串焼きの中に、なぜかやたらと人気のある串焼きがあった。

 たぶんだけど、あの魔物の肉が使われた串焼きだ……。


 いい大人が食べ物で喧嘩して!

 もー、しかたないなー。

 それじゃ、私からのプレゼントということで。


「レーナ・クシ・イオ」


 腰のステッキを小さく構えて、小声で呪文を唱える。

 ステッキから放たれたビームが、これから焼く串焼きの山に当たって飛び散った。

 串焼きの山がぼんやりと光り、少しツヤがでる。


 しばらくして――


「あれ? 焼き加減変えた!? なんか、さっきよりかなりおいしいんだけど?」

「ほんとうだ! なんかすげーうまい!」

「えっ? ちょっとちょうだい!」

「こっちのもうまいぞ!」

「焼くのが間に合わないぞ! もっと焼け!」


 みんな夢中で串焼きにかぶりつき、次々とたいらげていく。

 大量の串焼きが次々と炎の上に並べられ、おいしそうな煙をあげた。


 私も新たに焼きあがった串焼きをもらい、ひとくちかじってみる。


「んっ! おいしいっ!」


 気が付くと、巨大な串焼きをあっというまにたいらげていた。

 これ、自分の食事に使うの禁止にしよう。

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