第80話 失敗したモンキービジネスの件
────騒がしい原因はすぐにわかった。
昨日出来た弟と妹達………もとい、陽キャ達と久眠の出待ち軍団が揉めている。
────お前ら何揉めてるのかわからんけど、世の中love&peaceだ、もっと仲良くやれ。
────もし騒ぐなら俺に迷惑かからない場所でやれ。例えば………海の底とか地下闘技場とかな。
────俺は集団に気づかれないように、そーっとバスに乗り込もうとした。
「───あ、アニキ!!丁度良いところに!!って無視しないでくださいよ!」
───無視とかいうな。それに何度も言うが、俺は生まれてこのかた一人っ子だ。
────でも、まぁ………なんか慕ってくれる奴らをほっとくわけにもいかないか。
────ここはいっちょ腹くくっておちょくってやりますか。
問題はゴンちゃんのサポートが受けられないってことだけど、アイちゃんに警察でも事前に呼んでおいてもらうか。
────この際だ、おれは国家権力をフルに活用するぞ!
「───アイちゃん、これから騒ぎになるかもしれないから準備宜しく」
俺は小さな声でスマホに囁いた。
『は~い。Tバズーカでいい?』
───この期に及んで何を言うのだ、この電脳1/3小娘め。
大量破壊兵器と呼べなくもない兵器を俺にブッ放せというのか。
………ここに大きな屍の山が出来るぞ。
───それこそ、明日の全国ニュースだわ。
「アイちゃん、問題にならないように手段考えて頼むよ!」
『───ラジャー了解!』
さて、アイちゃんが手を回してくれるまでの時間稼ぎと行くか。
「────楽しそうにしてるから邪魔しちゃ悪いなって───」
思いっきりの愛想笑いで皆に近づく。
笑うのに慣れていないから、ひきつってるのが自分でも良くわかるよ。
「─────楽しそうなんて、違いますよ!こいつらが姉御を無理矢理連れ去ろうとしたんですよ!」
良くみたら陽キャ達の後ろの女性達に久眠が匿われているね。
────君達の事、お兄さん少し見直したよ。
────でも俺はまだお前達を弟妹と認めたわけじゃないぞ!
「─────ガキ!人聞きの悪いことをいうな!こんな危ないバスで送り迎えをするより、我々が日替わりで車の送迎をした方が安全だと言っているんだ!」俺の近くの出待ち男が大声で喚く。
────ああ、昨日のバスの事故の件を口実に車に連れ込もうとしてるわけね。
「─────悪いね、じゃよろしく頼むよ?」
そう言って俺は一番近くの車の後部座席のドアを開けた。
「─────か、勝手にドアを開けるな!」
「───あ、ドアまで開けてエスコートしてくれるの?嬉しいなぁ~。おーい、みんなちゃんとエスコートしてもらえよ~」
「───だ、誰がお前らを乗せると言った!?」
「─────バスが危ないから車の方で送るって言ったじゃん!」
「─────なんでお前らみたいに見ず知らずの人間をわざわざエスコートしなきゃならないんだ!俺達は久眠さんに言っているんだ!」
「────お~い、久眠さ~ん!久眠さんはこの人達の事知ってる~?」
俺はちょっと離れている久眠に向かって「さん」づけで呼び掛けた。
取りあえず、オフィシャルでは『さん』付けにするべきだからな。
「いえ────皆さん私の姉に求婚されていた方々としか知りませ~ん」
「─────だってよ?とっとと帰んな!」
「──────そうはいかん!」
陽キャ達がガンつけまくって威圧してるけど、相手は引く気はないらしい。
「─────久眠さんのお父様にはお話が行ってるはずですが?」
「─────ご存じないかもしれませんが、父は婿入りしてきた一般人です。我が家は実質母が当主ですので父では話になりませんね!」
「─────我々はあなたを心配して………」
「─────心配?────違いますよね?────あなた方は私の先触れの力を手に入れたいだけですよね?────そうすれば私の父のように巨万の財をなせるとお思いなのでしょう!?」
「─────そんな……誤解です!我々は既に富を持っています!今さらあなたのお父様のようになりたいなどと………」
「─────では、母に連なる政財界にご興味がおありで?───無駄なことはおよしなさい!」
一番前の目付きの悪い男がため息をついた。
「─────強情なお嬢様だ。こんな手は使いたくなかったのだが………」
目付きの悪い男がスマホで誰かと話しはじめた。
────う~ん、バスが動けないように車を配置して道路を塞いでいるし、なんかわからんが、こいつらいつもと違うな。
「─────警察を呼びますよ!」
「─────なんだ、まだ呼んでなかったのか?呼べ呼べ、呼べるもんなら早く呼んでみろ。────まぁ呼んでも無駄だがな?」
今日のバスの運転手に駆り出されたやせっぽちの教官が出待ち軍団に軽くあしらわれている。
───こいつら、警察をどうこうできる権力を持ってるのか?
もし、警察と癒着とか、警察がそんなに腐っているならT.O.F.Uの全てを使って嫌がらせしてやるけどな。
───そう言うことなら俺に任せておけ。
───少し膠着状態がつづいたが、少しすると大きなワンボックスカーが何台もやって来た。
なんかやな予感!
───良くアウトローな映画とかで出てくる悪役登場って感じじゃない?
────電話してからあまり時間かからなかったけど、近くに控えてたの??
────それっぽい人は大体トモダチだからすぐ集まれ~で集まっちゃう感じ?………なにそれ。
そんでぞろぞろ出てきたぞ………。
────ひぃふぅみぃよぉ………イッパイ。
────悪そうなのがイッパ~イ。
あぁ、アイちゃんに頼んだけど、対応間に合わないかもなぁ。
この感じだと警察も丸め込まれてるか、道路を封鎖して警察が通れないようにしてるかどっちかだな。
────最悪は俺の変身………か?
─────でもそれはいやだなぁ。
─────俺は辺りを見回した。
───このメンバーの前で名乗りってすごく嫌。
────あと、ニヤニヤしながら車から出てきた奴らの中には手に刃物とか金属バットとか持ってる奴がいるんですけど!
────あんなんアリですか!?
うう………やっぱ俺の人生ハードモードだなぁ。
─────心配そうにこちらを見る久眠と目が合う。
───まぁ、ここは仕方がない、アイちゃんの助けが来るまで、しこたま殴られるのは覚悟しとくか。
────最悪俺一人くらい死んでもポッドの空きがもう一個あるからな。
──────あ、なんか嫌な考え方!
─────痛いの反対!
─────なるべく未知博士のご厄介にならないようにしなきゃ。
「─────アニキ!危ない!!」
陽キャの叫びに反応して、俺は咄嗟に後ろに飛び退き金属バットのフルスイングをかわす事が出来た。
───変身してなくても反射神経だけは良いんだよな。………この辺はなんか未知博士に体を弄くられてる可能性が高い。
まぁ、筋力とかは人並みだが、何かを避けるのだけは人より優れているかもしれない。
「────皆はホテルに避難しろ!」
殴りかかってきた男をヒラリとかわして伸びきった腕を掴み引っ張る。
ドラマの殺陣のように綺麗に相手の体が弧を描く。
「────!?」
あ、みんなビックリしてる!
───だよねー、だよねー?
───まさかこんな冴えない男が華麗に投げ技決めるとか思ってもみなかったよね!
─────ちなみに、投げ飛ばした俺が一番驚いてるよ。
「────この野郎!!」
ガタイの一番いい男が俺に殴りかかってきた。
────ブンブン振り回してるのは正直怖くなかった。
集団に囲まれながらも相手の攻撃を避けるのはG-バースト団との戦闘でコツはつかんでいた。
────でも、それがちょっと油断の元だったな。
「!!」
突然後ろから羽交い締めにされてしまった。
まずい────ピンクとミクスチャーにやられた時のパターンだ。
「────ちょこまかしやがって!!」
───ん!今のはフラグか?
ドラマでも映画でも、その台詞を吐いた奴がやられなかったパターンは記憶にないぜ!
「シネオラ────!!」
俺のボディに大きく振りかぶったボディブローが入った。
────ボキボキと骨が砕ける音。
────叫び声が上がり、殴りかかった男が拳を押さえてのたうち回る。
周りがざわめいた。
「────な、なにをした!?」
「────俺の腹筋は鋼鉄製なのさ」
羽交い締め状態で固定された俺の変身ベルトをおもいっきり殴り付けたんだからこうなるわな。
───想像してごらん?壁に据え付けた鉄の塊を。
───ほら、簡単だろう?
(これ以上は怒られるかも知れないので省略)
─────だが、羽交い締めが解かれたわけではないし、俺の方は正直手詰まり。
「───ムカつく野郎だ!」
金属バット野郎が一歩前に踏み出る。
────金属バットを振りかぶる。
───お願い!初めてだから痛くしないで!!
思わず目を閉じた。
────ゴン!!
凄い音がした。
「……………。」
─────あれ、痛くないぞ?
それになんか俺に寄りかかってる………?
────ゆっくり目を開けると、そこには俺に覆い被さる久眠がいた。
────それを見て一瞬で毛穴が開き、髪の毛が逆立つのを感じた。
「────なんで逃げなかった!?────あんたにもしもの事があったら、俺の覚悟の意味がないだろ!!」
おれの呼び掛けには答えず、久眠の目は閉じられたままだった。
───殴られるって痛いんだぞ!
────死ぬって辛いんだぞ!?
────俺と違ってお嬢様育ちのあんたには、そんな経験無いだろ!?
───なんで逃げなかった!?
───なんで俺を庇った!?
────俺は無我夢中で羽交い締めを振りほどき、バット野郎に飛びかかった。
────何度も金属バットで殴られて意識が飛びそうになった。
────でもコイツだけは許さねぇ!!
────アイツ………久眠は街の小さな花屋で働くことに喜びを感じ、カップラーメンを嬉しそうに頬張る………そしていただきますを忘れない………アイツはそんな日常に幸せを感じていたんだ!!
「────お前らみたいな奴らは、アイツの日常に踏み入るな!────土足で踏み荒らすな!!」
────金属バット野郎をタックルで押し倒し、馬乗りになって殴り付けた。
しかし俺はすぐに引き剥がされて地面に押し付けられてしまった。
「─────アニキ!!」
陽キャ達がこっちに向かって来るのがわかった。
「来るな!─────俺はいい!久眠を!」
──────誰でもいい……頼む、早くアイツを助けてくれ………
───殴られすぎたからだろうか?
意識が朦朧としてきた………。
────誰に何を頼むんだ?
─────何を人任せにしてんだよ、俺。
──────今までは、いつでも自分独りでなんとかやってきたじゃないか。
───────都合が悪くなると人任せか?
──────俺には変身ベルトがあるだろ?
────なんだ?皆に知られたら今の日常が変わることを恐れて変身出来ないのか?
─────今の日常ってなんだ?
──────お前の正体がバレることが怖いのか?
──────目の前の女を失うことが怖いのか?
へへへ…………なんだよ、変身しようがしまいが、もう俺詰んでるじゃんか。………笑ってしまう。
────何を迷ってたんだ。
────俺の正体バレたら別にこいつらの前から消えれば良いわけで………。
───今アイツを助けてやれるのは俺だけだろ??
────何を迷ってたんだ。
いつも中途半端な事ばっかやってるから、いざという時こんなになるんだよな………。
────皆、ごめんな、もっと早くこうしておくべきだった。
「───T…………O…F………U……変……身!」
────痛みに耐えながら俺は変身ベルトに手をかざした。
しかし、俺かけ声は虚しく響き、俺が変身することはなかった。




