第96話 奴の名はDの件
積み上げられたA◯azonの段ボール。
崩れ落ちた俺をニヤリと笑っているように思えた。
いつもなら怒りまくっていたかも知れないが、今の俺にはそんな気力はなかった。
「────今の俺には笑えない冗談だぜ」
俺はそのままうずくまった。
───────ピポッ
後ろから電子音が聞こえた。
『────オトウサン』
──────幻聴かな。
後ろからアイツの声が聞こえる。
でも、そんなわけはない。
音もせずにアイツが俺の後ろに回り込める筈はないんだから。
『────オトウサン』
─────また聞こえた。
『────オトウサン』
………………幻聴じゃない!!
青いボディーに丸目のヘッドライト、特徴的なキャンバストップ──────振り替えるとアイツが前と全く同じフォルムでそこにいた。
『────オトウサン、タダイマ。』
「───────よぉ………お帰り。」
『────ボク、カエッテコレタヨ。』
「────おせぇよ、待ちくたびれちまった」
『────約束ドオリ、ボクにオナマエツケテクレル?』
「────ああ、もちろんだ。アオマル、シリウスと来て、三つ目考える所からやり直しだ」
『────ワーイ、ウレシイナ!!』
そう言って俺の周りを静かに回りはじめた。
「────こ、これって??」
「うん、ちょっと時間かかっちゃったけど………ただ作り直した訳じゃなくて、電気自動車に生まれ変わったよ」
マナ・Bが説明してくれた。
この間のテンションとは違ってゆっくりと、しんみりと話すマナ・B。
────マナ・Bの目にもうっすらと涙が浮かんでいるようにも見える。
「────でも、すべて新しく生まれ変わったんじゃないんだ。────奇跡が起こったんだ」
「────奇跡?」
「────そうだよ、奇跡としか考えられないよ。まず一つ目の奇跡は、本来は人工知能のメモリーは、爆破前に消去される筈だったんだよ。重要機密だからね。でも、消去されなかったんだ」
「────なんで?」
「────ブルーの思いが届いたんじゃないかな?自爆はキャンセルできなかったけど、メモリー消去は実行されなかったんだ」
「それじゃぁ………」
「───そう、今ブルーと話している彼は本当にあの時にブルーをお父さんと呼んだAIそのものだよ。決して僕らが再現したものじゃない。正真正銘、君の息子だ」
「そうか………」
「─────でも、奇跡はメモリーが消えなかった事だけじゃないんだ。メモリーは本来燃えてなくなる筈だったのに、奇跡的に延焼を免れているんだ。───多分比較的初期の方の爆発で本体から吹き飛ばされたんだと思う。可能性としてはNOSのパイプから漏れた亜酸化窒素がたまった所に可燃性ガスが貯まって程よく混合されたところで着火────まぁ、推測でしかないけど、発生した爆発でメモリーが車両の外に吹き飛ばされたと言うのは確かだと思う。また、それが吹き飛ばされた先に………たまたまブルーが車で吹き飛ばした段ボールがあって、それがクッションになって─────本当に奇跡だよ」
「────そうか、色々重なったんだな。俺の暴走も無駄じゃなかったんだな。これからも毎日暴走するわ」
「────ブルー、それはやめて。」
「───それより、やっぱりTバズーカや自爆装置は標準装備なのか?」
「────そこはなんとか回避………と言いたいとこだけど、完全には回避出来てない」
「────どう言うこと?」
「────まず、自爆装置は回避出来ていない。重要機密の塊だからね。でも、今までは誰かのこだわりの液体ニ液混合式の発火装置だったから、一度スタートすると止められなかったんだけど、今度は一般的な電気式だからちょっと融通が利くよ。」
「───融通の利く発火装置って響きがイヤだなぁ」
「後は────Tバズーカは載ってない」
………何か奥歯に物が挟まったような言い方だな。
「──── なにか隠してるな?」
「────やっぱりわかる?」
「────マナ・Bは隠し事下手だからな。浮気はしない方がいいぞ」
「浮気はしないって!────っていうか、もっとヤバいのが載っちゃったんだよ!」
「────もっとヤバいもの?」
「電磁加速砲って知ってる?」
「ああ、なんかSFとかでも出てくるけど、最近はなんか本当に作ったって聞いたな────まさか、あれが?」
「─────そう、あれが載っちゃった。─────しかも2門。」
「ええ────────!?」
「これ、他国が絶対欲しがる奴。コンパクトでかつ、連射可能、砲身の熱対策バッチリ、破壊力折り紙つき…………」
「────これで俺は何と戦うんだ?」
「────さぁ?」
──────う~ん、とりあえずこの問題は棚上げしよう。
まずはこいつの名前を考えてやらなきゃな。
さっきから俺の周りをグルグルまわったり、横に動いたり………
────横?横って何?
良く見りゃ、なんかもうタイヤが自由自在に別々の方向に動いてるぞ。
もう、ディ◯ニーのキャラクターもビックリじゃん。
もう、ドリフトの軌道をスケートリンクを滑る様に滑らかに動くね。
「────うん、三つ目の候補はドリフトから取ってDちゃんとかにしよう。これでアオマル、シリウス、Dちゃんの三つが出たから、この中から選ぶぞ!」
『ワーイワーイ。デモ、"◯◯ゴウ" ジャナクテイイノ?』
「────ああ、それはもう懲り懲りだ」
『────ワカッタ!』
「────よ~し!じゃあお父さんがいい名前選んでやるぞぉ~!」
「────水を差すようで悪いけど、その前に一つ良いかな?」マナ・Bが話に割って入る。
「────なんだ?良いところなのに!」
「────多分、決める前に聞いといた方がいいと思う」
「────なんだ?言ってみなさい。今の俺はかなり寛容だ。面白くなくても特別になにもしないでやろう!」
「────なにもしないのが特別なんだ………まぁ、いいや、あのね、Dちゃんはやめといた方がいいよ」
「────ほぅ、今考えた名前を即否定か、その根拠は?────返答によっては何かするぞ?」
「────さっきと言ってる事が違………まぁ、ブルーだもんね、仕方ないか─────本題だけど、Dちゃんは総務課の課長のロッキー・Dさんの愛称だから被っちゃうかなって。だからやめた方がいいかなって」
ロッキー・D?あぁ、あの男の人が好きな男の人か。
そう言えば総務課の課長がそんな名前だったな。
「────ほほう、Dの名を冠するものはこの世に一人で充分だと言うわけだな?一子相伝か?」
「────そう言う訳じゃないけど………」
「────それじゃあ、アイツを消せと言うんだな?」
そう言って親指で首をかき切るジェスチャーをしてみせた。
「────やめて!それはやめてあげて!」
「────ふふふ、心配しなくて良い、もうすでに名前は決めているし、Dの名は使うつもりはない!」
俺は俺の目の前でワクワクしている車のボンネットを優しく撫でた。
「生まれ変わったお前は有る意味二番目とも言えるだろう。────シリウスは地球からみた太陽の次に明るい星。………だが、言い換えれば夜に一番明るく輝く星はシリウスなんだ。────お前の名前は今から『シリウス』だ!」
『────シリウス?ボクのオナマエはシリウスナンダネ!アリガトウ!オトウサン!ソレジャ、オトウサンはボクのタイヨウダヨ!』
────嬉しそうにシリウスがライトやウインカーを点滅させながら俺の周りを回る。
「────おいおい、よせよ!暴走族に囲まれている気分だぞ」
俺のセリフを聞いて壁際に整列して空気になってた奴らが大爆笑した。
────今笑った奴ら、絶対昔暴走族だった奴らだな。
────でもまぁ、この空気は悪くないな。
でも、そろそろ止めさせないとな。
「────ヘイ、シリウス!!」
壁際で整列していた奴らの何名かのポケットから電子音の後、『何かご用ですか?』と声がした。
──────うう、この名前もちょっと問題有っただろうか?
ブルーの相棒はシリウス君になりました。
今はセリフを文章にするとカタカナでしゃべります。
全部カタカナだと伝わらないので、平仮名、漢字を織り混ぜるので、入力が大変です。
シリウス君の成長を理由にそのうち普通に日本語を………とは思いますが、個人的には片言で話すシリウス君はそのまま残したいかなーとも考えています。
ブルーは人間以外には優しいのでシリウス君を今後も可愛がっていくでしょう、
司令などへの当たりは今後も厳しいでしょう。
───で、まだまだ冒険に出ないでしょう(笑)




